⁑リューイの居ない世界(5)
「いやー今日のキーファーの大活躍ぶり…ヴィンセントにも見せたかったなー」
「いや、あれは俺じゃなくてテディだから…」
ヴィンセントの店に、こんな風に何人もの笑い声が響くのは、とても久しぶりだった。
リカルドとキーファーは、たまに顔を出していたが…カイトがとエルンがここへ来るのは、あのLIVEの日以来だった。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様ー!」
彼らはエールで乾杯した。
「いやー何とか追い返せて良かったなー」
「それもこれも、キーファーの助力のおかげだ」
「いやだから…テディなんだって!」
照れながら必死に訴える彼の胸元で…青い炎が、まるでドヤ顔を晒すように、勢いよく燃え盛っていた。
「カイトさん、エルンさん…調子はどうですか?」
ヴィンセントが…若干返し訊き辛そうに…定型挨拶を言った。
「ああ…」
「リューイさんは…変わりないんですか?」
「…」
「そうだね…相変わらずだな」
黙ってしまったカイトの代わりに、エルンが答えた。
「リューイの事も心配だけどさ…今日はキーファーを労ってあげてよー」
リカルドが、取りなすように言った。
「だから、テディなんだって」
「そうだな…キーファー…いや、テディも…本当にありがとう」
カイトは、穏やかに笑いながら言った。
「テディの好きなもの作りましたから、キーファーさん、しっかり食べてくださいね」
言いながらヴィンセントは、キーファーの前に…フワフワに焼き上げたオムレツに、デミグラスのようなソースがかかったものだった。
また、青い炎が…隣のリカルドでも視えるくらいに、ボワッと大きく燃え上がった。
「キーファー…それ、熱くないのかー?」
「いーや」
何でもないように首を横に振って…キーファーは、早速そのオムレツを食べ始めた。
ヴィンセントは、他の皆にも同じものを出した。
「ああ…懐かしいな…テディは卵が好きだったな…」
エルンが呟いた。
「そうだったねー」
リカルドも頷きながら、それをモリモリ食べた。
「この後には、キーファーさんの好きな、日本酒に合うお魚も出ますからね」
「おお、ホントか!」
「おふたりを労う会ですから」
ヴィンセントは、言いながらグラスを並べて、日本酒を注いでいった。
「…」
それでも…やはりカイトは、なかなか箸が進まない様子だった。
さっさとエールを飲み終わってしまった彼は、出された日本酒も、グビグビと飲んでしまった。
「そんな飲み方したら、また潰れるぞ」
隣でエルンが心配そうに言った。
「平気さ…」
そう言ってカイトは、おかわりを要求するように、空いたグラスをヴィンセントの前に置いた。
「はい、どうぞ」
おかわりの前に、ヴィンセントはカイトに刺身の乗った器を…ガタッと音を立てて置いた。
「…っ」
思わず一瞬身を引いたカイトに向かって、彼はいつになく強い口調で言った。
「ちゃんと…一緒に食べてくださいね!」
「…」
「カイトさんまで具合悪くなったら、このステーションはどうなるんですか!?」
「……」
「リューイさんだったら、もっと怒りますよ」
「…」
カイトは、少し寂しそうな笑みを浮かべながら…その器を自分の方に寄せて言った。
「…そうだな」
そして大人しく…それを食べ始めた。
と、そこへ…
キーファーが、ポンと手を叩きながら言った。
「何なら、皆でリューイん所に行くか?」
「えっ!?」
「酒と、ヴィンセントの美味い料理の匂いを嗅いだら…もしかしたら目が覚めるんじゃないのか?」
「ええー?」
リカルドは、若干冷ややかに笑いながら続けた。
「そーれはどうかなー」
彼の胸の青い炎も…またバカな事を言い出した的な様子で、チラチラと燃え上がった。
「いや、やってみる価値はある!」
エルンが、バンッとテーブルを叩きながら、立ち上がって言った。
「どうせもう、やれる事は尽くしたんだ…」
「…」
「ちょっとでも可能性がある事は、試してみよう」
それを聞いて、キーファーはニヤッと笑って言った。
「よし、じゃあ明日の夜は医療センターに集まろう」
「あ、いや…それはちょっと困るな…」
「だってリューイはそこにいるんだろう?」
「そうだけど…あそこに酒を持ち込むってのは…」
少し困った顔のエルンに向かって、リカルドが言った。
「大丈夫、治療の一環だから、大目に見てーって…俺がウィルフリードに言っといてやるよ」
「…」
「よし決まった!」
「じゃあ明日は、リューイさんの好きなもの…いっぱい作っておきますね」
「日本酒も持っていくか…あ、ワインはいいよな、エルンがいっぱい隠し持ってるから」
「えっ…あれは、俺がひとりで楽しむ用だぞ!」
慌ててうっかり、そう言ったエルンに向かって…
カイトは冷たい口調で言い放った。
「何だ、持ち込んでるんじゃないか」
「……」
エルンは、何も言い返せなくなってしまった。




