5 おとり
「東条警部! 一斑は、定時で上がれたのに手伝って貰って有難うございます」
「丁度タイミング良かったし、気にするな。 それで私は、何をすればいいんだ?」
「寿さんから聞いてないですか?」
目的の公園へ向かう車の中。後部座席で俺と桜雅さんが目を見合わせる。
東条警部の余裕な態度は、何も聞いていなかったからか…。
公園で散歩している夫婦やカップルがいるのは、当たり前の光景だ。
それが最近、目のやり場に困るカップルが急増しているそうだ。
サンタと一緒に昨日、見回ったら、能力臭が残っているそうだ。
今日は、その匂いの犯人が現れるのを待つ、おとり捜査になる。
そこで、カップルとなるメンバーだが、俺は若すぎる。
一応、ギリ未成年の和みんも却下された。
桜雅さんと寿さんは、年齢差があるという事だったが…。
「若返るから問題ないわよ」
「いやいやいや! 暁澄の能力があったとしても、もしも理性の箍が外れてしまった場合は、誰が犯人確保するんスかっ!?」
「それもそうね。 そうならないように暁澄君を連れて行くのだけど…。 しょうがない。 あいつの手が空いていたら頼んでみるわ」
そのあいつが東条警部でした。
「マジ良かったぁ! 上手く東条警部、巻き込めて♪」
「あー…。 だから、和みん機嫌悪かったんですね…」
俺が遥絆のお迎えに行けないから、迷惑を掛けてしまった…。
今日の和みんのデザートは、奮発してあげよう。
「ところで、暁澄! あの二人の理性は、止めなくていいぞ!」
「えぇ!? それはダメですよ!」
「そのくらいしないと、あの二人は進展しないんだから、イイって♪」
「わいもええと思うぞ!」
「サンタまでっ! 何言ってるんですか!? 能力で同意を得たとは、なりません!!」
「主任の事だから、暁澄の真面目さ考慮して連れてきてんなぁ。 チッ!」
「あっきーが頭硬いんとちゃうか?」
この動物達の脳が緩すぎる!!
能力で理性外されたカップルが野外であんな事やこんな事をしてしまう公然猥褻罪が多発しているなんて…。
幼稚園児のいる親は、堪ったもんじゃない!
犯人は、思春期真っ只中の中学生位だろう。
何も深く考えずに興味本位でこの動物達の様に楽しんでいる。
「サンタは、早く犯人の匂い見つけて下さい!!」
被害に合っていないカップルもいるようだから、何か発動条件があるのだろう。
人の心を考えない安易な行動…。
本当に質が悪い!
辺りは暗くなり、公園の外灯で照らされた寿も綺麗だ。
如何!
首を振り、喝を入れ直す。
囮捜査とは言え、任務遂行中だ。
しかし、何だ…。
「寿? 近くないか?」
「そう? 普通じゃないかしら?」
その通りだ。
公園のベンチに座って、腕を組んでいるカップル。
至って、自然だ。
何も可笑しいことはない。
だが、私の右腕が全神経を集中させてしまう!
寿の…。
寿の…!
この感触…。
…柔らかいではないか!?
右腕に全神経が集中してしまうのは仕方ないとして、私は、この右腕を一ミリたりとも動かしてはならない。
「東条? 何か硬くない?」
!?
急に覗き込んでくる寿。
寿の体勢が変化することで私の右腕は、深く埋もれる。
「…いや。 まだだ」
「そう? 緊張しているのかと思った。 私相手にそれは無いわよね」
「………」
そっちか!?
それはそうだ。
私としたことが…!
寿相手では、駄目だ。
尋常な精神を保てそうもない。
捜査員ではなく、只の囮と化してしまう。
次からは、断らねば、任務に支障が出る。
「カップルなんて久しぶりだわ。 どうすれば、能力犯が興味を持つのかしら? あ! 東条、言うまでもないと思うけど、抱き合うまでなら許すわ! それ以上は、無しよ!」
!?
如何!
「当たり前だ! 次からも何時でも私を頼れ!」
他の奴に任せて堪るものか!
「それにしても凄いわよね。 今回の能力。 当の本人達は、二人っきりの世界だと思っていたって皆、口を揃えていうのよね。 そうなると、至近距離で見ているはずだから、かなり近くにいると思うのよね」
「全く! こいつには、能力の使い方を丁寧に教えてやらねば、思春期なら、また繰り返しそうだ」
先程から、寿の距離感が更に近くなっている気がする。
私は、右腕を動かしては断じていない!
それなのに右腕は、すっぽりと…。
包まれている!?
これは、どういうことだ?
右腕が柔らかさの極致にいる!
右手は、膝の上だ!
!?
寿! 何故お前は、生足なのだ!?
さっき、車で囮のために着替えていたが、もっと徹底してガードをしなさい!
寿の手が私の右手を恋人繋ぎの様に絡ませてくる。
「東条の手。 大きいね。 なんか…守られているみたいだわ」
寿の見上げる仕草がいつもより近いせいで上目遣いの位置にある。
「こ…寿!? は、初めて手を握ったからだろう?」
「…そうね。 ねぇ。東条…」
寿の左手は、私の右手を絡ませながら…。
寿の右手は、私の右手の甲を撫で回し始める。
寿が自身の右手を見ながら、私の手の甲から、腕、肩へとゆっくり触れていく。
自然と寿の方へ屈むような体勢になり、益々距離が近くなっていた。
「もっと色んな初めて、してもいい?」
!?
夢だ!
夢だ!!
!!
違う!
もっと冷静になれ!
これは、囮捜査中だ。
寿は、抱きしめるまでと…。
本当に抱きしめて良いのか!?
「もうっ!」
寿の右足が私の右足の上に乗ってくる。
私の右手は、寿の生足の間に挟まれてしまう!?
「焦らさないでっ!」
潤んだ瞳の上目遣い。
「………っ」
これが…。
これが寿の素直な可愛い反応なのかっ!?
分かった。
分かったぞ。
もう、寿は能力に掛かっている。
何故!?
何故、私は掛かっていないのだ!?
犬ッころよ。
私の理性があるうちに早く能力犯を見つけてくれ!




