表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/36

第七話 パーティーの形(前編)


 午前。


 一般学科合同教室。


「――では復習です」


 教師が黒板へ簡易魔法陣を描きながら振り返る。


「結界とは何か」


 教室内が静まる。


 前方では、

 一般学科の生徒達がノートを開いていた。


 Uクラス四人も、

 いつもの位置へ座っている。


 以前と違うのは。


 自然と、

 四人が近い席へ座るようになっていたことだった。


「結界とは、

 防衛本能による魔力防御です」


 教師が続ける。


「危険を感じた瞬間、

 人は無意識に魔力を身体表面へ集め、

 身を守ろうとする」


「誰もが持つ、

 生存本能の一種ですね」


 教師が指先へ小さな光弾を生成した。


 軽く放る。


 直後。


 薄い膜のような魔力が身体表面へ浮かび、

 光弾の衝撃を滑らせるように逸らした。


「魔法士は、

 その結界を意識的に制御しています」


 教師が結界表面を指で叩く。


 淡く揺れる魔力膜。


「ただし重要なのは――」


 教師の声色が少し変わる。


「結界は、

 攻撃を止めるものではないということ」


「威力を逃がし、

 逸らし、

 削られながら耐える」


「それが結界です」


 カレンは少し退屈そうに頬杖をついていた。


 シエルは理論整理するように、

 静かにノートを書いている。


 フィアは真面目に黒板を見つめていた。


 そして。


 ルークだけが、

 少し違和感を覚えていた。


 ――逸らす。


 止めるんじゃなくて。


 頭の中へ、

 自分の灰銀色障壁が浮かぶ。


 真正面から割り込み、

 止める。


 押さえる。


 受け切る。


 自分の感覚は、

 どうにも一般的な結界と違っていた。


「また、

 結界は魔力への防御です」


 教師が続ける。


「剣や矢など、

 純粋な物理攻撃にはほぼ意味を持ちません」


 その言葉へ、

 ルークは少しだけ視線を落とした。


 短剣型魔力剣。


 障壁。


 後ろを守る防御。


 自分の戦い方は、

 普通の魔法士とはかなり違う。


「……ルークさん?」


 フィアが小さく声を掛ける。


「え?」


「……授業、終わってます」


「あ、悪い」


 いつの間にか鐘が鳴っていた。


 周囲の生徒達が立ち上がっている。


 ルークも慌てて席を立つ。


 その時。


 カレンも、

 シエルも、

 ほぼ同じタイミングで立ち上がった。


 一瞬。


 四人の視線が交差する。


 少し気まずい。


 でも。


 以前みたいに、

 完全に別方向へ散ることはなかった。


 午後。


 魔法士学科演習場。


 ルーク達四人は、

 訓練用フィールドへ集められていた。


 外縁部寄りの演習場は、

 今日も人が少ない。


 遠くでは、

 別クラスの魔法士達が模擬戦を行っている。


 爆音。


 閃光。


 結界の衝突音。


 実戦訓練特有の空気が、

 辺りへ満ちていた。


「さて」


 ミレイアが腕を組む。


「来週。

 アンタ達には初クエストへ行ってもらうわ」


 一瞬。


 空気が止まった。


「……クエスト?」


 ルークが思わず聞き返す。


 フィアも目を丸くしている。


「は、初って……

 もうですか……?」


 一方。


 カレンは少しだけ口元を上げていた。


 どこか嬉しそうですらある。


 シエルは無言。


 だが、

 視線だけが静かに動いていた。


 既に必要情報を整理し始めている。


「ただし条件がある」


 ミレイアが続ける。


「“パーティー”として最低限動けること」


 ルーク達が顔を上げる。


「魔法士は基本パーティー運用よ」


「実戦は、

 一人で暴れればどうにかなるほど甘くない」


 ミレイアが演習場を見渡した。


「前衛。

 中衛。

 後衛。

 司令塔」


「役割が噛み合わなきゃ、

 普通に死ぬ」


 軽い口調。


 でも。


 内容は重い。


 フィアの肩が小さく揺れた。


 ルークも、

 少しだけ喉が渇く感覚を覚える。


「魔法は、

 術式組んで終わりじゃない」


 ミレイアが続ける。


「構築。

