第三十.五話 番外編 「奈々の思い」
※本作はオリジナル作品です。
※BLゲーム世界が舞台ですが、女性主人公視点で進みます。
※次回も三日以内に更新予定です。
「まったく。
……本当に、面倒なお嬢様ですね」
静まり返った部屋の中で、奈々は小さくため息をついた。
繊細な彫刻が施された、天蓋付きの優美なベッドの上。
先ほどまで散々悩み、考え、唸っていたお嬢様が——ようやく眠りについたらしい。
無防備な顔で、静かな寝息を立てている。
「……少し落ち着いたようで、何よりです。
鈴乃お嬢様」
そう呟きながらも、その声音はどこか柔らかくなってしまう。
——昔のあのお嬢様からは、到底考えられないほどの変化だ。
人の都合など気にもせず、気に入ったものはすべて自分のものにする。
気まぐれで、わがままで、手のかかるお嬢様。
それが、かつての西園寺 鈴乃だった。
「……それでも」
奈々は、ふっと視線を落とした。
いつものことながら、鈴乃お嬢様がきちんと寝たことを確認してから、自室へ戻る癖がついてしまっている。
そして、そのあとも——
お嬢様のことばかり、つい考えてしまうのだ。
西園寺家の長女として生まれ、
誰よりも傲慢に育ち、誰よりも健気に大人びたふりをしていたあの子は——
いつも孤独だった。
「ふぅ……」
——それに気づいてしまったあの時から、
屋敷を去ろうとは思わなくなった。
仕える主として、決して優秀だったわけではない。
けれど、彼女が時折見せる人間らしさを、私は心底愛おしく思っていた。
私が叱ると不貞腐れるくせに、あとでお菓子をくれたり。
私が怪我をすれば、心配そうな瞳をしているくせに、簡単には素直になれないところとか。
以前、誘拐されかけたとき——
真っ先に私の胸に飛び込んできて、泣きながら怒り散らかしたこともあった。
振り回されているのは、重々承知の上だ。
でも、だからこそ。
「放っておけないんですよ、あの方は」
それは、他人から見れば、ほんの少しだけの小さな人間らしさかもしれない。
それでも確かに、私の心に大きな衝撃を与えた。
ですが、最近は悔しいことに……
あの“義弟”が西園寺家に来てから、本当に変わったと言われるようになった。
——そんなことは、決してないのに。
お嬢様は確かにわがままではあったが、
本質的な不器用さと、優しさは何ひとつ変わっていない。
ゆえに——彼には、少しばかり嫉妬してしまった。
けれども、不器用だった少女が、
今では誰かのために悩み、苦しみ、必死に手を伸ばそうとしている。
そんなあの子を、誰よりも近くで支えることこそ……私にとって、何よりも優先なのだ。
たとえそれが嫉妬の対象であっても——
その想いだけは、紛れもなく本物だ。
「随分と、厄介な方向に成長なさったものです」
やれやれと呟きながらも、
その瞳には、微かな安堵が滲んでいた。
鈴乃お嬢様の一番近くで話を聞き、手を貸し、いつでもおそばにいたいと。
そんなあの子を、これからも変わらず支えていく。
それが、私の役目なのだ。
だからこそ、私は何も変わらずにいる。
少し無礼で、辛辣で、
けれど決して、裏切らない。
それが、私なりの優しい距離だった。
「……さて」
奈々は静かに部屋の明かりを消し、ベッドへと入る。
「これ以上は、野暮というものですね。
まったく……世話の焼けるお嬢様です」
そう呟きながらも、
どこか誇らしげに、満足そうに眠りについた。
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初の番外編になります☺︎




