7 こんらん
無事におとり捜査が終了し、このまま直帰することになった。
桜雅さんは、先程の少年と一緒に身元引受人が来るまで待つそうだ。
零係の説明も簡単にして、最低限必要な守秘義務の書類等にもサインが必要とかで面倒くさそうにしていた。
それだけでなく、子供が能力発現する理由には、家庭環境に問題があることも多いようで桜雅さんは、そっちの心配をしているようだった。
口や態度では、分かりにくいが本当は、面倒見のいい人だ。
和みんが懐く理由も分かる気がした
「そういえば、和みんから連絡一度もなかったですね」
「そうね。 あれだけ愚図っていたから、五月蠅い連絡あると思っていたわ。 遥絆ちゃんと夢中に遊んでいるのかしら?」
「寝とんやないか? わいもひと眠りするわ」
サンタが俺の膝の上を枕代わりにしてくる。
「遅くなってしまったし、帰ってること連絡しておきますね。 途中で甘いもの買いたいので、どこかに寄って欲しいです」
寿さんが和みんへのお土産だと、すぐに気付いてくれた。
帰ったら、20時過ぎてしまう。
お腹空いたけど、遥絆をお風呂に入れて寝かさないと…。
そう、思いながら和みんにメッセージを送る。
すでに遥絆と一緒に寝てる可能性もあるなぁ。
今日暑かったから、寝る前にお風呂入れておきたかったんだけど、起こすと機嫌悪いし、寝てたら朝早めに起きて入れなきゃなぁ。
夏休みの宿題もしないと…。
バイトが終わってもやることは、まだある。
今日の終わりがまだ来ないことに溜息をついた。
「本当にお邪魔してもいいのか? 結城?」
東条警部は、俺の家からの方が自宅に近くなるようで、寿さんに晩御飯食べて帰ることを提案され、一緒に帰宅していた。
「全然大丈夫ですよ。 賑やかな方が遥絆も喜ぶので人が増えるのは嬉しいです。 あ、結城で遥絆も反応しちゃうので暁澄でいいですよ」
「5歳だったか? 子供は、どうも苦手で大丈夫だろうか…」
「遥絆ちゃん人見知りしないから、東条でも大丈夫よ」
運転中の寿さんが遥絆のことを話していた。
確かに東条警部は、子供に無縁な感じがする。
俺は、小学生の時に父と帝王切開の出産に立ち会っている。
遥大と遥絆の生まれた時を今でも思い出せるくらいに感動した。
そのあとも父と一緒におむつの交換の仕方やお風呂の入れ方まで病院で一緒に指導を受けた。
今、思えば母が俺を子育て要員の一人に育て上げた気がする。
小さ過ぎて、怖いくらいの弟と妹のことを何でも興味があるうちに一通りさせられた。
そのお蔭で双子育児に母が疲れて寝ていても俺が泣いている方をあやしながら、ミルクか冷凍されている母乳を準備してあげたり、オムツを交換したりしていた。
学校帰りに未来も来ていたから、一緒に遥大と遥絆にミルクあげたりしていたなぁ。
さすがに赤ちゃんのお風呂は何かあったら危ないからと、必ず父と一緒だった。
その経験と教育に今は感謝している。
母さんのお蔭で遥絆と一緒の生活も普段と変わらない日常だよ。
助けてくれる人もいるし、本当に俺は恵まれている。
「あら? 寝ているのかしら…」
サンタの頭を撫でながら、昔を思い出していたら、家についていた。
確かに、静かで電気もついていない。
携帯のメッセージは既読になっていた。
いつもなら、速攻で返信くるのにスルーするなんて、珍しい。
余程、ご立腹なのだろうか…。
手土産忘れないで良かった。
「ただいまー」
遥絆が寝ていることを考慮して、あまり騒がないように家に入る。
サンタにも騒がないように注意する。
リビングに入って電気をつける前に違和感がした。
エアコンのついていない暑い室内。
料理もしていない匂いのないキッチン。
人の気配がない…。
バサッ
荷物を無造作に床に置く。
「俺、二階見てきます」
慌てて寝室へ行く階段を駆け上がる。
遥大と遥絆は、父と母と一緒の寝室でフローリングいっぱいに敷布団を敷いて寝ていた。
俺の部屋のベッドは、遥絆と一緒に寝るには狭いから、寝る時だけ前と変わらないようにフローリングいっぱいに敷布団を敷いた部屋で遥絆と一緒に寝ている。
一度、遥絆を寝かしつけた後に自室で勉強した疲れを回復しようと、ちょっと横になるつもりが、そのままベッドで眠ってしまったことがあった。
その時は、夜中に目が覚めた遥絆の号泣音で起こされた。
一人で眠るのは、怖いみたいだ。
無理もない。
今、傍にいる家族は俺だけだから…。
ガチャ
ムワッと暑い空気を感じたが、電気をつけて確認する。
いない!?
