第3話 死のふちをさまよって
「ふむ。一人だけ戦闘に参加しない者がいることが不思議だったが、まさかこれほどの魔力を持ち、バーサーク化の魔法が使える人間がいるとは。珍しい」
戦闘を行いたいという欲望だけが脳内を支配していく。僕は何も言わずに、吸血鬼に向かって突進する。この魔法を使うと、敵を倒す途中で意識を失ってしまうことが多い。
意識を失ったとしても、身体が勝手に戦闘をし、勝利をおさめてくれるので別に構わないのだが。
「無理。多分、銅ランクの切り札でも勝てない」
吸血鬼に突撃する中で、マチルダの声が聞こえてくる。
「だからずらかるんですよ。元々銅ランクは使いつぶす予定でした。それが早まっただけのことです」
「アルバートの言うとおりだ! 誘爆斬!!!」
後ろから爆発音が聞こえてくる。誘爆斬は範囲攻撃型の魔法だ。おそらく、吸血鬼の眷属たちを倒して逃げるつもりなのだろう。僕を見捨てて。
吸血鬼にはかなり近づいている。今更後ろを振り向いてザインたちが逃げようとしているのか確認する暇はない。そんなことをすれば吸血鬼に殺されるだろう。吸血鬼との間合いに近づいた僕はメイスを振り上げる。
そこで僕の意識は途絶えた。
◆❖◇◇❖◆
気がつくと僕は地面に倒れていた。どうやら気絶していたらしい。目を開けると、少し離れた所に吸血鬼が倒れていた。
「よもや人間に倒されることになるとはな」
彼の一言により、僕は気を失う前の出来事を思いだす。吸血鬼は首や手足がおかしな方向に曲がっており、身体の至る所から出血もしていた。もう回復するだけの魔力が残っていないみたいだ。
自分の手元を見ると、血まみれになったメイスが握られている。状況的に、バーサーク化したせいで気を失っていた僕が吸血鬼の魔力が尽きるまで攻撃し続け、勝利したのだろう。
僕は立ち上がろうとするも――。
「痛たたたた」
右足に力を入れようとしただけで脇腹に激痛が走る。見ると、僕は左わき腹から血を流していた。
「それだけじゃないか。あばら骨も何本か折れているな」
他にも、何箇所か軽い傷を負っているようだ。身体中がじんじんと痛む。僕は腰にある革袋からビンを取りだすと、蓋を開けて飲む。
しかし、それでもわき腹からの出血は止まらない。
「無駄だ。この私が呪詛を込めながら爪で深く切り裂いたのだ。低級ポーションごときでは癒せん」
「そうなのか。ああ、ザインたちに見捨てられなければなぁ。マチルダは僕じゃお前に勝てないとか言っていたけど、勝てたし」
「ふん。仲間を見捨てるとは、低俗な人間らしい。ところで、貴様は死ぬ前だというのに、なぜそうも平然としている」
「なぜと言われても。ここ最近、ザインたちは無茶な依頼やら探索を繰り返していたからね。そのうち強力な魔物に殺されるかもしれないことは覚悟していた」
「ふはははははは!!!!」
「どうして笑うんだ?」
「いや、貴様は人間のくせに面白い。あの逃げだしたお前の仲間と違い、死に対する執着が薄いとは」
「そりゃあ、ザインたちはあれだけの実力があるんだ。冒険者として歴史に名前を残すまでは死ねないだろ。一方で、僕にはバーサーク化の魔法しかないからね。拠点にしてる町じゃ僕は落ちこぼれだと有名だし。今死んだとしても後悔はないよ」
「そうか。ならば、もし生き残れる方法があるならばどうする? おまけに、以前よりも強くなった状態でだ」
「もし本当にそんな方法があるのなら、まだ死にたくないかな」
「ならばこの私の血をすするがいい。地面に流れてしまったのもあるが、可能な限り多くの血を吸い込むのだ。そうすればお前は吸血鬼となり、新たな人生を始められるはずだ」
「なるほどな。でも、そんな提案をしてよかったのか? お前こそ、僕の血液を取り込み、魔力に返還すれば死なないと思うんだけど」
吸血鬼は魔物や人の血液を飲み、血中に含まれる魔力を吸収すると聞いたことがある。
「いや、魔力というものにも相性がある。私の平凡な魔力とは違い、貴様の魔力は特殊だ。私がお前の血液を飲んでも魔力を増やすことができない」
「僕の魔力が特殊?」
「ああ。貴様はもしや、どこかの下級神や王族の血を引いているんじゃないか?」
「そんなことを言われても分からないよ。僕は本当の親が誰なのかすら知らないし。育ててくれた親の話によると、僕は故郷の村の近くにあった道端に捨てられていたらしい」
その育ての親も、村を襲った山賊どもに殺されてしまい、もうこの世にはいない。ザインたちと一緒に冒険者を始める前のことだ。
「そうか……ゴフッ……!!! そろそろ限界だ。死ぬ前に強者と戦えてよかった。感謝する。生き延びたいのなら、さっさと私の血を飲むが良い。血が劣化する前に……だ……」
それだけ言うと吸血鬼は息絶えたのか、沈黙してしまう。僕は意を決して吸血鬼のわき腹にある傷口から血をすすっていった。
「ジュル……ジュルッ……ジュルッッ!!?」
吸血鬼の血を飲むたびに、全身が火照り、激しい頭痛に襲われだす。
「ジュル……ジュル……ジュル」
だがそれでも、僕は懸命に吸血鬼の血をすすり続けた。彼に言われた通り、なるべく早く、少しでも多くの血を飲まなければならない。そんな気がしたからだ。
「ジュル……ジュルッ!? ゴフォッ! ハァハァ……ジュル」
身体中の火照りに加え、身体中の関節や内臓も激しく痛みだす。おまけに、意識も朦朧としだした。
「ジュル……ジュル……ジュル……こんなものかな……」
僕は吸血鬼の亡骸から可能な限り血を吸うと、意識を手放した。
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