⁑宣告
どれくらいの時間が経っているんだろうか…
あっちの世界のリューイの身体だったら、そのくらい体内時計でわかるのに…残念ながら今の身体は、本当に…これっぽっちも何の力も無かったのだ。
それでも、ヒロが近くにいる事だけは分かっていた。
彼は、僕がいる部屋をウロウロしたり…ときには僕の手を握り…ときには僕の頬をそっと撫でた。
それから彼は…大きな溜息をついて、また僕の手を握りながら…少し言い辛そうに、切り出した。
「担当の先生から説明があってね…氷威の…意識が戻る兆しが見えてきたって…」
うーん…それって…
意識が戻ったら…もう僕は、あっちの世界には帰れないって事なのかな??
「家族はもちろん、それを望んでる…」
まーそりゃそうだろうけどな…
もちろん、両親の事を…全く思い出さなかったわけではないし…僕がこんな事になって、どんなにか辛く悲しい思いをしているであろう事も想像はつく。
「氷威…いや、リューイ…」
ヒロが僕をそう呼んだ。
「君は…どう思ってるんだろうなって…」
それでもやっぱり…
出来るならリューイの身体に帰りたいと…僕は思ってしまっていた。
「もし…君が、あのままずっと、リューイとして生きていく事を望んでいるのなら…」
うんうん…
望んでいるのなら??
「おそらく…こっちの氷威は…死ぬ事になる…」
あー
やっぱ、そうなりますよねー
「正直…俺は迷ってる…」
ヒロは、大きく溜息を吐きながら…握りしめた僕の手を、さするように撫でながら続けた。
「お前の意識が戻る可能性があるなら…やっぱり戻ってきて欲しいと、思ってしまう」
……
地球に戻ったら…
ここでヒロたちと一緒に、またバンドで歌えたら…
超能力者みたいな力なんて無くても…風景も美しくて、食べ物も美味しいこの日本で…訓練なんて無い、普通の生活を送れたら…
「なあリューイ…どう思う?」
……
僕は、すぐには答えられなかった。
まあ実際…答えられたところで、伝える術も無かったのだが…
もし…僕が居なくなったら…
あっちの人たちは、どうなるんだろう…
コアの部屋も改修した。外壁の改修も進んでいる。
あのメダルを使った力も併せての、これからあのステーションの守備力は抜群に上がるだろう。
あのメロディーと再生機があれば、戦闘部隊の皆も、どんどんパワーアップして強くなっていくだろう。
もしかして…
あっちの世界で、僕に出来る事は、もう無いのかもしれないな…
何なら、僕が居なくなったら、リューイの身体にまた本物が入るのかもしれないし…
そしたらカイトだって…
そして僕はハッとした。
カイト…
動かない身体の中で…僕の意識は、更に絶望した。
このまま、こっちの身体に戻ってしまったら…もう二度と、カイトに会えないのか!?
そうだった。
例えあっちの世界に、僕のやるべき事があろうが無かろうが…僕の答えは決まっていた。
大好きなカイトのそばにいたい!
リューイとして、ずっとカイトと一緒にいたい!!
僕は必死に訴え続けた。
ヒロ!
お願いだから…僕をあっちの世界に戻して!
氷威が死んでもいい…
僕は、リューイとして生きたい!
ヒロ…お願い!!
そのとき…
必死の熱意の訴えが、僕の身体に変化を催した。
「…っ…氷威…!?」
僕の閉じた右目から…ひとすじの涙が、溢れた。
「氷威、聞こえてるのか!?」
ヒロは立ち上がって、僕の顔を覗き込んだ。
しばらく僕の顔を見つめた彼は…くちびるを噛み締めながら、小さい声で言った。
「…戻り…たいのか?」
戻りたい!
僕は必死に念じた。
ごめんなさい…ヒロ…
それでも僕は、リューイに戻りたい!!
「…わかった」
ヒロは、また僕の手を両手でギュッと握りしめると…少し寂しそうに微笑みながら続けた。
「そうだな…こうして手を握る事は出来なくなっても…俺はいつでも小説の中で、お前に会えるんだもんな…」
ヒロはしばらく黙っていた。
おそらく…自分の気持ちを、必死に整理してくれていたんだと思う。
やがて、覚悟を決めたように…彼は言った。
「少しだけ…時間をくれないか?」
…?
「お前と、ちゃんとお別れさせて欲しい…必ず、カイトの元に戻すって…約束するから…」
僕は心の中で頷いた。
今度は左目からも、涙が溢れた。
それから、僕の周囲は、バタバタと慌ただしくなった。
医師や看護師と思われる人たちが、声を上げながら、僕の身体に、色々な機械を取り付けていった。
機械からの刺激が、身体の中に伝わってきて…それが、僕の…動こうとする力を呼び覚まそうとしているのが分かった。
僕は必死に…その刺激に意識を集中した。
「…」
「もう少しだ!」
医者らしい人の、怒号のような声が聞こえた。
機械の刺激が、更に強まった。
「……」
その刺激の力に押されて…僕はやっとの思いで、くちびるを少しだけ動かす事が出来た。
「動いた!」
周囲が更に慌ただしくなった。
「氷威くん…分かるか!?」
「……ぃ」
僕は…ゆっくりと…薄目を開けた。
医者や看護士らしい、何人もの人たちが、僕の顔を覗き込んでいる景色が目に映った。
「…」
そこはまさに…
地球の、日本の…病院に間違いなかった。
本当に…戻って…来ちゃったんだな…
僕は改めて…
安堵とも絶望ともつかない気持ちに襲われた。




