表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/20

18.1992年11月初旬、ディタボラへ

 DFマラン空港までの道すがら、何度か警官に止められた。だが、彼らは運転席を覗き「いつもの黒人」が乗っているのを確認すると早々に解放してくれたのだった。

 

 東洋人の旦那とそれに仕えるジョンとメアリーの存在。

 年に何度も自宅と空港を行き来する三人は、何人かの警察官には見知った存在となっていた。


 それでもこの国での振る舞いは最大限に注意せねばならない。些細な誤解が取り返しのつかない結果を生むこともしばしばであるのだ。


 メアリーの同乗もそうだ。

 本来送り迎えはジョンだけでも事足りるが、黒人男性が一人で車を運転すること、それは思っている以上にジョンの生命を危険に晒すことになる。


 彼が夫婦で富裕層に仕える黒人だと一目で判ることが大切であった。ゆえに今日のメアリーは普段着ではなくやや落ち着いた品のある衣類だ。


 空港に降り立つと顔見知りの警備員がやってきて、ジョンに何やら話しかけている。気をつけて帰れよ、などという声が小さく聞こえた。


 遠ざかる車を見送りショウは歩く。

 傍のうんざりとした顔のウィルソンは気にしないことにする。まともに歩けない護衛など必要ない。


 ここ数日で判ったことであるが、この男ウィルソンは警護としてほとんど役立たない。


 必死でショウにくっ付き歩いてはいるが、これでは万が一の戦闘には足手纏いになることは必至であった。

 彼はおそらく物理的ないざこざのあしらい方を知らない。多分、何かあったら即座に銃を抜くことだろう。


 ここまで役立たずとなると、本当にCIAかどうかも怪しくなってきた。

 よもやスミスが独断でつけた警備——、などいうことはあるまいとは思うのだが。


 へばっている様子のウィルソンにため息が漏れる。

 まさかショウを油断させ、その動向を探っているわけではあるまいな、と思いつつ口を開くことにした。


「ミスター。ミスター・ウィルソン」


「はい」


「——あなた、ヨハネスブルグで帰国してください。このままでは工程通りに事が進みません。買い付けは信頼必須。約束の時間に遅れるなど、決して許されません」


「大丈夫です」


「ええ、大丈夫でしょう。あなたはね。私は大丈夫ではない。今回の依頼とあなたは相性が悪い。ここはアフリカです」


 ウィルソンの顔が固まる。

 銃社会のアメリカは日本の何倍も相手の尊厳を傷つけないようやり取りがなされる。

 ここでもそうすべきだ。

 お前は無能だ、などという発言はリスキーである。だが、これはウィルソンのためでもあった。


 ウィルソンの服装を見た。

 このアフリカ大陸でよりによってスーツである。ショウがカジュアルすぎず、フォーマル過ぎずの中間程度の衣類に身を包んでいるにも関わらず、彼は悪目立ちするような仕立てのよいスーツを着込んでいるのである。


 初めてアフリカの地を踏む日本人ビジネスマンかそうでなければジェームズ・ボンドか。


 お行儀の良すぎる格好というものは、このアフリカ大陸では危険を誘発させる。

 私はお金を持ってます——、そう言いたげな服装は要らぬトラブルを呼び込むばかりだ。


「私はアフリカ南部を歩き慣れている。でもあなたは違う。アメリカ国内でならばあなたはとても優秀な護衛だったはずです。だがここは場所が悪い。ミスター・スミスは私を()()()あなたをつけてくださったのでしょう。しかしあなたはこのアフリカ大陸にあまりにも不慣れだ。数日の移動で既に体力が消耗されている。あなたがいてはどうやっても予定通りに歩けない」


 自分でも甘いとショウは思う。

 だが、目の前で死体が転がるのを楽しむような最低最悪の趣味は持ち合わせてはいないのだ。

 

 ウィルソンが困ればいいと、大人気なく意地の悪い言葉は何度か投げかけたが、後味の悪い結果にまで彼を引き摺り込むつもりは毛頭なかった。

 なるべく宝石商然とした理由を列挙するが、果たして引いてくれるかどうか。


「ミスター・サトナカ。不愉快にさせたのなら謝罪します。ですが私は大丈夫です」


 伝わっていない。いや、伝わっていても引くことができないということだろう。


「邪魔です。そう言っているのが判りませんか? それとも私にあなたのお守りをしろと? 冗談じゃない。私は宝石商だ。シッターじゃない」


 大の男のプライドをこれでもかというほど傷つけた。ウィルソンへと背を向け、古さが見え始めたその建物へと向かう。

 

 暫くの間項垂れていたウィルソンをちらりと見れば、彼は沈んだ表情を浮かべつつもショウについ来ている。


 ショウの指示通り、ヨハネスブルグで帰国すればいいが果たして。


 国内線のカウンターでチェックインを済ませる際にも顔を覚え始めた職員がちらほらいた。「またお仕事ですか」などと訛りのある英語で尋ねられ、やや砕けた調子で「そうですよ」と返答をする。


 それから待機時間を経て無事搭乗を済ませる。その間、ウィルソンは一言も発さずにショウの隣にいた。


 離陸直後にテーブルマウンテン、高度が上がると乾燥したカルー盆地が目視できた。


 ヨハネスブルグまでは約二時間のフライトだ。そこまで何かしらのトラブルが起きることはあるまい。

 ショウは隣に鬱々としたウィルソンの嫌な気配を感じながら目を閉じた。

 道中は長い。休める時に休むのが鉄則なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