第5話 なんかやばい奴らがいるんですが
僕は穴の中を覗き込む。穴の淵には木製のはしごがかけられていた。はしごは地下まで続いているようだ。
「なにが隠されているのか気になるし、行ってみるか」
はしごに足をかけた僕は、地下へと突き進んでいった。
◆❖◇◇❖◆
はしごを降りた先は真っ暗闇だ。どこにも光源はない。けれど、今の僕は地下室がどんな状態なのか、手に取るように分かる。
吸血鬼には暗視能力もあるからな。
地下室にはいくつもの棚が設置されており、そこには大量の樽やボトルが所狭しと並べられている。
どうやらここはワイン貯蔵庫のようだ。試しにいくつかのボトルを手に取る。
一部の樽やボトルには魔法陣が刻まれていた。
「これは保存の魔法か?」
保存の魔法は適性のある人々が多いため、幅広い用途に使われている。けれど、ここに刻まれている魔法陣は広く使われているものとは少し違う。
僕は魔法陣の刻まれたワインボトルを開ける。中身は赤い液体だったのでワインが入っているとばかり思っていたが……。
「この匂いは間違いなく血だな」
今度は魔法陣の刻まれていないボトルを開ける。中身は普通のワインだった。一般的に利用されている魔法陣は食べ物の寿命を一週間程度伸ばすくらいの効果しかない。
僕は辺りを見渡す。魔法陣の刻まれた樽やボトルはかなり多い。通常の保存魔法だと、血液なんてすぐに傷んでしまいそうだが……。
館の元主は一階にあったような巨大な魔法陣を制作しているような吸血鬼だ。この魔法陣はもっと物の寿命を伸ばすことができるのかもしれないな。
僕は地下室の奥深くへと進んでいく。突き当りには細い通路が続いており、そこから先には大きな部屋があった。
部屋には大きな魔法陣があり、薄青く発光していた。この魔法陣はまだ稼働しているようだな。魔法陣のことは分からないので、僕は一度一階へ戻ることにした。
◆❖◇◇❖◆
「ん? 外に誰かいるのか?」
一階にある、魔法陣の部屋に戻った僕は、館の外から何者かの殺気が漂ってくることに気づく。人間の頃の僕なら絶対に気が付くのに時間がかかっただろうが、吸血鬼となった今ではすぐに分かる。
僕は玄関へと向かう。どうやら、相手は複数人いるようだ。館の敷地内には侵入しておらず、門の入り口にたむろしている。
僕は門の近くにある茂みへ身を隠し、様子を伺う。門の前にいたのは、人間ではなく、3体の魔物たちだった。
「ほら見ろ、こんなに殺気を放ってもシュタイアーは出てこない。あいつは死んだんだよ」
通常よりも筋肉が発達し、大きなバトルアックスを装備したミノタウロスが他の魔物たちに話しかける。
「ふむ。普段は奴の眷属たちは統制が取れておる。そんな奴らが森の中で好き勝手に動いていると知った時はおかしいと思ったが……。不死身である吸血鬼がそう簡単に死ぬとは信じがたい」
緑色の体表を持つドラゴンが返事をする。
「とりあえず、早く奴の屋敷に忍び込みたいものである。シュタイアーが今どうしているのか、謎が解けるかもしれぬ」
大剣を背負っている武人気質のジャイアントが答える。
「そうだな。早くここを守る結界が解けてほしいもんだ。吸血鬼とアンデッド以外の行く手を阻む結界なんて趣味の悪いものが近くにあるなんて目障りだし」
ミノタウロスが不快そうな顔をする。
「うむ。吸血鬼のような希少種族が再びこの森に現れるとは考えにくい。しかし、リッチなど、高位アンデッドが住み着いても困る。さっさと結界を作っている魔法陣の魔力がなくなってほしいものだ」
ドラゴンが同意する。
彼らの話から推測すると、僕が倒した吸血鬼の名前はシュタイアーというらしい。そして、彼らはシュタイアーの眷属たちがファングの森を荒らしまわっているのを見て、彼が死んだことに気づいたようだ。
ただし、シュタイアーが森のどこで死んだのかは分からなかったようだな。そこで、まずは館を調べてみようとしているものの、館にある結界が邪魔で入れないらしい。
この館って吸血鬼とアンデッド以外は入れないような結界が張られていたんだな。
気がつかなかった。もしかしてあれか。地下室の魔法陣には魔力が流れていたが、あの魔法陣が結界を作る魔法だったのかもしれない。
それにしても、このままだとまずいな。3体の魔物はかなり強そうだ。おそらく、1体1体がシュタイアーレベルの実力者なんじゃないだろうか。
おまけに、彼らは吸血鬼やアンデッドに対してあまり良い印象を抱いていないっぽい。そんな彼らと敵対するのは避けたいところだ。
とりあえず、このまま隠れていても仕方がない。彼らの前に姿を現し、友好関係を作れないか交渉してみよう。
森の中でこそこそ隠れながら生活するなんて嫌だしな。ここから逃げだしたところで、吸血鬼となった今の僕には居場所がない。
ファングの森を出て行ったとしても町には吸血鬼を嫌う人間がいる。そして人間のいない場所は彼らのような魔物たちが住んでいるってわけだ。
それに、隠れているところを見つかったら、それはそれで彼らに悪印象を与えてしまう。そんなことになるくらいなら、自分から積極的に姿を見せる方が良いだろう。
僕は茂みから門の前へと移動した。




