表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/36

第五話 前へ出る力


 翌日。


 カレンは一人、

 昨日のことを思い出していた。


 突破役。


 ミレイアはそう言った。


 フィアは司令塔。


 シエルは拘束と制圧。


 ルークは守りと共鳴。


 そして。


 自分は突破役。


「……突破、ね」


 ぽつりと呟く。


 正直。


 少し意外だった。


 火力で全部吹き飛ばす。


 それが自分の強さだと思っていたからだ。


 でも。


 昨日の戦闘を思い返す。


 前へ出た時。


 ゴーレムへ踏み込んだ時。


 《緋銀穿》を放った時。


 不思議と身体は軽かった。


 上手く言葉には出来ない。


 けれど。


 少しだけ心当たりもある。


 訓練場へ入る。


 既にミレイア達は集まっていた。


「あら」


 ミレイアが気付く。


「ちょうどいいわ」


 ミレイアは壁際を指差した。


 そこには訓練用武器が並んでいる。


 剣。


 槍。


 斧。


 大盾。


 学園で使われる一般的な訓練武器だ。


「昨日見て確信したわ」


 ミレイアが腕を組む。


「アンタ、

 前に出る方が向いてる」


 カレンは小さく眉を寄せた。


 反論しようとして。


 少しだけ言葉が詰まる。


 昨日の感覚が残っていたからだ。


「私の武器は火力なんだけど」


 それでもそう返す。


「そうね」


 ミレイアはあっさり頷く。


「でも」


 一拍置く。


「火力をどこで使うかは別の話よ」


 カレンは腕を組んだ。


 まだ完全には納得していない。


 でも。


 昨日までみたいに、

 頭ごなしに否定する気にもなれなかった。


「とりあえず試しなさい」


 ミレイアが武器棚を顎で示す。


「どれでもいいわ」


「自分で選んでみなさい」


 雑だった。


 本当に雑だった。


 だが。


 ミレイアは本気らしい。


 カレンは小さく息を吐きながら武器棚へ向かう。


 剣。


 斧。


 大盾。


 そして。


 槍。


 その瞬間。


 ふと昔の記憶が浮かんだ。


 幼い頃。


 広い庭。


 木製の訓練槍。


 何度も繰り返した踏み込み。


 父の声。


「……あ」


 思わず小さく呟く。


 忘れていた。


 でも。


 身体は覚えていた。


 魔法適正検査後は、

 魔法訓練が中心になった。


 いつの間にか触らなくなっていた。


 自然と手が伸びる。


 槍を握る。


 隣からシエルが覗き込んだ。


「槍」


「見れば分かるでしょ」


「似合う」


 真顔だった。


「何を根拠に」


「なんとなく」


 全く参考にならない。


 ルークが苦笑する。


 フィアも小さく笑っていた。


 カレンは槍を軽く構える。


 長い。


 少し重い。


 それなのに。


 身体は迷わなかった。


 踏み込み。


 重心。


 握り方。


 忘れていたはずなのに、

 自然と形になる。


「……へぇ」


 思わずそんな声が漏れた。


 思っていたより。


 ずっと動ける。


懐かしい感覚


 カレンはもう一度槍を構えた。


 踏み込む。


 突き。


 引き戻す。


 もう一度。


 今度は少し速く。


 空気を裂く音が響いた。


「……」


 思った以上に動く。


 いや。


 動けてしまう。


 何年も触っていなかったはずなのに。


 身体が勝手に次の動きを選んでいた。


 踏み込み。


 突き。


 薙ぎ払い。


 振り上げ。


 流れるように繋がる。


「経験あるでしょ」


「昔ちょっと」


 カレンは曖昧に答えた。


「少し、ねぇ」


 ミレイアが小さく笑う。


 その反応が少し気に入らない。


「何よ」


「別に」


 絶対何か思っている顔だった。


 その時。


「なら次」


 ミレイアがルークを見る。


「ルーク」


「ん?」


「相手しなさい」


 ルークが一瞬固まった。


「俺ですか?」


「アンタ以外誰がいるのよ」


 即答だった。


 一方。


 カレンは槍を肩へ担いだ。


 少しだけ口元が上がる。


「ちょうどいいじゃない」


 ルークを見る。


 共鳴。


 障壁。


 支援。


 最近はそんな印象が強かった。


 でも。


 昨日の戦闘で少し気になっていた。


 ルーク自身の動き。


 あれは。


 ただの支援役の動きじゃなかった。


「手加減はしないわよ?」


 カレンが口元を上げる。


「望むところ」


 ルークも小さく笑った。


 カレンは槍を構える。


 ルークも前へ出る。


 腰の訓練用短剣を抜いた。


 そこへ灰銀色魔力が纏わりつく。


 刃は丸い。


 訓練用だ。


 それでも。


 握る姿に迷いは無かった。


「いつでも」


 ルークが短剣を構える。


 ミレイアが一歩下がった。


「始め」


 その言葉と同時に。


 カレンは地面を蹴った。


 速い。


 自分でもそう思う。


 ブランクがあるとは思えない踏み込み。


 一直線。


 最短距離。


 ルークの胸元を狙う。


 だが。


 届かない。


 半歩。


 本当に半歩だけ。


 ルークが身体をずらした。


 槍先が空を切る。


 追撃。


 横薙ぎ。


 短剣が滑る。


 槍先が逸れる。


 当たらない。


 何度も挑む。


 一度も届かない。


「なんで当たらないのよ!」


 思わず叫ぶ。


 ルークは苦笑した。


「見てるから」


「意味分かんない!」


