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第六話 外縁層での休息


 数日後。


 午後の訓練が終わり。


 ルーク達はいつもの訓練場で一息ついていた。


 最近はずっとこんな調子だ。


 共鳴。


 風伝。


 連携訓練。


 役割確認。


 気付けば午後のほとんどを訓練へ使っている。


 そんな四人を見て。


 ミレイアが苦笑した。


「アンタ達」


「少し訓練しすぎ」


 カレンが眉をひそめる。


「そう?」


「そうよ」


 即答だった。


「努力は良いことだけど、

 休むのも訓練の内」


 ルークは苦笑する。


 確かに最近は訓練ばかりだった。


 すると。


 カレンが何気なく口を開く。


「じゃあ外縁層行く」


 即答だった。


 ルークが少し笑う。


「槍か?」


「うっさい」


 否定しなかった。


 フィアが小さく首を傾げる。


「武器屋ですか?」


「そう」


 カレンが頷く。


「訓練用じゃなくて、

 自分の槍が欲しい」


 以前なら言わなかっただろう。


 でも今は少しだけ素直だった。


 シエルも手を挙げる。


「私も行く」


「珍しいわね」


 ミレイアが言う。


 シエルは当然のように答えた。


「術式書」


「あー」


 全員が納得した。


 シエルらしい。


 フィアも遠慮がちに手を挙げる。


「私も……」


「寄りたい場所があります」


「買い物?」


 ルークが聞く。


 フィアは少し迷った後。


「はい」


 とだけ答えた。


 詳しくは話さない。


 でも。


 どこか楽しそうだった。


 ミレイアは腕を組む。


「ならちょうどいいわね」


「外縁層なら、

 ガルドの知り合いの店もあるし」


 ルークが顔を上げた。


「知り合い?」


「武器屋よ」


 ミレイアが頷く。


「昔から世話になってる店」


 そこで。


 フィアが思い出したように口を開いた。


「夜明の灯の頃ですか?」


「そうね」


 ミレイアが頷く。


 カレンは特に気にした様子もなく聞いていた。


「そういえば」


「先生も夜明の灯だったのよね」


「有名なのか?」


 ルークが首を傾げる。


 今度は三人が固まった。


「え?」


 カレンが聞き返す。


「知らないの?」


「いや」


 ルークは困ったように頭を掻いた。


「ガルド達が凄いのは知ってるけど」


「そんなに有名だったのか?」


 フィアが頷く。


「かなり有名です」


「セフィリアでも知らない人は少ないと思います」


 シエルも小さく頷いた。


「有名」


「ガルド」


「ミレイア先生」


「クロウ」


「全員」


 ミレイアが肩を竦める。


「昔の話よ」


 そこで。


 フィアがふと思い出したように言った。


「そういえば」


「入学試験の時」


「夜明の灯みたいな魔法士になりたいって

 言ってましたよね」


 ルークは少し目を瞬かせた。


「あー」


「言ったな」


 カレンも思い出す。


 確かに聞いた気がする。


「でも」


「ルークさんが憧れたのって」


「強さだけじゃないんですよね?」


 フィアが聞く。


 ルークは少し考えて。


 首を振った。


「違う」


「もちろん強かったけど」


「俺が憧れたのはそこじゃない」


 少しだけ。


 昔を思い出す。


 背中を預けて戦う姿。


 掛け合い。


 信頼。


「仲間同士で信頼してたんだ」


 短い言葉だった。


 でも。


 それだけだった。


「前衛が後衛を信じて」


「後衛が前衛を信じて」


「誰かが危なくなったら、

 当たり前みたいに助けに行く」


 ルークは少し笑う。


「見てて格好良かったんだよ」


 訓練場が静かになる。


 フィアはじっと聞いていた。


 カレンも珍しく口を挟まない。


 シエルも同じだった。


「だから」


 ルークが続ける。


「俺もああいうパーティーになりたい」


 強くなりたい。


 有名になりたい。


 そういう話じゃない。


 信頼できる仲間達と。


 一緒に戦いたい。


 ただそれだけだった。


「ガルドは育ての親だしな」


 何気なく続ける。


 一瞬。


 空気が止まった。


「……は?」


 最初に固まったのはカレンだった。


「ガルドが?」


「うん」


 ルークは頷く。


 カレンは昨日の訓練を思い出す。


 届かない槍。


 距離管理。


 最小限の動き。


 そして。


『誰かさん仕込みだからね』


 ミレイアの言葉。


「……ああ」


 思わず呟く。


「だからか」


「何が?」


 ルークが聞く。


「別に」


 カレンは視線を逸らした。


