第二十四話
葵がドアを押さえているエレベーターに乗り込み、マンションの神埼からあてがわれた部屋へと向かう。そんな中、アルは何となく居心地が悪かった。葵の態度は今までと何ひとつ変わりないのに。
だが、彼に買って貰った服を身に纏いそうされると、まるでレディファースト待遇のような錯覚に陥る。しばらく着ていなかったせいか、スカートの足元が心もとない。いや、何よりも、葵の妻に間違えられたことが。この動揺の最大の原因だ。そつなくさらりと礼など言ってみせる葵。それが初めて見る人のように思えた。
落ち着かない気分のまま、そそくさとリビングに入る。
少し寄り道などしてきたからか。神崎曰く、名物の夕陽が部屋一杯に差し込んでいた。
眩しくてカーテンを引こうと窓辺に近寄ると、遠くに通天閣が見え、なんとなしにライトの色を確認する。
しかし、オレンジ色の逆光で、見分け難い。
「どうした?」
「あの色、あれ、何色のライトついとるか、見える?」
「どれ?」
「ほら、通天閣の―――」
指で窓ガラスを突きながら、傍らの葵を見上げた。
言葉が止まる。
葵は、窓の外など少しも、ちらりとも見ていなかった。並んで立ちながら、顔だけアルに向けている。
「色が、だから、明日の・・天気が・・・」
切れ切れで消える語尾に被せるように、葵はゆっくりと顔を傾けながら、その先を唇で塞いだ。呆然とするアルは目を見開いたまま。再び彼の顔が遠ざかっていくのを見ていた。余りに突然で、怒ることも出来ない。葵はその様子を見たのか、困ったように口元を掌で隠す。
「・・・すまない」
すまない?なんだそれは。
いきなりキスしてきた上に、すまない?
なんだそれは。
ゆっくりと頭に血が上り、思いつく限りの罵声を浴びせようと息を吸い込んだが、葵の次の台詞のほうが早かった。




