1 ただいま
第二章突入です。宜しくお願いします。
ミーンミンミンミンミン…
あー…暑い。
紫陽花の季節に俺は、九死に一生を得た。
そのせいで変なことが出来るようにもなってしまった。
例えば…。
「キャーーーーー」
女性の悲鳴に驚き後ろを振り返ると凄いスピードで走り去っていくバイクが横を通り過ぎて行った。
「そのバイクひったくりよ!!」
そう言った女性が盗まれた反動で転んでしまったのか、地面に倒れて叫んでいた。
バイクの運転手の右腕には、確かにバイク運転中とは思えないバッグをぶら下げていた。
「よしっ!」
まだ使い慣れていなくて、何を使うか迷ってしまう所が俺の欠点である。
そう思いながら、スターティングポーズをとってみる。
よーいどんっ。
目にも止まらぬ速さでバイクに追いつく。
人が走っていることが分からない位の速さでバイクのハンドルを操作してみる。
丁度いいところに交番が目についたからだ。
キキーッ
「お巡りさん。 このバイクの人がさっきバッグを盗んでましたよ」
バイクを交番前に停車させて、通行人かのようにサラッと伝えて通り過ぎて行く。
バイクの運転手は、何が起こったのか分からず、周りをキョロキョロ見回している。
そう!変な事とは超能力だ。
それも空想・創造実現能力と言う変な能力のお蔭で俺の身体能力は、尋常ではなくなるのだ。
先程も欠点を言ったが、便利なようで想像力も乏しく、頭の回転が良い訳でもない俺にとっては、宝の持ち腐れだ。
そんな俺の宝物は、別にある。
家族だ。
それから、大切な幼馴染。
今まで言葉にしたことがないから、恥ずかしくなる。
きっと、これからも面と向かって口にすることはないだろうが、失ってから思ってしまう事は多々ある。
もし、また会うことが出来るなら、幼馴染の未来には気持ちを伝えよう。
今まで、お互いの気持ちを知っていて心地よさに甘えていた。
気持ちを伝える事で何か変わる事があるわけでもないだろうが、失って言葉にしたくなるなんて皮肉だ。
その大切な両親と幼馴染は、行方不明だ。
状況から考えて、もう…。
でも遺体となる証拠がない以上、少しくらい希望を抱いてもいいだろうか…。
行方不明の車に乗っている両親と未来は、海の中の筈なんだ。
それなのに何故か、俺の能力でその車が出てくることはなかった。
警視庁管轄の専門家曰く、どうやら他の能力の妨害を受けていると言われた。
よく分からない。
妨害して何のメリットがあるのだろうか。
最近あった事を悩みながら歩いていると、目的地に到着していた。
〟あーにぃ! まだ~?〝
突然、声を掛けられ思わず声に出してしまう。
「もう着くよ」
周りの人の視線を浴びる。
思わず、携帯電話で話している素振りを見せて、電話を切る仕草をする。
ここは、病院だ。
静かな待合室で頭を下げながら、エレベーターに乗る。
エレベーターが開くと満面の笑みをした妹が待っていた。
「あーにぃ! 見てみて!」
嬉しそうに新しいワンピースを翻しながら見せびらかす姿は、堪らなく可愛かった。
「すっごく遥絆に似合ってるよ。 後でお礼を言おうな」
「うん。 ことねぇに早く会いたいな」
退院が決まってから、一緒に住むことになった挨拶も兼ねて、寿さんが病院へ訪れていた。
その時に持って来ていた物が退院当日に来て欲しいと渡された退院祝いだった。
「遥絆ちゃん、昨日から待ちきれなくて、朝早くからお着換えしてたんですよ」
「かみもかんごしさんがかわいくしてくれたの~。 どう?」
「可愛すぎるよ」
5歳でも女の子なんだなと、思いながら可愛い天使を抱きしめる。
お世話になったお礼に菓子折りをお渡しして、病院を後にする。
「おうち♪ おうち♪」
家の近所の知っている道になってから、遥絆が歩きたいとバスを降りた。
久しぶりの外だ。
嬉しそうで安心する。
両親も双子の弟もいないから、心配していた。
寂しがるのではないかと…。
最初は、俺も未成年だから、祖父母も亡くなっていない俺たちは、叔父の家に行く話が親戚の中で出ていた。
一人娘がいなくなった未来の両親も俺の事を息子のように思っているから、家に来てもいいと言ってくれていた。
そこに寿さんが出てきたのには驚いた。
「後見人としては、子育てもしたことのない未熟者ですが、貴方達を守る事に関しては、誰にも負けないわ。 それに暁澄君の探し物に関しても一番近くで情報が得られるはずよ」
その言葉に俺は、寿さんと一緒に暮らしたいと親戚を説得した。
未来の両親にも遺体が確認出来ていない以上、俺は両親も未来も亡くなっていると思っていないと伝えた。
また、今までのように遊びに来て欲しいと未来の両親は言ってくれた。 二人の言葉が凄く嬉しかったから来た時は、未来の部屋を掃除させて下さいと伝えた。
今後、住むところは、寿さんが遥絆の事を気遣ってくれて、環境を変えない方がいいんじゃないかと言ってくれた。家には、部屋も余っているし願ってもない提案だった。
お蔭で遥絆は、ご満悦に浮かれている。
「はるが帰ってくるまで、はるの物、キレイにしておくんだぁ」
「遥大に退院のこと伝えた?」
「うん! でもね。 昨日からはるねてるみたい。 たまに長いじかんお話できなくなるの」
「そうか。 疲れてるのかな? 早くお話したいな」
「お話できるようになったら、あーにぃもいっしょにお話しようねっ」
「頼んだぞ! 遥絆姫~!」
遥絆を抱きかかえて、高く持ち上げる。
「きゃーあはははは」
遥絆の笑い声が前と変わらない日常で心地いい。
遥絆の独り言がテレパスだと知ったのは、寿さんが病室に来た時だ。
会った事のある人とならば、遠く離れていても話せるようだ。
そのお蔭で寿さんは、忙しくても遥絆と会話して距離を縮められたと言っていた。
まだ、人の感情を勝手に聞きとることまでは、出来ないみたいだが、そもそも、テレバスがそんな事まで出来るとは知らなかった。
5歳の子供が人の心の内まで知らなくていい。
いつか出来るようになってしまった時が怖くて堪らない。
「さぁ! お家到着」
「ドア、はなが開ける!」
ガチャッ
「ただいま!!」