 妙に納得してしまっただけだ。


「そうだったんですね」


 フィアが小さく頷く。


「だからミレイア先生とも

 昔から知り合いだったんですね」


「まぁな」


 ルークが答える。


 シエルは少しだけ考えた後。


「納得」


 とだけ言った。


「何がよ」


「先生」


「ルークに甘い」


 一瞬。


 訓練場が静かになる。


 そして。


 ミレイアが吹き出した。


 ルークが苦笑する。


 訓練場に小さな笑いが広がった。


 そんな空気を見ながら。


 ミレイアが手を叩く。


「じゃあ決まり」


「明日は外縁層」


 カレンは槍。


 シエルは術式書。


 フィアは寄りたい場所。


 そして。


 訓練ばかりだった日々の中で。


 久しぶりの休息が決まった。


 翌日。


 午前の授業が終わり。


 ルーク達は中間層から外縁層へ続く石畳の道を歩いていた。


 午後の外縁層は賑やかだ。


 商人。


 魔法士。


 学園生。


 様々な人が行き交っている。


 中間層とはまた違う活気だった。


 「そういえば」


 ルークが口を開いた。


「初クエストの報酬、

 みんなもう使ったのか?」


 クエストの報酬はリルで支払われる。


 レグナリア王国で一般的に使われている通貨だ。


 先日の初クエストでは、

 一人あたり三百リルほどが支給されていた。


 学生にとっては決して小さくない額である。


「私は槍」


 カレンが即答した。


「知ってる」


 ルークが笑う。


「うっさい」


 だが否定はしない。


 今の自分には必要だと思っている。


「シエルは?」


「術式書」


 即答だった。


「まだ買ってないの?」


「今日買う」


 短い。


 だが十分だった。


 シエルらしい。


「アンタ本当に魔法好きよね」


 カレンが呆れたように言う。


 シエルは少しだけ考えた。


「好き」


 迷いの無い返答だった。


 カレンは思わず肩を竦める。


「知ってた」


 フィアが小さく笑った。


 その視線が自分へ向く。


「フィアは?」


「私は貯金です」


 少しだけ胸元で手を握る。


「奨学金もありますし」


「孤児院にも差し入れしたいので」


 カレンが少しだけ目を丸くした。


 でも。


 妙に納得もする。


 フィアらしい。


 ルークも頷いた。


「フィアっぽいな」


 フィアは少し照れたように笑う。


 そして。


 今度は三人の視線がルークへ向いた。


「ルークは?」


 カレンが聞く。


「俺?」


 ルークは少し考える。


「貯金かな」


「欲しい物無いの?」


「特に」


 即答だった。


 カレンが呆れた顔をする。


「つまんないわね」


「そうか?」


 ルークは苦笑した。


 本当はある。


 でも。


 今じゃない。


 いつか。


 ガルドへ恩返ししたい。


 そのために少しずつ貯めている。


 ただ。


 それを言うのは少し照れ臭かった。


 しばらく歩く。


 すると。


「あ」


 フィアが立ち止まった。


 三人も足を止める。


「どうした?」


 ルークが聞く。


 フィアは道沿いの小さな店を指差した。


 焼き菓子や飴が並ぶ店だった。


「先にここ寄ってもいいですか?」


「買い物?」


 カレンが聞く。


 フィアは少しだけ照れたように笑う。


「差し入れです」


「みんな甘い物好きなので」


 その言葉だけで。


 三人はなんとなく察した。


 寄りたい場所。


 孤児院。


 きっとそのためだ。


 フィアは店先へ向かう。


「高い物は無理ですけど」


「みんな喜んでくれるので」


 その顔は。


 普段のフィアより少し柔らかかった。


 カレンはそんな様子を見ながら腕を組む。


「へぇ」


 短く呟く。


 少しだけ。


 意外だった。


 でも。


 悪くないと思った。


 買い物を終えたフィアが戻ってくる。


 小さな紙袋を大事そうに抱えていた。


「お待たせしました」


「じゃあ行くか」


 ルークが言う。


 フィアは嬉しそうに頷いた。


 そして四人は再び歩き出す。


 教会の敷地へ向かって。


 教会の敷地は思ったより広かった。


 礼拝堂。


 宿舎。


 畑。


 そして。


 少し奥にある孤児院。


「ここです」


 フィアが立ち止まる。


 その表情はどこか柔らかかった。


 四人が門をくぐる。


 すると。


「あっ!」


 一人の子供が気付いた。


 次の瞬間。


「フィアお姉ちゃん!」


「フィアお姉ちゃんだ!」


 小さな足音が駆け寄ってくる。


 あっという間だった。


 フィアが子供達に囲まれる。


「こんにちは」


