⁑リューイの居ない世界(1)
「エルン!来てくれ!!」
翌朝、カイトは、ものすごい勢いでフォーンに向かって叫んだ。
「…ん、何だ?」
「早く来てくれ…リューイが…」
「…え、リューイが…どうした?」
「リューイが、目を覚さない!」
「何だって!?」
ほどなく、エルンがカイトの部屋にやってきた。
「どういう事なんだ…?」
カイトは、青ざめた表情で、エルンを迎え入れた。
「リューイが…動かない…」
「…」
僕は、昨夜のままベッドに横たわっていた。
エルンは深刻な表情で、僕の腕を取ると…持ってきたいつもの機械を巻き付けた。
「…あの後…どんな様子だった?」
「特にいつもと変わり無かった…」
カイトは、動転したように続けた。
「確かに飲み過ぎだったし…その…寝る前にも無理をさせてしまった…」
「…」
「疲れてたのに…」
「数値が…下がってる…」
機械を見ながら、エルンが小さい声で言った。
「俺のせいだ…俺が、あんな無理言わなかったら…」
「落ち着けカイト…何か他に原因があるかもしれないだろう?」
泣きそうに動揺するカイトの肩を…エルンが力強く押さえ込んだ。
「とりあえず、医療センターに運ぼう」
「……」
カイトは、動かない僕の身体を抱き上げると…エルンの後について、医療センター階へと向かった。
「とりあえず、リューイの事は任せて…カイトは訓練に行ってこい…」
「…わかった…頼む…」
すっかり項垂れたカイトの背中を見送って…エルンは改めて、僕の腕に巻かれた機械を見つめた。
(これは…どういう事なんだろうな…)
所謂、コアのレベルを示す数値は、むしろいつもよりも上がっていた。それなのに、生命力を示す数値の方が激減しているのだ。
(身体に異変があったとしても…リューイには治癒能力があるんだから、勝手に回復する筈だ…)
(ましてや、コアの数値はむしろ増えてるのに…)
「…」
とりあえずエルンは、僕の身体のどこかに異常が無いか、徹底的に調べていった。
「あれ、リューイはどうしたの?」
レオとジョシュアが、早速カイトに尋ねた。
「少し具合が悪くて…医療センターに行ってる」
「ええっ…そうなの?」
「昨日はあんなに元気だったのに…」
「リューイどうしたの?」
「どこが具合悪いの?」
聞き付けた他の隊員たちも、口々に言いながらカイトを取り囲んだ。
「…エルンが、調べてくれてる…」
カイトは、心そこに在らずな様子で答えた。
「…」
「そうなんだ…」
そんな彼の様相を見て…
皆は、それ以上問いただす事が出来なかった。
「大丈夫だよ、カイト…きっとすぐに良くなる」
「リューイに余計な心配をかけないように、僕たちは訓練に集中しよう?」
レオとジョシュアは、そう言いながら、宥めるようにカイトの肩を叩いた。
「…そうだな」
カイトは、小さく頷くと…シャキッと背筋を伸ばして、いつものように皆の前に立った。
「皆すまない…リューイは居ないが、それぞれいつも通りの訓練を進めていこう」
カイトの言葉に、誰もが頷いた。
「集中を始めよう」
彼の号令を受けて…隊員全員が、その場に座った。
例のメロディーを、各自のイヤホンで聞きながら…皆がそれぞれ、自分の中のコアに集中していった。
それは、特に何の変哲も無い…毎日行われる訓練の風景だった。
カイトも座って…目を閉じた。
彼は、コアだけでなく…自分の中に在る、僕を必死に手繰り寄せていった。
昨夜あんなに交流して、溢れるくらいだったはずの僕が…カイトの身体の中で、とても小さくなっていた。
(くそっ…)
しかもそれらが…まるで蒸発していくように、どんどん薄れていってしまうのだ。
(リューイ…行くな…俺から出ていくな!!)
カイトは必死に僕を想った。
「どうなってるんだ!?」
エルンに事情を聞いたウィルフリードが…もの凄い勢いで、医療センターにすっ飛んできた。
「うわっ…ビックリした…」
「リューイ…」
彼は僕の寝ているベッドに駆け寄った。
「全く…リューイと言い、あんたと言い…飛んで来る前に、ひと言断れないもんかねー」
ブツブツ言いながらも…エルンは腕に巻き付けた機械を、ウィルフリードに見せた。
「ほら…こっちの数値には問題ないんですよ」
「…」
「他にも異常が無いか、調べてるところなんですけど…さしあたり、目立っておかしい症状は何も無いんです」
「どう言う事だ?」
「こっちが聞きたいくらいです」
「…」
ウィルフリードは、目を閉じて動かない、僕の顔を見下ろした。
「昨夜はどんな様子だった?」
「まあ確かに、ステージをこなして、疲れてはいたと思いますけど…それ以外は特に変わった所はありませんでした」
「その…新種の飲み物に問題があったとか」
「あの場にいた、他の全員は何ともないですからね…その可能性は低いと思います」
「…」
ウィルフリードは黙ってしまった。
「様子を見て…更に調べてはみますが…」
「…」
「こっちの…生命維持の方の数値が下がっていくのを、どうやって食い止めたらいいものか…」
「…何としても、食い止めてくれ」
そう言い残して…ウィルフリードは、またシュッとどこかへ消えてしまった。
残されたエルンは…
深い溜息をついて、僕を見下ろした。




