⁑リューイの居ない世界(2)
その日の訓練を終えて…
カイトは一目散に医療センターに戻ってきた。
「リューイは!?」
「…何も変化無しだ…」
「…」
カイトは、肩を落として僕に近付くと…ベッドの傍に崩れ落ちるように座った。
「特にどこにも異常は無かった…」
「…」
「何で、生命維持の数値が下がってるのか…原因が全く分からない…」
「…っ」
それを聞いたカイトは、僕の顔を両手で覆うと…エルンが横にいる事も憚らず、勢いよく僕に口付けた。
「…!」
エルンは思わず目を逸らした。
カイトは必死に、僕の身体にコアを流し込んでいった。
しかし残念ながら…
僕のコアが、カイトに伝わる事はなかった。
カイトはゆっくり口を離れると、泣きそうな表情で僕の顔を見つめた。
「リューイ…何でだよ…」
彼は、何度も何度も…僕に口付けた。
「リューイの調子はどうなんだ?」
フォーンから声がした。
事情を聞きつけたキーファーが、医療センターを訪ねてきたのだった。
「あー今ちょっと、お取り込み中だから…」
そう言ってエルンは、扉を開けるとすぐに、キーファーを向こうに向かせた。
「……」
キーファーは、少し顔を赤くして…お取り込み中の僕らに背を向けたまま、エルンに訊いた。
「それでも…意識が戻らないのか?」
「…そうみたいだな」
「何が原因か、分からないのか?」
「サッパリだ…今のところは」
そのとき、キーファーの胸元の青い炎が、何か言いたげにメラメラと燃え上がった。
「…テディが…診させて欲しいって…言ってるな」
「…そうか…」
エルンはチラッと後ろを振り返った。
「試してみる価値はあるが…」
彼は少し苦笑しながら続けた。
「もしそれで、リューイの意識が戻ったら…カイトがまた落ち込むだろうな」
2人は、ふふっと笑い合った。
そしてエルンは、こっちを向いたまま…大声でカイトに言った。
「カイト…テディに、リューイを診せてくれないか?」
「……」
カイトは、黙って僕から離れた。
そして彼は、フラフラとキーファーに近付いていくと…深々と頭を下げて言った。
「頼む…お願いします…」
「…わ、わかった」
そんなカイトの様子を見て…キーファーは思わず、くちびるを噛み締めた。
(落ち込む心配なんて、無かったな…)
エルンが、そんな風に考えた事を恥ずかしく思うくらいに…カイトの表情は真剣だった。
キーファーは、ベッドの傍に立つと…青い炎に向かって語りかけた。
「テディ…頼んだぞ」
(……)
そしてキーファーは、そっと僕に口付けた。
その瞬間…外からも分かるくらいに、青い炎が大きく燃え広がって、2人の身体を包み込んだ。
「……」
カイトとエルンは、その様子をじっと見守っていた。
しばらくして…その炎が段々と小さくなってきたところで、キーファーはようやく、僕から口を離した。
「どうだった?」
「……」
エルンとカイトが駆け寄った。
キーファーは、大きく息を吸ってから…語り始めた。
「今のリューイの身体は…何ならテディが入れるくらい…まるで空っぽだったそうだ」
「…えっ?」
「どういう事だ…」
「丸ごと消えちゃったって…言ってる」
「…」
「もしかしたら…その、地球って所に…戻ったのかもしれないって…」
「…!!!」
カイトは、目を丸くして、身体を強張らせた。
「そう言えば…前にもそんな事があったよな…」
エルンは、記憶を手繰りながら呟いた。
「地球の身体は、全く動かせなかったとか…」
「…」
カイトは目を伏せた。
エルンは続けた。
「もしかしたら…いや本当にもしかしたら…だけどな、向こうの身体に変化があったのかもしれないな」
「それは、どう言う意味なんだ?」
キーファーが訊いた。
「向こうの身体が、意識を取り戻そうとして…リューイの中身を呼び戻したんじゃないか…って事」
「…そんなの、信じられないな…」
「いや、言ったら…地球からこっちへ来たっていうのが、始めから信じられない事だろう?」
「…まあ、確かに…」
「だったら、戻った…っていうのも…有りだろう」
「…」
2人の会話を聞いて…カイトはまた泣きそうな表情で、僕の隣に座った。
「まあ、もう少し様子を見よう」
エルンはそう言って、カイトの肩を叩いた。
その頃…
ウィルフリードは、地下でずっと長い時間…
コアに向き合い、語りかけ続けていた。
コアは、いつものように美しく光り輝きながら…時折り、彼に向かって光の粒を投げかけた。
それを両手で受け止めながら…ウィルフリードは、何もかも理解した様子で、穏やかに微笑んだ。
「なるほど…全てはその、創造神の匙加減っていう事なんだな」
そんな彼の呟きに…コアは、まるで相槌を打つかのように、ユラユラと揺らめいた。
「戻って…来てくれるだろうか…」
コアが、パァーッと煌めきを増した。
「…」
それを確認したウィルフリードは…少し安心したような表情で、その場を後にした。




