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たびゆめ ~何度でも追い求め続けよう~  作者: 幸明沙夜
NEVER EVER GIVE UP
11/60

11 化物

結城(ゆうき)さーん! こんにちは」

「ありがとうございます。 わざわざ、お迎えに来て頂いて、すみません」


「いいんです。 いいんです。 未成年って、まだ自由が利かないですもんね」

 天祥(てんしょう)さんがそう言って、笑顔で対応してくれる。




「お世話になりました」

 短い間であったが忘れようのない入院生活を経験した。

 遥絆(はな)がいるから、またすぐに来るので、退院する気がしない。


「お大事にね」

 看護師さんが見送ってくれ、病院を後にする。





「結城さん。結城さん。見ました? アメ!!」

「あ! 来るとき大丈夫でしたか?」


「はい! 濡れない。 美味しい。 貰い放題。 最高のお散歩日和でした」

 そう言って、バックから大量の飴を見せてくれる。

「あはははは」

 何なんだ。この子は!?

 順応力が高すぎて、飴の日を普通に謳歌している。


「あ。俺、年下なので敬語じゃなくて良いですよ」

「いいんですか? ずっと決めてたんです! あっきーと呼ばせて頂きまぁす」

 おっと、まさかの呼び方。

 思わず、また笑ってしまう。


「天祥さん。ズレてるって、言われませんか?」

「おー。 エスパーですか!?」

「ただの素直です」


「本音上等かかってこいです!」

「お迎えが天祥さんで良かったです」


「本当ですか!? 良かったついでに(なご)みんと呼んでください」

「和みん? 可愛いあだ名ですね」


「はぅ~っ。最高です。 ついでに敬語も止めてください」

「いや…。さずがにそれは…」

 止めておきます。そう言うつもりが…。


「考慮します…」

 子犬のような眼差しに負けてしまった。






 やっと自宅前に着いた。



 携帯や財布、鍵も車の中だ。

 でも鍵は、何度も忘れる母さんの為に合鍵を隠している。


「あっきー。この黒いの何ですか?」

 インターホンの隣に設置された黒いボックスを眺めている。


「キーボックスですよ」

「なるほど! おっちょこちょいに有難いですね! 和心(なごみ)もお家に欲しいです」


「でもそれは、防犯用のダミーなんで、裏庭の本物取ってきます」

「ダミーですか!? はぁー…。 素晴らしいです!」

 目を輝かせながら、キーボックスを眺めている和みんを置いて、裏の室外機へ向かう。


 スチール製の室外機カバーにデカい南京錠がくっついてる。

 ダイヤル式のキーボックスだ。



 誰もが忘れない4桁の数字。

 家族皆で悩んで決めた。


 俺の誕生月07。

 遥大(はる)と遥絆の誕生月02。


 皆で決めた…。

 遥大も遥絆も分かるような数字。


 思い出しながら、目頭の奥が熱くなる。

 ここには、思い出が多すぎる。


 気持ちを切り替えて、和みんのいる玄関へ向かう。



 本当に一人じゃなくて良かった…。



「あっきー。 和心お腹空きました。 手伝うんで早く行きましょう」

「すみません」

 和みんが自由奔放な天然で尚、良かった。

 寿(ことぶき)さんがお迎えをこの人にしたんだろう。

 ふと、そう思ったら、お礼が言いたくなった。



 どんな時でもお腹は空くように…。

 どんな時でも人といれば…。




 まだ、笑えるんだな…。




「あ。特室には、ジャージいっぱいあるから、服いらないですよ」

「いっぱい? 何故です?」


「氷使う人が出てきた時は、ボロボロのビリビリでしたよ」

「何故!?」


「んー…。 精神となんちゃらの部屋ですかね!?」

「あー。 それはボロボロになっちゃうねー…じゃなくてっ!!」


 能力のコントロールなんて、想像がつかない。

 そもそも、何をどう何するんだ!?

 あ。それをこれから教えてもらうのか…。


 自分の部屋に向かいながら、今わからないことを考えるのは止めようと思い直す。 



 2階の自室。

 あの日の朝、未来(みくる)が起こしに来てくれていた。

 俺が着替えている間に未来(みくる)が読んでいた漫画本がそのままになっている。

 この部屋だけ、時間が止まっているようだ。

 俺が帰ってきたことで、部屋の時間を動かしている。

 そんな気分になった。



 今着ている服は、事故を思い出すから着替えたかった。

 海水で濡れた服を病院の人が洗濯してくれていた。

 未来(みくる)が白の半袖サマーニット押しでコーディネートしたのを思い出す。


 パーカーTシャツとワイドパンツでラフに動きやすい恰好に着替えた。

 貴重品なんてないし、財布もないから、小銭入れに貯めていた小遣いの現金をいくつか折りたたんで入れる。

 持ち物は、それだけだ。



 リビングも他の部屋も開けずに玄関へ向かう。



 あの朝のままなら、最後までリンゴジュースを飲んでいた遥絆のグラスが置いてあるはずだ。

 父さんは、新聞を見ていた。テーブルに置きっぱなしだろう。

 母さんは、キッチンを片付けていた。食洗器に食器が入ったままだろう。

 遥大は、読んでいた絵本をそのまま持って出ていた。


 まだ片づけたくない。




 皆がいた時間を止まったままにしていたかった。




「何食べたいですか? あっきーのランチは経費で落とせます! 確か能力維持費から出るのです」

 こういう時、寿司とかステーキって言えたらいいのに…。

 遥大と遥絆がいたせいだろうか。

「ハンバーグかオムライス」


「和心も好きです! 洋食! 洋食!」

 明るい声を聞き安心する。

 一人で来ていたら、こうして外に出て来られなかったかもしれない―…。


 そんな事を思いながら、家を後にする。







「わんっ! わんわんわんわんわんっ」



「サンタ!! 言えば分かるでしょう? 吠えるのは禁止! おやつ抜きにするわよ」



「寿主任! あっきーのお迎えから、戻りました」

「お疲れさま。 結城君いらっしゃい。 今から特別室案内するわね」


「ぅーっ」


「サンタも唸るんですねぇ。 初めて聞きましたよ」

 そう言って、白いぬいぐるみのような犬を撫でまわし抱き上げる和みん。


「可愛いですね。 こんなところに犬なんて、良いんですか?」

「この子も能力犬で鼻が利くのよ」


「えぇ!? 犬まで??」

 そんなことがあるのか…。

 奇想天外だ。

 嫌、すでに奇想天外なのだが…。


 俺がぬいぐるみのような犬に触れようと手を伸ばす。


「わんっ!」

 威嚇されてしまった…。




「触るな化け物!!」




「!!?」


 犬が…。


 犬が…。


 いや…そんなまさか。


 空耳だ。




 そう気を取り直すと、俺の方に視線が集まっていた。

 和みんと寿さんだけでなく、このフロアにいる黒スーツの怖そうな大人達がわざわざ手を止めている。


 …やっぱり、空耳ではないのか?


(れい)!」


 しゃべった!?

「うわぁっ!!」

 


「飴の能力コイツやっ!!」




「「えぇーーーーーーーーー!?」



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