第十一話
帰りの車中は静かだった。
眠いのだろう、アルの目蓋は半分折りかけている。ガラス越しに、夜の闇が広がる。
「阿部さんたちに会うから、その格好なのか?」
アルは微笑んだ。答えないまま、静寂。
「個展、開くんだってな」
「うん、言うてなかったっけ?」
確信犯なのだろう。聞いてねぇよ、毒づく。それよりも、引っかかるこの疑問を解決したかった。
「お兄さんのこと、何故俺に言わなかった?」
「聞かれなかったから」
思わず絶句する。確かにそうだ。
話題にのぼらないことを理由に、踏み込むことを恐れて。尋ねなかった。それでいて、葵はアルと最も近い気でいる。しかも今でも変わらないつもりだ。聞かれなかったから言わなかったと言う答えは、シンプルなようでいて、とても聞き流すことは出来ない。こんなに長く一緒にいたのに、自分はアルの家族というものをどれだけ意識したことがあっただろうか。
「葵?」
「俺は・・・」
「灰、落ちるで」
ゆっくり顔を振り向ける。そこにはアルがいた。一瞬、写真の顔が重なり、直ぐに消えた。つるんとしたすっぴんのおでこを見ていたら、するりと答えが出た。
「俺はただ、アルがいればそれでいい」
数秒の後、アルの顔が真っ赤になった。驚いて、それから自分の台詞を思い起こして、葵は大いに慌てた。
「お。違う、違うぞ、そういう意味ではない!」
「分かっとるわ、阿呆。ちゃんと前見て運転せい。全く、ええ年して君はもう、言葉を知らんヤツやなあ」
「いやまあ、だが言いたいことは分かるだろうが」
「はいはい、ええお友達がおって良かったわ。君にも友情いうもんがあったんやな」
「お前本当に俺を理解してるのか、その台詞」
ゆっくりと笑むアルに、葵は舌打ちする。口が滑った。アルに対する友愛の気持ちに嘘はないが、こんなにストレートに伝えてしまえば、何年越しでネタにされるか分からない。
それに―――自分の言葉に何かを引っ掻き回される。心の中の、よく見えない部分――。