和みんが泊まって行く時は、俺が自室で寝ている。
和みんが遥絆と一緒の部屋で寝てくれているからだ。
一応、自分の部屋も覗いておく。
いない…。
遥大と遥絆が小学生になってから使う予定の空き部屋を寿さんが使っている。
開けるなら、断りを入れるべきだが、気が動転して、慌てていて気が回らない。
いない!!
「あ! 風呂場…」
リビングに人が帰っていた形跡はなかったが、急いで駆け下りる。
「はい。 失礼します」
寿さんが電話を切っている所だった。
「上にもいなかったのね?」
「はい」
「一通り下も見て回ったが帰ってきた様子はないようだ」
東条さんがそう言った。
「今、保育園にも連絡したのだけれど、17時半頃には、予定通りに天祥ちゃんがお迎えに来たようよ」
「そんなっ!?」
「ごめんなさい。 暁澄君が狙われている可能性があって危険な事は知っていたのだけれど…」
「迂闊だった。 本当にすまない」
何の話だろうか。
俺が狙われている…?
どうして、俺ではないんだ!?
どうして、遥絆と和みんなんだよ!!
「こういう時、どうするべきですか?」
何も聞いていない。
俺は、まだ守られる立場だからだろうか。
まだ能力も使いこなせない。
無能だからだろうか。
こんな時に足手まといにはなりたくない!
「保育園からココまでは近いわ。 足取りを辿ってみましょう。 何か手掛かりが残っている場所がある筈よ」
「はい。 あ!! 遥絆のテレパスは!?」
「さっきから、ずっと声を掛けているのだけれど…。 夢も見ない程に深い眠りか、何かの能力で遮断されているのか…」
「もしかして、最悪な事が起こってる可能性もありますか!?」
遥絆が能力を使えないのではなくて…。
もう…。
この世にー…。
「大丈夫だ。 誘拐なら人質が亡くなることはない」
「じゃぁ、誘拐ではない場合は!?」
「落ち着きなさい。 きっと、狙いは君だ。 暁澄!」
東条警部が俺の両肩を掴んで真っ直ぐに俺の目を見て話してくれる。
「何の情報も掴めていなかったから、話していなかったが暁澄が事故に遭ったのは偶然ではない。 君が狙われた事故だった」
「その情報しか、今は分かっていないの。 伝えていなくて、ごめんなさい」
あの事故がっ!?
そんな…。
あの日、俺が皆と出掛けなければ、こんな事になっていなかった…?
どうして俺なんだ!?
PURURURURURURU…
俺の携帯から、着信音が鳴り響く。
「和みん?」
ディスプレイの表示を見て思い出す。
そう言えば、和みんへのメッセージが既読になってた。
電話を取ろうとして、寿さんに制止させられる。
「犯人からの可能性があるわ。 スピーカーで出て貰っていい? それと電話会社のGPSの位置情報機械を想像できる?」
「はい! やってみます」
和みんの携帯一台の情報の把握でいいし、既にある機械を盗み見るだけならば、タブレット位の小型で十分だ。
ボンッ
空想しやすかったから、すぐに出てきた。
言われた通りにスピーカーで出る。
「和みん!!」
和みんであって欲しい気持ちを込めて問いかけてみた。
「おかえり」
!?
聞いたことのない、知らない低い男の声だった。