 フィアが笑う。


 普段よりずっと自然な笑顔だった。


「久しぶり!」


「帰ってきた!」


「学園どうだった!?」


「会いたかった!」


 次々に飛んでくる声。


 フィアは少し困ったように笑った。


「ごめんなさい」


「なかなか来られなくて」


 学園へ入学してから一ヶ月半ほど。


 寮生活。


 授業。


 訓練。


 思っていた以上に忙しかった。


 それでも。


 ずっと気になっていた。


「でも今日は来てくれた!」


「はい」


 フィアが頷く。


 その返事だけで。


 子供達は嬉しそうだった。


「お菓子は!?」


 一人の子供が紙袋を指差した。


 フィアは思わず吹き出す。


「ありますよ」


 紙袋を持ち上げる。


 歓声が上がった。


 カレンは少し目を丸くする。


「人気者じゃない」


「昔から一緒にいましたから」


 フィアが照れたように笑った。


 その時。


 一人の女性が建物から出てきた。


「フィアちゃん」


 孤児院の職員だった。


 穏やかな雰囲気の女性である。


 フィアは軽く頭を下げた。


「こんにちは」


「学園へ行ってから初めてですね」


「はい」


 フィアが少し申し訳なさそうに笑う。


「なかなか来られなくて」


「仕方ありませんよ」


 女性は優しく首を振った。


「でも」


「子供達はずっと楽しみにしていましたから」


 その言葉に。


 周囲の子供達が何度も頷いた。


 フィアは少しだけ照れ臭そうに視線を逸らす。


 職員の女性は今度はルーク達を見る。


「お友達ですか?」


「同じパーティーの皆さんです」


 フィアが答える。


 その言葉に。


 カレンが少しだけ反応した。


 パーティー。


 少し前までなら違和感があった。


 でも今は自然だった。


「フィアちゃんには昔から助けられてるんですよ」


 女性が微笑む。


「小さい頃から面倒見が良くて」


「年下の子達の面倒をよく見てくれました」


「そんなこと……」


 フィアが慌てる。


 だが。


 子供達は納得していなかった。


「本読んでくれる!」


「勉強教えてくれる!」


「優しい!」


 次々に飛んでくる。


 フィアは完全に困っていた。


 ルークは思わず笑う。


 カレンも少しだけ口元が緩んだ。


 シエルは静かにその様子を見ている。


 しばらくして。


 ルークは周囲を見回した。


 建物は古い。


 豪華ではない。


 それでも。


 綺麗に手入れされていた。


 畑もある。


 子供達も元気そうだ。


「教会が支援してるんです」


 フィアが言う。


 ルークの視線に気付いたらしい。


「食料とか」


「教材とか」


「生活に必要な物も」


 小さく微笑む。


「ここだけじゃなくて」


「他にもたくさんあるって聞きました」


 ルークは頷いた。


 カレンも黙って聞いている。


 シエルも同じだった。


 教会。


 学園都市では当たり前に存在している。


 でも。


 こうして実際に見ると少し印象が変わる。


「良い場所ね」


 カレンがぽつりと呟いた。


 フィアは少し驚いた後。


 嬉しそうに笑った。


「はい」


 その返事には。


 迷いが無かった。


 孤児院を後にした四人は、

 再び外縁層の通りを歩いていた。


 そして。


 一軒の店の前でシエルが止まる。


 看板には大きく書かれていた。


 術式書専門店。


「ここ」


 短い。


 だが。


 今までで一番迷いの無い声だった。


 ルークが苦笑する。


「そんなに行きたかったのか」


 シエルは頷く。


「うん」


 即答だった。


 店へ入る。


 直後。


 シエルの動きが変わった。


 棚。


 棚。


 棚。


 本。


 本。


 本。


 視線が高速で動く。


「……」


 ルークは思わず笑った。


 明らかに機嫌が良い。


「すごいですね……」


 フィアが周囲を見回す。


 術式理論。


 属性変換。


 魔力制御。


 上級術式論。


 難しそうな本ばかりだった。


「読める?」


 カレンが聞く。


「無理です」


 即答だった。


 フィアは少しだけ申し訳なさそうに笑う。


「タイトルくらいしか……」


「普通そうよ」


 カレンも頷いた。


 正直。


 自分もよく分からない。


 その時だった。


「見つけた」


 シエルが本を抱えて戻ってくる。


 既に三冊持っていた。


「早くない?」


 ルークが思わず聞く。


「遅い」


「そうか……」


 基準が違った。


 シエルは本を大事そうに見つめる。


 その様子を見て。


 ルークは少し気になった。


