⁑リューイの居ない世界(3)
その夜…
キーファーはヴィンセントの店を訪れていた。
「リューイさんの様子は、どうでした?」
「ああ…全く意識が無かった」
「…そうなんですね」
2人は、シュンとした表情で、エールに口をつけた。
「エルンの見解だと…どうやら中身が地球に戻っちゃったらしいんだよな」
「えええーっ!?」
「何なら、テディが入ってもいいくらい…空っぽんなってたそうだ」
「…」
「まあ、そんな事したら…カイトに殺されるけどな」
キーファーの胸元の青い炎が、激しく同調した。
「だったら…例えば、本物のリューイさんが戻って来るって可能性は…無いんですかね?」
「それは…どうかな…」
キーファーは、エールを飲みながら…続けた。
「もし…また本物のリューイに戻ったとして…俺らは、それを受け入れられるか?」
「…」
ヴィンセントは、下を向いて黙ってしまった。
「俺だったら…テディが入ってくれた方が、まだマシなような気がするんだが…」
「…」
ヴィンセントは、ふふっと笑って言った。
「不思議ですね…僕も、そう思います…」
「今となっては…前のリューイの方が、偽物だったんじゃないかって、思えるよな」
「…はい」
「戻って…来てくれるといいんだが…」
「本当ですね…」
2人は、空を見つめながら…心からそう願っていた。
それから数日…いや、数十時間が過ぎていった。
リューイの身体は目覚める事なく、エルンも、ただただ数値を測りながら、かろうじて生命維持のための処置を続けていた。
外壁改修工事も順調に進んでいた。
戦闘部隊の訓練も、日々滞りなく行われ…隊員たちは、着々とレベルを上げていた。
そんなある日…
またもステーション中に、鈍い警報音が鳴り響いた。
「今度は何だ!?」
カイトは、リサーチ階のリカルドの元へ駆け込んだ。
「こないだとは違う奴らが来た」
「何たって」
「初めての相手だ」
「どんなステーションなんだ…勝算はあるのか?」
「未知数だなー」
リカルドは、画面の前のキーボードを叩きながら、呟くように言った。
「まあ、例の紫の奴らよりはマシだと思うんだけど…油断はは出来ないって感じかなー」
「…」
そしてリカルドは、カイトの方を振り向きながら続けた。
「リューイは…まだ意識戻んないの?」
「…ああ」
「…そっか…」
彼は溜息をつきながら目を伏せた。
「リューイが居なくても、十分戦えるんだろ?」
「もちろんだ…」
キッパリ言い切るカイトを見て…リカルドは、ニヤッと笑って言った。
「よし、そっちは任せた。俺も、可能な限り情報を集める…」
「了解…」
カイトはくちびるをギュッと噛み締めた。
訓練に戻ったカイトの元へ、レオとジョシュアが駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「また、アイツらが来るのか?」
「いや…初めての相手らしい」
「そうなの!?」
「どんな相手か分かんないの?」
「リカルドが、調べてくれている…」
「…」
「大丈夫かな…リューイも居ないのに…」
何となく不安気な2人に向かって、カイトは続けた。
「どんな相手だろうと…全力で立ち向かうだけだ」
「…っ」
「今の俺たちなら、大丈夫だ…そうだろ?」
そんなカイトの力強い言葉に…
2人は意を決した表情で頷いた。
「…そうだね」
「うん」
「訓練を続けよう」
「分かった」
自分の訓練場に戻っていく、2人の背中を見送ったカイトは…他の面々が、それぞれ訓練に勤しんでいる、その体育館を見渡した。
(…大丈夫だ)
彼は自分に言い聞かせた。
(リューイ…お前が目覚めるまで…俺たちは、このステーションを必ず守ってみせる)
そしてカイトも…自分の訓練に戻った。
「リューイが居なくて大丈夫かな…」
少し不安そうな表情で…
マテルはウィルフリードにそう訊いた。
「リューイのおかげで、戦闘部隊はもちろん、このステーションの守備レベルは格段に上がったからな…」
ウィルフリードは、顔色ひとつ変えずに…穏やかに微笑みながら続けた。
「何も心配は要らないさ…」
「貴方がそこまで言い切るのも、珍しいね」
マテルは、そんな彼の腕に自分の腕を絡めた。
彼らは、カウントダウンの画面を見つめた。
それは既に3桁を切っていた。
「外壁改修は…いったん中断だなー」
「そうだな、明日中に完全撤収しよう」
理数系男子2人も、そんな相談をしていた。
「コア部屋は完成したからね…相手のレベルにもよるけど…まあ、何とか持ち堪えられるんじゃないかなー」
そう呟くサバの肩を抱きながら…アルバートが呟くように言った。
「そうであって欲しい…」
「うん…きっと大丈夫だよね」
サバも、自分たちに言い聞かせるように言った。
「明日そっちを片付けて…あとは俺たちも、守備力アップに集中しようー」
「ああ…そうしよう…」
それぞれが…それぞれの立場で、新たなステーションの侵略に向けて、思いを巡らせていた。
「リューイ…」
カイトは、目を閉じたまま動かない、僕の身体に寄り添いながら…今夜もなかなか寝付けない、長い夜を過ごしていた。




