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第九話 完成した連携


 Sクラスのシンボル前広場。


 崩れた石畳の上で、Uクラスの四人は再び集結していた。対するSクラスは、ベイルとセレスがシンボル前に残り、防衛態勢を取っている。


 フィアが維持していた《翠銀風域》の術式から、灰銀色の魔力が少しずつ薄れていく。翠銀色を帯びていた風は、やがて本来の翠風色へ戻った。


 《風読》として、術式はまだ生きている。精度は落ちるが、戦場全体の動きを拾うには十分だった。


 遠方で、レイドとアルクの魔力反応が動き始める。


「レイドだ!」


「戻って来るぞ!」


 観客席がざわついた。


 四人はもう、互いの声が届く距離にいる。


「時間がありません」


 フィアは地声で告げた。


「レイドさんとアルクさんが戻ります。今が最後のチャンスです」


 全員が理解する。長期戦はできない。ここで決めるしかなかった。


「来る前に終わらせる」


 カレンが槍を担ぐと、ルークは苦笑した。


「簡単に言うなよ」


「できるんでしょ?」


「……やるしかないな」


 最後の作戦確認に、シエルも静かに頷く。ベイルは大盾を握り直した。


「セレス」


「はい」


「来るぞ」


 風が吹き抜け、フィアの声が響く。


「行きます」


 その言葉と共に、最終決戦が始まった。



 ルークは二人の背後へ回り、魔力剣を解除した。灰銀色の刃がほどけて消え、短剣を腰へ戻したルークは、両手を空けたままカレンとシエルの術式へ手をかざす。


 直後、灰銀色の魔力回路が二手に分かれた。一方は銀氷色に輝くシエルの術式へ、もう一方は緋銀色に燃えるカレンの術式へ流れ込む。


 観客席が騒然となった。


「またあれだ!」


「今度は二人同時だぞ!?」


 二人分の術式への干渉。シエルへの出力補填と、カレンへの制御補助。その両方を同時に支える負荷がルークを襲ったが、それでもルークは魔力を離さない。


「術式構築完了」


 シエルが告げる。


 カレンは槍を握り直した。


「十分よ」


 シエルの前に、無数の術式が展開される。空中、地面、そしてシンボル前広場一帯へ、銀氷色の魔力が広がった。


「――凍て」


 静かな声が落ちた次の瞬間、氷柱、氷壁、氷槍が一斉に生まれ、戦場を覆った。


 氷柱が地面から突き上がり、氷槍が進路を塞ぐ。氷壁は視界を遮り、広場そのものを迷路のように変えていく。


「まだ来るのかよ!」


 レイドが紫電色の雷を纏い、氷を砕いて飛び越える。だが、着地点へ新たな氷柱が突き上がった。


「面倒だなぁ!」


 アルクも風で加速するが、進路には氷壁があり、回り込めば氷槍が待っている。前へ出るたびに道が閉ざされ、速度が上がらない。


 一方、ベイルの前にも氷槍が降り注いでいた。ベイルは岩壁で迎撃し、セレスも氷弾で撃ち落とす。


 全員の足が止まった。


 ほんの数秒。


 その数秒を、シエルが支配する。


 その間、カレンだけは動かなかった。槍へ深紅炎を圧縮し、さらに圧縮する。本来なら暴走する出力を、灰銀色の魔力が術式ごと支えていた。


「ほんと便利ね」


「そっち側はな」


 ルークが苦笑する。


 その時、ベイルの視線がカレンへ向いた。本命はシエルではない。あの槍だ。


「セレス」


「はい」


 二人は即座に理解した。狙いはシンボルであり、切り札はカレン。ならば、やるべきことは一つだった。


 防衛。


 ベイルは大盾を握り直し、セレスも魔力を高める。二人は攻撃を捨て、シンボルを守るため、最大防御の準備へ入った。


 フィアは《風読》で戦況を確認する。ベイルは防衛準備。セレスも同じ。レイドは足止めできており、アルクもまだ抜けてこない。


 横槍は来ない。


 勝機は、成立している。


 フィアは迷わず声を上げた。


「今です」



 カレンが一歩前へ出る。


 緋銀色の炎が槍へ収束し、熱量で空気が歪んだ。観客席も息を呑む。


 そして、ベイルが動いた。岩鉄色の魔力が地面へ流れ込み、轟音と共に巨大な岩壁がシンボル前へ出現する。続いて、その後ろにセレスが巨大な氷壁を重ね、さらにベイル自身がシンボルの直前へ立って、大盾を正面へ構えた。


