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第2話

 日曜。

 家でゴロゴロしてばかりだと母親にぶつぶつ文句を言われるので、仕方なしに出かけることにした。久しぶりに帰った実家も、最初の3日は歓待されたが、1週間経つ頃には邪魔者扱いされた。

 祐次の実家の酒屋は隣町にあるので、バスで出かけることにした。

 バスを降りて、祐次の店に行く。その短い間にすっかり汗だくになってしまった。

「いらっしゃいませ~」

 クーラーの効いた店内にはいると女性の声で迎えられた。

 最近改装したのだろうか、結構新しいこぎれいな店内に、各地の地酒が見栄えよく展示されている。カウンターの中には若い綺麗な女性がいた。

「あれ?笠原さん・・・じゃないですか?」

「はい・・・そうですが」

 俺の方には全く見覚えがなかったが、おずおずと聞いてくる女性の方は俺を知っているようだった。

「あ、あの、あたし、恵美です。覚えてないかも・・・白井祐次の妹の・・・」

「あっ!」

 思い出した。高校のころ、何度か祐次の実家に遊びに来たときに見たことがある。あのときは確かまだ小学生か、中学に入ったばかりだったはず。女っていうのはこうも変わる物なのか。

「ええ~~~?!びっくりした!すっかり大人になっちゃって」

「やだ、笠原さんもすごく大人っぽくなってますよ」

 ころころと笑い転げる仕草が、かわいらしい。

「恵美ちゃん、ごめん、店番替わるわよ?あ、お客さん?」

 店の奥からもう一人若い女性が出てきた。心なしかお腹が大きいような気がする。

 確か祐次は恵美ちゃんとの二人兄妹だったはずだ。と、すればこの人は・・・

「ありがと。お義姉さん。あ、お義姉さん、こちら笠原さん。お兄ちゃんの高校の時の同級生。笠原さん、こちら真由美さん、お兄ちゃんのお嫁さん」

 やっぱり。

 ショートカットでちょっと出来る女風のきりりとした顔つきの美人だった。

「はじめまして。笠原です」

 多少動揺した物の、俺は笑顔の中に押し込める。

「はじめまして、真由美です。お話には聞いてました。今日も試合に駆り出されたんですってね」

 うふふ、と笑うと急に雰囲気の柔らかくなる不思議な人だ。

「ええ、まあ」

 曖昧に笑って返す。

「ちょっと待ってくださいね、今呼びますから」

「あ、あたしもう奥行くから呼んでくるね。笠原さん、ちょっと待っててください」

 そう言い置いて、ぱたぱたと恵美ちゃんは奥へと消えた。

「正直、びっくりしましたよ。祐次のヤツ結婚したなんて一言も言ってなかったから」

 苦笑しながら話を続けた。二人で取り残されて会話に困って出たのがコレだった。

「結構、長いこと連絡取ってなかったんですってね?この前すごい浮かれて帰ってきたから何かと思ったら何年も会ってなかった友達にばったり会ったって言って。相当嬉しかったみたいですよ?」

 カウンターの上の小物を片付けながら笑う。

「あんまり懐かしさの方が勝っちゃって、今のことを話す余裕がなかったのかも知れませんね」

 確かに、この前会ったときは俺の方がいっぱいいっぱいで、今の祐次のことを聞く余裕なんてなかった。

「失礼ですが・・・おめでたですか?」

 女性に直接聞くのは聞きにくかったが、気になって仕方がなかったので思い切って聞いてみた。真由美は頬を朱に染めて恥ずかしそうに笑った。

「今6ヶ月なんです。お恥ずかしい話なんですが、結婚よりもこっちの方が先だったんで」

 バタバタバタと階段を駆け下りる音が聞こえて祐次が顔を出した。

「わりぃ!!宏之!今車回すから!」

 大荷物を持った祐次が顔を出す。

 そのまま店の中を通って表から隣のガレージに向かっていった。

 俺は、真由美に苦笑しながら「じゃあ」と言い残して祐次の後を追った。




 祐次の運転する軽トラの助手席に座り、エアコンの効かない暑い車中で窓から入る風に吹かれて自嘲した。

 やはり、時間は流れているのだ。

 懐かしい顔に会ったからと言って、そこで時間は戻るわけではない。祐次の知らない俺の時間があるように、祐次にだって俺の知らない時間があるのだ。

「しっかし、驚いたな。祐次がパパだってよ」

「俺だって、まだ実感わかねぇよ」

 前を見て運転しながら笑う。だが、その顔は幸せそうだ。

 この前はタオルで巻いていて気が付かなかったが、茶色に染められた短い髪が日に当たって金色に輝いている。

「祐次ってこんな手ぇ早かったっけ」

「ばっか、真由美とはもう3年のつきあいだから、早かねえよ」

「そっか・・・そうだよな・・・俺とは丸4年も会ってなかったんだから、色々あるよなお互い」

「泣くなよ?」

 意地悪げにいう祐次が憎たらしい。

「泣くかよ、ばーか」

「ま、そのうちお前にも大事な人ができるさ」

「恥ずかしげもなくよく言うよ、まったく」

 げらげらと笑うと高校時代とリンクしたようでいて、お互い大人になった自分たちをしみじみと感じた。




 結局、なし崩しに、祐次のサッカーチームのメンバーに引き合わされ、「助っ人だから」と紹介され後に引けなくなって試合に参加した。

 レベルは、それはもう大学のサッカー部とは比べものにならないほどお粗末なもんだったが、久しぶりに何にも追われることなく純粋にボールを追いかけることが出来た。

 何年も、こんな気持ちの良い汗をかいていなかった。

 改めて自分はサッカーが好きで、サッカーをするしか能がないことを思い知った。

 俺はサッカーから離れられない。

 試合は俺の助っ人の効果があってか、5-0で圧勝した。

 芝生にごろりと仰向けになって天を仰ぐ。

 視界に祐次の顔が入る。

 頬に冷たい何かが当たる。

「お疲れさん、ほい、ビール」

「さんきゅ」

 体を起こし、祐次と二人で並んで座る。ビールの缶を開け、乾杯をしようとして祐次の持っている物がスポーツドリンクなのに気づく。

「ああ、俺車だからな。酒屋のせがれが飲酒運転で捕まるわけにはいかないだろ」

 笑って、自分の缶を俺のビールに当ててごくりと気持ちよさそうに飲み干した。

「やっぱさぁ、宏之サッカーしてるときかっこいいよ」

 ぽつりと祐次がつぶやく。

「ホントに好きなんだな~って思うよ」

 照れくさそうにこちらを向く。

「・・・うん、俺も自分でホントに好きなんだなぁって思ったよ」

 遠くに視線を投げてしばらく沈黙が続く。

「やめたくねぇなぁ・・・サッカー・・・」

「うん」

 次第に紺色に染まる空に一つ二つと遠くの明かり見え始めた。


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