「そこまで好きなのか?」


 シエルは顔を上げる。


 一瞬だけ考えた。


 そして。


「好き」


 答える。


 迷いは無かった。


「魔法そのものが?」


 フィアが聞く。


 シエルは頷いた。


「理想がある」


 短い。


 だが。


 珍しく自分から続けた。


「頭の中なら出来る」


「でも」


「現実だと出来ない」


 シエルは本を見下ろす。


「だから使いたい」


 カレンが首を傾げた。


「何を?」


「理想の魔法」


 即答だった。


 シエルの目は真剣だった。


「頭の中にある魔法を」


「現実で使いたい」


 それだけだった。


 有名になりたい訳じゃない。


 研究者になりたい訳でもない。


 ただ。


 思い描いた魔法を使いたい。


 そのために学んでいる。


 ルークは少し笑った。


「シエルらしいな」


「そう?」


「うん」


 シエルは少しだけ考えて。


 小さく頷いた。


 フィアが微笑む。


 カレンも肩を竦めた。


 少し変わっている。


 でも。


 それがシエルなのだろう。


「満足した?」


 カレンが聞く。


 シエルは抱えた本を見る。


 少し考えた。


「まだ」


「帰るわよ」


 即座に却下された。


 シエルは少しだけ残念そうだった。


 その表情が珍しくて。


 三人は思わず笑ってしまった。


 術式書店を出た後。


 四人は外縁層の武器街へ向かった。


 鍛冶屋。


 武器屋。


 防具屋。


 様々な店が並んでいる。


 その中の一軒。


 ミレイアに教えられた店だった。


 店へ入る。


 金属の匂い。


 壁一面に並ぶ武器。


 カレンの視線は自然と槍へ向いた。


「いらっしゃい」


 店の奥から声がした。


 大柄な男だった。


 腕は太い。


 職人というより鍛冶師に近い。


「ミレイアの紹介か?」


「そう」


 カレンが答える。


 男は一度四人を見回した。


 そして。


 カレンが持つ訓練槍へ目を止める。


「槍か」


「火属性だな?」


 カレンが頷く。


 男は少し考えた後。


 店の奥へ消えた。


「なんなのよ」


「さぁ」


 ルークも首を傾げる。


 しばらくして。


 男が一本の槍を持って戻ってきた。


 赤銅色の穂先。


 長すぎず短すぎない柄。


 派手さは無い。


 だが。


 どこか実戦向きだった。


「これ」


 男が差し出す。


 カレンは受け取った。


 軽い。


 だが安っぽくない。


「刻印槍だ」


 男が言う。


「名前は《紅突》」


 カレンが槍を見る。


「紅突?」


「炎付与」


「推進補助」


「発動速度重視」


 男は肩を竦めた。


「その代わり火力不足」


「だから売れ残った」


 あっさりだった。


 カレンは思わず眉をひそめる。


「おすすめしてないじゃない」


「してねぇ」


 即答だった。


「でも火属性の槍なら

 これが一番合いそうだった」


 ルークが苦笑する。


 正直な店主だった。


「試してみろ」


 男が店の裏庭を指差す。


 簡易訓練場らしい。


 カレンは槍を持って移動した。


 構える。


 深紅炎を流し込む。


 すると。


 刻印が淡く輝いた。


「へぇ」


 自然だった。


 魔力が流れる。


 違和感が少ない。


 踏み込む。


 突く。


 瞬間。


 槍が前へ走った。


「っ!」


 速い。


 昨日の訓練を思い出す。


 踏み込み。


 加速。


 貫く。


 自分が組み始めた術式と。


 妙に噛み合う。


 もう一度。


 踏み込む。


 深紅炎が槍先へ集まる。


 推進。


 加速。


 一直線。


 店主の目が少しだけ見開かれた。


「おいおい」


 思わず呟く。


「なんだその速度」


 カレンが止まる。


「普通ならそこまで出ねぇ」


 店主は槍を見る。


 そして。


 カレンを見る。


「なるほどな」


「その属性濃度なら話が別か」


 少しだけ納得したようだった。


 カレン自身はよく分からない。


 でも。


 分かることが一つある。


 この槍。


 使いやすい。


 かなり。


 思っていた以上に。


 ルークも頷いた。


「合ってるな」


「そうね」


 カレンも認める。


 悔しいくらい。


 手に馴染んでいた。


 店主がニヤリと笑う。


「買うか?」


 店主がニヤリと笑う。


 カレンは即答しかけて。


 一度だけ止まった。


「……いくら?」


「二百九十八リル」


「細かいわね」


「売れ残りだからな」


 店主は悪びれもせず言う。


「本来はそこまで速度が出る武器じゃねぇ」


「炎を軽く乗せて、

 突きを少し伸ばす程度の刻印槍だ」


「火力も低い。

 派手さも無い。

 普通の火属性使いには物足りねぇ」


 そこで店主は、

 カレンの持つ《紅突》へ視線を向けた。


「だが、

 お前さんの属性濃度なら話が変わる」


「この槍の推進補助だけで、

 十分武器になる」


 カレンは黙って槍を見る。


 二百九十八リル。


 初クエストの報酬を使えば、

 ぎりぎり買える。


 ほとんど残らない。


 でも。


 迷いは長く続かなかった。


「買う」


「即決だな」


「必要だから」


 カレンはそう言って、

 槍を握り直した。


 ルークが吹き出す。


 フィアが笑う。


 シエルも小さく頷いた。


 こうして。


 カレンは初めての専用武器を手に入れた。


 刻印槍《紅突》。


 まだ。


 本当の意味で使いこなせる訳じゃない。


 だが。


 確かな手応えだけはあった。


 この槍なら。


 もっと前へ行ける。


 そんな気がした。


 買い物を終えた頃には、

 すっかり日が傾き始めていた。


 四人は外縁層の食堂へ入る。


 夕食時。


 店内は賑やかだった。


 冒険者達の笑い声。


 食器の音。


 料理の香り。


 学園の食堂とは少し違う空気だった。


「疲れた」


 カレンが椅子へ身体を預ける。


 隣には新しく買った《紅突》が立て掛けられていた。


 どこか機嫌が良い。


「槍買えたから?」


 ルークが聞く。


「別に」


 即答だった。


 だが。


 誰も信じていない。


 フィアが小さく笑った。


 料理が運ばれてくる。


 しばらくは静かな食事だった。


 その途中。


 ルークが口を開く。


「結局どうだった?」


「今日」


 シエルが顔を上げる。


「楽しかった」


 即答だった。


 一瞬。


 全員が止まる。


「楽しかった?」


 カレンが聞き返す。


「うん」


 シエルは頷く。


「本買えた」


「みんなで歩いた」


「楽しかった」


 カレンは思わず肩を竦める。


「それ効率じゃないでしょ」


 シエルは少し考えた。


 数秒。


 そして。


「そうかも」


 珍しく素直だった。


 ルークが笑う。


 フィアもつられて笑った。


 少しだけ。


 空気が柔らかい。


 以前なら無かった時間だった。


 食事が進む。


 その途中。


 フィアが小さく呟いた。


「でも」


「まだ不安です」


 三人が顔を上げる。


「何が?」


 ルークが聞く。


 フィアは少し迷った。


 それから。


「司令塔です」


 と答える。


「ちゃんと出来てるのかなって」


 正直な言葉だった。


 フィアらしい。


 ルークは少し考える。


「大丈夫だろ」


 軽かった。


 だが。


 嘘は無かった。


 フィアが困ったように笑う。


「根拠あります?」


「無い」


「無いんですか……」


 思わず苦笑する。


 その時だった。


「私は助かったわ」


 カレンがぽつりと言った。


 フィアが固まる。


「え?」


 カレンは視線を逸らしたまま続ける。


「アンタの指示」


「役に立ってる」


 短い言葉だった。


 でも。


 カレンなりの評価だった。


 フィアは目を見開く。


「そ、そんな……」


「事実よ」


 カレンはそれ以上言わない。


 照れ臭かったからだ。


 フィアはしばらく言葉を失っていた。


 それから。


「……ありがとうございます」


 小さく頭を下げた。


 食事が終わる。


 店を出る。


 外は夕暮れだった。


 オレンジ色の光が街を照らしている。


 ルークは少し前を歩く三人を見る。


 カレン。


 シエル。


 フィア。


 少し前まで。


 バラバラだった。


 同じ場所にいても。


 どこか遠かった。


 でも今は違う。


 まだ未完成。


 まだ足りない。


 それでも。


 少しだけ。


 パーティーらしくなった気がした。


 ルークは小さく笑う。


「なあ」


 三人が振り返る。


「今度さ」


 少しだけ考えてから、

 ルークは続けた。


「俺達だけで、

 クエスト受けてみないか」


 一瞬。


 誰もすぐには答えなかった。


 でも。


 カレンが口元を上げる。


「いいじゃない」


 シエルが小さく頷く。


「試したい術式がある」


 フィアは少し不安そうにしながらも、

 柔らかく笑った。


「……私も、

 やってみたいです」


 夕暮れの街。


 次の一歩。


 四人は自然と同じ方向を向いていた。

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