 出力。

 制御。

 転換」


「発動までには、

 どうしたって隙ができる」


 カレンが少し眉を寄せた。


「高火力ならなおさらね」


 次に。


 シエルを見る。


「複雑術式も同じ。

 完成前に潰されたら終わり」


 シエルは小さく目を細めた。


 否定はしない。


「だから前衛がいる」


 ミレイアの視線が、

 ルークへ向く。


「後ろが完成させるまで、

 前を支える役が必要なの」


 ルークは少しだけ息を呑む。


 カレンの火力。


 シエルの術式。


 確かに、

 どちらも完成まで時間が必要だ。


「個人性能はもう分かった」


 ミレイアが四人を見る。


「だから次は、

 “4人で戦う”訓練をする」


 カレンが鼻を鳴らす。


「……結局そこなのね」


「当然でしょ」


 ミレイアは即答した。


「アンタ達、

 全員方向性は悪くないの」


 ルークを見る。


「前線維持と、

 後ろを守る防御」


 カレンを見る。


「高火力砲撃」


 シエルを見る。


「後方制圧」


 最後に。


 フィアを見る。


「広域感知と情報共有」


 フィアが少し目を見開く。


「でも今のアンタ達は、

 ただ“強みを持ってるだけ”」


「それを、

 パーティーとして繋げられてない」


 ミレイアは小さく笑った。


「ま、

 だから訓練するんだけどね」


 その瞬間。


 演習場端の土が盛り上がる。


 石同士が擦れる音。


 土属性魔道具。


 人型の簡易ゴーレムが、

 複数起動した。


「今日はコイツ相手」


「うわ、

 準備早……」


「実戦前提だからよ」


 ミレイアが肩を竦める。


「じゃ、

 まずは現実見なさい」


 ゴーレムの赤い視線が、

 ゆっくりUクラスへ向けられた。


「配置はそのまま」


 ミレイアがフィールド外から声を飛ばす。


「ルーク前。

 カレン中衛。

 シエルとフィアは後ろ」


 ルークは短剣を抜く。


 灰銀色魔力が刃へ纏わりつき、

 薄い魔力刃を形成した。


 前方では、

 三体の簡易ゴーレムが低く唸っている。


「始め!」


 直後。


 中央のゴーレムが突進した。


「っ!」


 ルークが前へ出る。


 短剣で受け流す。


 重い。


 石腕の衝撃が腕へ響いた。


 その横。


 別個体が回り込もうとする。


 ルークは咄嗟に灰銀色魔力を走らせた。


 影のように伸びた魔力が地面を走る。


 次の瞬間。


 障壁が、

 ゴーレム進路上へ突き上がった。


 鈍い衝突音。


 進路が逸れる。


「カレン!」


「分かってる!」


 深紅色魔法陣。


 高出力。


 空気が熱を帯びる。


 だが。


 カレンの意識は、

 火力へ寄り過ぎていた。


「――《紅蓮砲》!」


 轟炎。


 前方ゴーレムへ直撃。


 粉砕。


 だが同時に。


 爆炎余波が、

 ルーク側まで巻き込む。


「っ……!」


 灰銀色結界が揺らぐ。


 熱。


 衝撃。


「ちょっ、

 近っ……!」


「避けなさいよ!」


「無茶言うな!」


 その間にも。


 右側ゴーレムが、

 シエル達後衛側へ接近する。


 フィアの瞳が揺れた。


 見えている。


 動き。


 重心。


 狙い。


 全部分かる。


 でも。


 どこから伝えるべきか、

 整理が追いつかない。


「シ、シエルさん……

 右、来て……っ」


 遅い。


 シエルは既に術式構築へ入っていた。


 複雑術式。


 多重構築。


 高速演算。


 だが。


 今度は逆に、

 構築へ集中し過ぎる。


「――《氷槍》」


 発動。


 青白い氷が走る。


 しかし。


 半拍遅い。


 ゴーレムは既に接近している。


「っ……!」


 ルークが無理矢理踏み込んだ。


 灰銀色魔力展開。


 障壁。


 ゴーレムの拳が激突する。


 重い。


 衝撃。


 結界と違う。


 受け流さない分、

 真正面から負荷が来る。


「ぐっ……!」


 さらに。


 別方向。


 もう一体がカレン側へ回り込む。


 フォロー。


 防御。


 射線管理。


 全部をやろうとして、

 ルークの処理が追いつかない。


 灰銀色魔力が乱れる。


 障壁維持が揺らぐ。


「ルークさんっ!」


 フィアの声。


 だが。


 その時にはもう、

 前線が崩れ始めていた。


「そこまで!」


 ミレイアの声。


 直後。


 ゴーレムの赤い瞳が消灯した。


 鈍い音を立て、

 土属性魔道具が停止する。


 静寂。


 土煙だけが残った。


 ルークは大きく息を吐いた。


「はぁ……

 キツ……」


 カレンも少し悔しそうに舌打ちする。


「……射線ミスった」


「三回」


 シエルが即答する。


「二回目、

 ルーク避けてる」


「数えてたのかよ……」


「……見えてたから」


 シエルは悪気なく言った。


 フィアは完全に青ざめていた。


「ご、ごめんなさい……

 私、全然……」


「違う」


 ミレイアが即座に否定した。


 演習場へ降りてくる。


「アンタ達、

 弱いわけじゃない」


 四人を見る。


「役割が噛み合ってないだけ」


 静寂。


 停止したゴーレムの向こうで、

 ルーク達は息を整えていた。


 土煙がゆっくり晴れていく。


 ミレイアが演習場へ降りてきた。


「で?」


 腕を組む。


「やってみた感想は?」


「……キツい」


 最初に答えたのはルークだった。


 本音だった。


 前。


 横。


 後ろ。


 全部を見ようとして、

 処理が追いつかなかった。


 カレンも小さく舌打ちする。


「射線、

 何回か被せた」


「三回」


 シエルが即答する。


「二回目、

 ルーク避けてる」


「数えてたのかよ……」


「……見えてたから」


 シエルは悪気なく言った。


 フィアは完全に縮こまっている。


「ご、ごめんなさい……

 私、全然指示できなくて……」


「だから違うって言ってるでしょ」


 ミレイアが即座に切る。


 フィアがびくっと肩を揺らした。


 だが。


 怒っているわけではなかった。


「アンタ達、

 全員問題点が違うの」


 ミレイアはまずルークを見る。


「アンタ、

 一人で全部合わせようとしすぎ」


「……っ」


「前。

 横。

 後ろ。

 全部フォローしようとして、

 前線維持崩れてるわ」


 否定できない。


 ルーク自身、

 かなり余裕が無かった。


「アンタの役目は、

 後ろを守ること」


「カレンとシエルが、

 ちゃんと撃てる状況を作りなさい」


 ルークが少し黙る。


 カレンの火力。


 シエルの術式。


 確かに、

 完成まで時間が必要だ。


 だから。


 その間、

 前を支える役がいる。


 次に。


 ミレイアの視線がカレンへ向く。


「アンタは火力しか見えてない」


「う……」


 珍しく言い返せない。


「高火力撃つのは結構。

 でも味方位置くらい見なさい」


「ルーク、

 普通に巻き込まれてたわよ」


「……避けたじゃない」


「避けさせてる時点でダメなの」


 カレンが悔しそうに顔を逸らした。


 さらに。


 シエルを見る。


「アンタは最適解しか見てない」


「…………」


「理論上最強でも、

 間に合わなきゃ意味ないの」


「……分かってる」


「分かってるだけじゃ足りないわね」


 シエルは小さく目を伏せた。


 最後に。


 ミレイアがフィアを見る。


「フィア」


「は、はい……!」


「アンタ、

 一番見えてる」


 フィアが目を瞬く。


「え……?」


「戦況。

 位置。

 危険。

 射線」


「全部、

 アンタが一番早く気付いてる」


 フィアは言葉を失っていた。


 自分が評価されると思っていなかった。


「でも、

 見えてるだけじゃ意味ない」


 ミレイアが真っ直ぐ言う。


「言いなさい」


「アンタの情報、

 全員より価値あるわ」


 フィアの瞳が揺れる。


 怖い。


 間違えたら。


 遅れたら。


 でも。


 さっき。


 少しだけ、

 繋がった瞬間があった。


 ミレイアは四人を見渡した。


「パーティーってのは、

 一人で戦うより難しい」


「でも――」


「噛み合えば、

 一人じゃ届かない場所まで行ける」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