18 標的
あれから、魔女はいなくなり、被害者もいなくなった。
無事に逮捕状も取り下げられた。
被害者がいなくなったのは空想・創造実現能力で足を元に戻したからだ。
被害者二人と会わせて頂き、あのいけ好かない口の悪い記憶改竄男、佐城太基巡査部長に魔女の記憶を消して貰った。
寿さんが許さないと言っていたことは現実になり、佐城さんは能力犯罪や危険犯罪を取り締る一斑の任務には向かないとして、能力整備や業務処理などの五班へ移動となっていた。
この一件で寿さんは、怒らせてはならない人なのだと認識した。
あの後から、今まで通り自分の家で生活していた。
誰もいない家で家族がいたことを実感しながら、片付けも出来た。
あの事故に遭った日の朝のグラスを片づけたり、食洗器の食器を棚に戻したり、新聞を片したり…。
自分自身の時間が動き出したことで部屋の時間も動かすことが出来るようになった。
被害者がいなくなったことで俺の犯した罪が消えるわけではない。
だから、寿さんに罪を償うことで俺に出来ることはないかと相談した。
「結城君は、責任を取って元に戻しているから十分償っているわ」
そう言われてしまった。
それでも納得がいかなくて、俺に出来ることはないかと、もう一度お願いしてみた。
悩んだ後、一考してみると寿さんが言ってくれた。
「おい! 寿はいるか!?」
「東条警部! 主任でしたら、特室で汗を流すって一人で行ってましたよ。 東条警部ファイティンです!!」
「あ? ああ。 天祥さんありがとう。 急ぎの案件だから行ってみるよ」
「残念だったな天祥。 あの人、応援されている意味が分かってなかったぞ」
「えぇ~!! だって、だって、特室に二人っきりですよ!? 告白の絶好のチャンスじゃないですかぁ!」
「今度は、応援じゃなくて、告白しろと言えば、さすがに分かるんじゃないか?」
「なるほど! 桜雅もたまには良いこと言いますね。 次こそは必ず!!」
地下8階。
寿は、昔から考え事がある時は、身体を動かしていた。
今も何を悩んでいるのか…。
きっと、俺には教えてはくれないだろうな。
そう思いながら、ガラス窓を見るとシミュレーション映像と格闘をしながら、上部の壁にポールまで設置して、高所でも格闘している幼児の姿があった。
いつもの10代位で鍛錬していると思っていた。
何故、幼児なのだ!?
驚きつつも表情に出さないよう部屋に入る。
「そんな5歳児この世にいないぞ!」
「東条。 丁度よかったわ」
ばんっ
首筋に幼児の足蹴りとは思えないほどの衝撃が飛んでくる。
「お見事! 久しぶりに付き合いなさいよ」
パンッ バンッ パシュッ
そう言いながら、ジャンプして何発かストレートパンチを飛ばしてくる幼児の拳を受け止める。
「それよりも内密な緊急事態だ」
ストンッ
「そういう事は、早く言いなさい! 喉も乾いたし、向こうのリビングにしましょう」
「ああ。 しかし、何故その姿なのだ?」
「この姿が一番相手を油断させれるからよ」
そう言って、腰に手を当てた幼児が妖艶な笑みを見せる。
「あー。 その、なんだ…。 お茶でいいか?」
先に急いでリビングまで歩いていく。
私は幼児趣味なんかでは決してない!
断じてない!
相手が寿澪だからだ!!
子供の頃も可愛いではないか。
この私が油断する位だ。
油断しない男がいない訳ないであろう。
「天祥ちゃん? 桜雅呼んでくれる? あ、桜雅? 特室のリビングに盗聴防止用のバリアを張ってもらえる? そう。 外界は一切シャットダウンでいいわ。 ありがとう」
寿が配慮して電話をしていた。
「すまない」
先程、武下がいたから、私が声を掛けておくべきだった。
以後、気を付けるとしよう。
「それで?」
水を一気に飲み干して聞いてくる。
お茶と水の両方を用意しておいて正解だった。
「ああ。 結城暁澄君の事故の運転手が危険運転致死傷罪で送致されていたのは知っているか?」
「もちろんよ。 ブレーキ痕の一切ない居眠り運転だったのでしょう?」
「ああ。 それで拘置所にいたんだが、運転手の同室者2名が死亡したよ」
「!?」
「運転手への差し入れされたクッキーが青酸カリの毒入だった。 その運転手本人は、席を外していて運良く毒入りクッキーを食べていなかったのだがな」
「それって、口封じ?」
「そうだろうな。 それをきっかけに自白してきた。 ある男に結城暁澄が乗っていたワゴン車の写真を見せられ、事故を起こすように金で頼まれたと検察で言ってきたそうだ」
「えっ!? 結城君が狙われて事故に遭ったってこと?」
「それが…。拘置所から今日呼び出されてな。 運転手は、トイレで泡を吹いて、心停止していた。 怪しい証拠は一切検出されなかった」
「そんな!? こんなタイミングでっ!?」
「そう! こんなタイミングで死ぬ方が不自然だ。 毒入りクッキーも弁護士が持ってきた物だ。 調べたら、その弁護士は別人だった。 映像は口元しか映ってなかったよ。 こちらが調べているのが分かっているかのように気味悪く、ほくそ笑んでいた」
「何なの!? そいつ!! そもそも、そんな証拠が残るようなもの持ってこなくてもいいじゃない! 証拠を残さずに心停止させる事ができるなら…。 何のために…!?」
「宣戦布告!」
「零係に対する挑戦状ってこと!?」
「考えたくはないが警察官か拘置所に能力者がいる」
「そんな…。 一応その拘置所にサンタを連れて行ってくれるかしら?」
「もちろん。 そのつもりだ。 相手は、少なくとも三人以上の組織だ」
「結城君は、まだ狙われているのかしら?」
「事故に遭わせた目的が分からない以上、その可能性は否定できないな」
「…そうよね」
「よしっ!! 私、決めたわ」
「??」
寿がそう言って、椅子の上に立ち上がる。
何だろう。
私は、嫌な予感しかしない…。
お願いだから、突っ走って危険な行動だけはしてくれるな!




