第三十一話 「ともだち」
※本作はオリジナル作品です。
※BLゲーム世界が舞台ですが、女性主人公視点で進みます。
※次回も三日以内に更新予定です。
奈々の言葉が、頭の中で何度も反芻される。
誰かを救いたいだなんて、たとえそれが傲慢だとしても——
“そう思ってくれている人がいる”
それだけで、案外十分だったりするんですよ。
「……」
私は小さく息を吐いた。
考えれば考えるほど、
答えなんてひとつしかない気がしてきたからだ。
……やっぱり。
——放っておけない。
それだけでいい。
「……決めた」
「何をだ?」
背後から、聞き慣れた声がした。
振り返ると、いつの間にか白水が立っている。
「……ちょうどいいところに来たわ」
私は、まっすぐ白水を見た。
「私、決めたの」
「雅ちゃんと——友達になりたい」
その言葉に、白水はほんの一瞬、目を細めた。
そして、何かを測るような沈黙が落ちた。
「……友達、か」
「な、なによ。
雅ちゃんが私に対して複雑な思いを抱えてるのは分かってるわよ」
「けど……」
「放っておけない、だろ?」
白水はニヤリと笑った。
「お前らしくていいんじゃないか。
遅かれ早かれ、そう言うと思っていた」
「簡単じゃないとは思うが、
今のお前なら、できるんじゃないか?」
私は思わず、満面の笑みがこぼれる。
「なら、決まりね!
さっそく実行よ!」
「え」
私はくるりと踵を返した。
「今から行くわ!」
「……は?」
さすがの白水も、さすがに間の抜けた声を出した。
「今からって……九条のところにか?」
「そうよ。
雅ちゃんのところに決まってるでしょ」
「お前な……」
白水は呆れたように額に手を当てた。
「少しは考えてから動け」
「昨日3時間、考えて出た結論よ」
きっぱりと言い切る。
白水は小さく息を吐いた。
「……まあいいか」
「どうせ止めても行くだろ」
「当然よ」
「だろうな」
白水はそう言って、私の隣に並ぶ。
「少し離れて見ていてやる」
「え、それ逆に怖いんだけど。
別に一人でも行けるし……」
「知ってる。
だが、面倒ごとは最初から見ておいた方がいい」
完全に、何かやらかすと思われている。
その言い方に、釈然としないまま私は少しだけ眉をひそめた。
「……なにそれ」
「ほら、行くんだろ?」
白水はそう言うと、先に歩き出した。
いつもなら一言言ってやるのだが、
今は、それを追及する気にはなれなかった。
***
放課後。
校舎裏の静かな場所に、雅ちゃんの姿を見つけた。
一人で本を読んでいるようだ。
相変わらず凛としていて美しく、けれどどこか可愛らしさもあって、見ていると少しだけ癒される。
そして、どこか近寄りがたい空気を纏っているのも、彼女らしい。
「……」
一瞬、足が竦んだ。
何かを、少しだけ怖いと思っているのかもしれない。
けれど——
「……行くわよ」
私は、そのまま歩みを進めた。
「……何か用?西園寺 鈴乃」
声をかける前に、雅ちゃんがこちらを見ないまま言った。
どうやら、気づいていたらしい。
「あ、あの……」
私は、そのまま彼女の前に立った。
ゆっくりと顔を上げた雅ちゃんの視線が、まっすぐこちらを射抜く。
「……まだ、何かあるの?」
その声音は、冷たい。
距離を置こうとする、はっきりとした意思を感じる。
——当然だ。それでも。
「私、決めたの」
私は、逃げずに言った。
「……何を?」
「あなたと——」
一瞬、息を吸う。
「友達になりたい」
沈黙が落ちた。
まるで、時が止まったかのようだった。
風の音だけが、やけに大きく聞こえる。
雅ちゃんは、何も言わず俯いたままだ。
「……どうして」
ぽつりと呟いた。
「どうして、そこまでなさるの?」
理解できないと言わんばかりだった。
私は、少しだけ視線を落とす。
言葉を探して——
そして、すぐに顔を上げた。
「放っておけないの」
そのまま、まっすぐに言う。
「だから……
どうして、それだけで——
私にそこまでできるのよ」
雅ちゃんは本をパタンと閉じて、
哀しそうな表情で、私を見つめた。
「それは……」
「……」
少しだけ、沈黙が流れた。
けれど、その沈黙を破ったのは私だった。
「私が雅ちゃんという存在そのものが好きだからよ」
その言葉は、やけに静かな空間に響いた。
雅ちゃんは、驚いたようにぽかんと口を開けた。
それも束の間、彼女の瞳がわずかに揺れる。
やがて、
耳と頬を赤く染め、視線を逸らし、肩が小さく震え始めた。
「ほんっとにバカじゃないの!?
す、好きだから友達になりたいだなんて……
小学生じゃないんだから、意味わからないわよ!?」
雅ちゃんは顔を真っ赤にして、憤慨し始めた。
「そもそも、あなた私がずっと嫌なことを言っても動じないし。
それどころか、心配してくるし、しつこいのよ」
「ご、ごめんなさい」
「……でも」
さっきまでの怒りが嘘のように、雅ちゃんはいつも通りに戻った。
そして——
「……いいわ」
ぽつりと、声が落ちた。
私は思わず顔を上げた。
「え?」
「友達になるって言ってるのよ!」
そう言いながらも、
雅ちゃんはどこか気まずそうに、視線を逸らしている。
けれど、ほんのりと頬が赤い。
私は、いつものツンデレさに愛しさを覚えて、思わず笑ってしまう。
「ありがとう」
「なに、笑ってるのよ……
友達になるのにありがとうもなにもないでしょ」
けれど、その声は先ほどまでの冷たさとは違っていた。
少しだけ、柔らかくなっていた。
「……ただし」
雅ちゃんは、ゆっくりとこちらを見る。
「ま、まだあなたを複雑に思う気持ちは残っているし……
全部が全部、納得したわけでもないわ」
「ええ」
「で、でも……
それは自分で、どうにかするって決めたから
一時休戦って形を取るだけなんだからね!」
「それでも、十分嬉しいわ」
私はあっさり頷く。
雅ちゃんは一瞬だけ驚いた顔をした。
「私にも、まだ分からないけれど……
友達って、きっとそういうものなんでしょ?」
完璧じゃなくていい。
分かり合えてなくてもいい。
それでも、一緒にいることを選ぶ。
「……本当に、変な人!
でも、これからよろしく。鈴乃」
「こちらこそ、よろしく。雅ちゃん」
雅ちゃんは、ふっと小さく笑った。
けれど、その笑みは——
どこか、少しだけ救われたようにも見えた。
名前で呼んでくれたことが嬉しくて、
私も思わず笑ってしまう。
互いに笑い合う時間は、とても心地よかった。
***
その様子を、少し離れた場所から見ていた白水は。
「……やっぱり。
さすがは俺の婚約者だな」
誰にも聞こえないほどの声で、そう呟いた。
どこか満足げに、わずかに口元を緩める。
鈴乃が自分のことなどすっかり忘れているであろうことも含めて——
それがあまりにも彼女らしくて、思わず小さく笑みがこぼれた。
ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
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自分は友達という存在がいまだに理解できません。
難しいんですよね(・・;)
それでも、いつか本当に理解のし合える存在に出会えることを切に願っています☺︎