 即答だった。


 少し離れた場所で見ていたミレイアが笑う。


「誰かさん仕込みだからね」


 カレンは眉をひそめる。


 なんなのよ。


 そう思う。


 でも。


 少しだけ分かった。


 ルークは支援役だ。


 その認識は変わらない。


 けれど。


 支援しか出来ないわけじゃない。


 共鳴訓練。


 微細な魔力操作。


 諦めず続けていた調整。


 崩れない障壁。


 そして。


 今目の前で見せている動き。


 全部が繋がった。


「……普通に強いじゃない」


 小さく呟く。


「ん?」


 ルークが聞き返した。


「なんでもない!」


 即座に否定する。


 認めるのは悔しい。


 でも。


 認めないほど馬鹿でもなかった。


 休憩。


 フィアがカレンへ水を差し出した。


「水」


「……ありがと」


 受け取る。


 フィアは訓練を見ていた。


「何見てるのよ」


「カレンさんです」


 フィアが答える。


「司令塔らしいですから」


 少し照れくさそうだった。


 カレンは思わず苦笑する。


「もうその気なの?」


「えっ」


 フィアが慌てる。


「ち、違います」


「別に悪いとは言ってないわよ」


 むしろ。


 昨日より表情が明るい。


 それが少し嬉しかった。


 その時。


 フィアが少し真面目な顔になる。


「今の半歩」


「半歩?」


「遅かったです」


 カレンが固まる。


「どこがよ」


「二回目の突き」


「踏み込みの後」


「戻るのが少し遅いです」


 図星だった。


「……」


「うっさい」


 小さく返す。


 だが。


 否定はしない。


 フィアは少し嬉しそうだった。


 司令塔として。


 ちゃんと見ていたから。


「もう一回」


 カレンが立ち上がる。


「今の」


「直す」


 再開。


 カレンは槍を構える。


 今度は魔法も使う。


 深紅炎が集まる。


 術式構築。


 火属性術式。


 火力。


 範囲。


 圧力。


 敵を焼き尽くすための構造。


 それをそのまま槍へ組み込む。


 踏み込む。


 だが。


「遅い」


 シエルが即答した。


 カレンが止まる。


「は?」


「無駄が多い」


 真顔だった。


 少し腹が立つ。


「どこがよ」


 シエルは槍先を見る。


「火力」


「範囲」


「拡散制御」


「全部乗ってる」


「だから重い」


 カレンは眉をひそめた。


 否定できない。


 今組んだ術式は、

 普段の砲撃用術式に近い。


 槍へ載せているだけだ。


「加速したい」


 シエルが続ける。


「でも」


「火力も欲しい」


「範囲も欲しい」


「だから遅い」


 短い。


 でも。


 理解できた。


 カレンは槍を見る。


 今までの自分なら。


 火力を削る発想は無かった。


 でも。


 昨日の戦闘を思い出す。


 必要だったのは。


 一人で全部壊す火力じゃない。


 前へ出る力だった。


 術式を組み直す。


 火力を削る。


 範囲を削る。


 拡散制御も削る。


 残すのは。


 踏み込み。


 加速。


 突き。


 それだけ。


 深紅炎が石突へ集中する。


 圧縮。


 収束。


 発動。


 石突で炎が弾けた。


 踏み込む。


 身体が押し出される。


 速い。


 今までより。


 明らかに速い。


 さらに一歩。


 届く。


 そう確信した瞬間。


 灰銀色魔力が走った。


 障壁。


 ドォン!!


 衝撃音。


 槍先が障壁へ突き刺さる。


 火花。


 深紅炎。


 停止。


 訓練場が静かになる。


「危なっ……」


 ルークが苦笑した。


「今のは普通に危なかった」


 ミレイアが笑う。


「それよ」


「今のがアンタの戦い方」


 火力だけじゃない。


 踏み込む。


 貫く。


 前へ出る。


 そのための火力。


 まだ未完成。


 でも。


 確かに形になり始めていた。


 訓練が終わる。


 夕陽が訓練場を赤く染めていた。


「火力だけ追うより、

 ずっと良いわ」


 ミレイアが言う。


 カレンは少しだけ顔をしかめる。


「そういう言い方やめて」


「褒めてるのよ?」


 だから困る。


 シエルがぽつりと言う。


「良かった」


「何がよ」


「噛み合ってた」


 短い。


 でも。


 シエルなりの評価だった。


 訓練終了。


 カレンは槍を持ったまま武器棚へ向かった。


 返却。


 本来ならそれだけだ。


 でも。


 足が止まる。


 手の中の槍を見る。


「……返すのか」


 小さく呟く。


 少しだけ。


 名残惜しかった。


 槍を棚へ戻す。


 金属音が響く。


 欲しい。


 自分の槍が。


 そんな考えが頭を過る。


「帰るぞ」


 ルークの声。


 振り返る。


「ん」


 数歩歩く。


 そして。


「外縁層って武器屋あったわよね」


「あるけど」


「……ふーん」


 それだけだった。


 夕暮れの帰り道。


 前を歩く三人を見る。


 司令塔。


 拘束と制圧。


 守りと共鳴。


 そして。


 突破役。


 昨日までは実感が無かった。


 でも今は少しだけ分かる。


 前へ出る。


 貫く。


 そのために戦う。


 それが自分の役割なのかもしれない。


 ――もっと前へ。


 次は。


 届かせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