 岩壁。氷壁。大盾。


 三重防御。


 Sクラス最後の防衛線だった。


「ここは通さん」


 静かな声が響き、観客席が静まり返る。


「無理だろ……」


 誰かが呟く。


 だが、フィアだけは違った。《風読》が答えを告げている。予測通り、勝機はまだ残っている。


「カレンさん」


 フィアは声を張った。さっきまでの《翠銀風域》に乗せた声ではない。今度は、カレン一人へ向けた声だった。


「お願いします!」


 カレンは口元を吊り上げる。


(任されたなら、応えるだけよ)


「任せなさい」



 カレンが踏み込んだ。


 同時に、ルークも最後の術式を構築する。カレンの背後で、地面から灰銀色の障壁が突き立ち、残る魔力を絞り込んで弾性を付与した。


「行け!」


 轟音と共に、弾性障壁が解放された。


 反発による加速を受け、緋銀色の炎を纏うカレンが射出される。


「速っ――!!」


 観客席が悲鳴を上げた。


「《緋銀槍突》ッ!!」


 緋銀色の炎が一直線に走り、岩壁へ到達する。そのまま貫通し、粉砕した。


 続いて氷壁へ激突し、蒼い破片を舞わせながら突き破る。


 最後に、ベイルが大盾を構えた。


「来い!」


 轟音が響き、大盾が軋んだ。一歩、二歩、三歩と押される。それでも止まらない。


 ベイルは理解した。これはカレン一人の力ではない。フィアの指揮、シエルの制圧、ルークの支援。その全員の力が乗った一撃だ。


 大盾に亀裂が走る。


 そして、砕けた。


 カレンが防衛線を突破し、一直線にシンボルへ迫る。


「終わりよ!」


 緋銀色の炎が炸裂した。


 轟音、爆炎、衝撃波。


 そして、Sクラスのシンボルが粉砕される。


 一瞬の静寂。


 やがて、歓声が爆発した。


「勝者――Uクラス!」


 闘技場が揺れた。


 拍手も歓声も熱狂も、その全てが四人へ向けられていた。



 ルークはその場へ腰を下ろした。限界だった。


 ベイルが歩み寄り、フィアを見て、シエルを見て、ルークを見る。最後にカレンを見て、少し笑った。


「良いパーティーだな」


 一瞬、誰も言葉を返せなかった。


 それは勝利宣言よりも重い言葉だった。


「……当然でしょ」


 カレンが視線を逸らす。


 フィアは笑い、シエルは頷いた。ベイルも笑う。


「負けたよ」


「次は負けねぇからな!」


 レイドが叫ぶ。


「今度は最初から全力で行く」


「それは怖いな」


 ルークが苦笑すると、アルクも肩を竦めた。


「僕も認めるよ」


 最初の侮りはもうない。同じ実力者へ向ける視線だけがあった。



 観客席上段。


 レオルドは黙って試合を見下ろしていた。


 隣のミレイアが笑う。


「どうだった?」


 しばらく沈黙が落ちる。やがて、レオルドは大きく息を吐いた。


「……実に気に入らん」


 ミレイアが吹き出す。


 だが、レオルドは続けた。


「勝ったのはあいつらだ」


 それは、敗北を認める声だった。


 さらに上段では、黒い外套の男が静かにルークを見つめている。男が見ていたのは、勝敗ではない。


 灰銀色の魔力が、他者の術式へ入り込む瞬間。術式への干渉。男はそこだけを見ていた。


「……興味深い」


 小さく呟き、男は立ち去った。


 誰にも気付かれないまま。



 その頃、ルークはそんなことなど知らなかった。


「飯行くか」


「行く」


 即答したのはカレンだった。


「同じ」


 シエルも続く。


 さっきまでの歓声が嘘みたいに、いつもの空気だった。フィアは思わず笑う。


「まだその元気あるんですか……」


「腹減った」


「減った」


 ルークも笑った。


 四人で歩き出す。


 模擬戦は終わった。


 そして今日、Uクラスは初めて、この学園にパーティーとして認められた。

パーティー戦闘構成めちゃくちゃ難しかったです…

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