第三十二話 「はじめてのふたり」
※本作はオリジナル作品です。
※BLゲーム世界が舞台ですが、女性主人公視点で進みます。
※次回4/11更新予定です。
私は、初めてのお友達ができて、完全に溶けきっていた。
でろーんと液状になった私を見て、
奈々は「気持ちが悪いですよ」と一蹴してくるが、
私には、この嬉しさを止める術がなかった。
今日は念願のお友達、雅ちゃんとお出かけの予定である。
映画を観て、お茶をして、本屋に寄って——
実はお互い好きな作品が同じで、オタク仲間にまでなれたら——なんて……
ついつい、そんなことまで想像してしまう。
雅ちゃんの気が変わる前に、約束を取り付けられたのはラッキーだった。
元々の目的は彼女たちのルートの修正だったが、
改めて正式にお友達になれて、こうしてお出かけできるのは至福である。
待ち合わせは、駅前の噴水のある公園だ。
この時の私は——
もう物語が動き始めていることなど、知る由もなかった。
噴水の前で待っていると、高級車が現れた。
その中から、雅ちゃんが姿を現す。
さすがは財閥の一人娘だ。
恐らく、同じ家格の私でなければ、遊びに行くことすら許されなかった可能性すらある。
執事と思しき男性が、わざわざ挨拶をしてきた。
私も丁寧に挨拶を返すと、執事は時間になったら迎えに来ると言い、深く頭を下げ、帰っていった。
雅ちゃんは、いかにもお嬢様といった格好をしていて可愛い。
フリルのついたワンピースを着こなせるのは、可愛い彼女だからこそ、だろう。
私はさっそく彼女の手を引き、喫茶店へと向かった。
「ちょ、ちょっと……急に引っ張らないでくださいまし」
そう言いながらも、雅ちゃんは手を振り払うことはなかった。
ほんの少しだけぎこちないその距離が、どこかくすぐったくて、少し嬉しくなる。
自分も人のことは言えないが、彼女もなかなかの箱入りらしい。
店内に入り、メニューを開いた瞬間——
彼女の目が、分かりやすく輝いた。
「な、なんですのこれ……」
「それは、メロンソーダよ」
「この……緑色の液体と、上に乗っている白いものは……?」
「アイスよ。もしかして、こういうの初めて?」
「え、ええ……見たことはありますけれど……実際に頼むのは……」
そう言いながらも、ちらちらと視線を向けてくる。
「何事も経験よ!」
「……で、では」
おずおずと注文したメロンソーダが運ばれてくると、
雅ちゃんはしばらくそれをじっと眺めていた。
「……綺麗ですわね」
そっとストローを差し、恐る恐る口をつける。
「……!」
その瞬間、彼女は目を見開いた。
「どう?」
「……これは、なかなかいけますわ!」
どこか得意げにそう言う姿に、思わず笑みがこぼれる。
パフェも同様だった。
一口ごとに表情がころころ変わるのが、あまりにも分かりやすい。
「甘いものが好きなのね、嬉しいわ。
他にもおすすめはたくさんあるから今度遊ぶときに、色々教えてあげるわ」
「今度……
別に甘いものは嫌いではないし、
楽しみにしておいてあげますわ」
そう言いながらも、雅ちゃんのスプーンは止まらない。
その様子があまりにも可愛らしくて、
私はただ、静かにそれを眺めていた。
——友達と過ごす、なんでもない時間。
それがこんなにも楽しいものだなんて、思いもしなかった。
……前世でも、友達いなかったしなあ。
喫茶店を出たあと、私たちはそのまま本屋へ向かった。
しばらく店内を歩いていると、
雅ちゃんが、とあるコーナーでぴたりと足を止めた。
「……?」
視線の先を追う。
そこにあったのは——ホラーコーナーだった。
「まさか……」
「この類、大好きですの」
即答だった。
棚から一冊手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
「こういう未知の存在とか、説明のつかない現象とか……
とても興味深いですわ」
「そうなんだ……」
「宇宙も好きですのよ。
人間の理解が及ばない領域というのは、とても魅力的で……」
楽しそうに語るその横顔を見ながら、私は確信した。
——方向性がまるで違う。
オタク仲間への道は、思っていたよりも厳しそうだった。
本屋を出ると、空はすっかり夕焼けに染まり始めていた。
昼間の喧騒も少しずつ落ち着き、どこか穏やかな時間が流れている。
「もうこんな時間か……」
「そうですわね。
今日は本当にあっという間でしたわね」
そんなことを話しながら、公園の中をゆっくり歩く。
すると——
甘い香りが、ふわりと漂ってきた。
「……あ」
視線の先にあったのは、小さなクレープ屋さんだった。
カラフルなメニューと、焼きたての生地の匂い。
その前で——
雅ちゃんが、ぴたりと足を止めていた。
じっと、クレープ屋を見つめている。
「……」
「……」
……分かりやすすぎる。
私は、くすりと笑いながら声をかけた。
「クレープ、食べたいなぁ……」
「べ、別にあなたが食べたいのなら、
私も一緒に食べてあげますわ」
(かわええ……)
私はすぐに注文を済ませ、クレープを受け取った。
「はい、どうぞ」
「……ありがとうございます」
そう言いながらも、雅ちゃんの視線は完全にクレープに釘付けだった。
一口、ぱくりと食べる。
「……っ」
その瞬間、分かりやすく目が輝く。
「どう?」
「……お、美味しいですわ」
なんとか取り繕っているが、隠しきれていない。
「ちょっと一口ちょうだい」
「え?」
「交換こ、よ」
「な、なにを仰って——」
私はそのまま、はむっと彼女のクレープを一口もらった。
「……ほんとだ、美味しい」
「で、でしょう?」
どこか誇らしげに胸を張る姿に、思わず笑ってしまう。
そのまま、二人で並んでクレープを食べる。
——こんな時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思った、その時だった。
「なんや、えらい美味そうなん食べてはるなぁ」
——ボトッ。
雅ちゃんは、その姿を見た瞬間、
思わず手にしていたクレープを落としてしまった。
「急に声かけて堪忍なぁ。
つい見かけてしもてなぁ。
……あれ、クレープ落としてはったやろ? もったいなぁ……」
「あなたは……」
雅ちゃんはそう言い、明らかに怯えた顔をしていた。
私が割って入ろうとする。
けれど——彼の視線は、雅ちゃんから一切外れなかった。
「なんや、これから婚約者になるお人やのに、えらい冷たいなぁ。
そんな邪険にせんといてぇな」
婚約者?
こいつまさか………………
3人目の攻略対象……!?
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やっとの思いで新キャラ登場です☺︎




