黒猫と少女 その六
「本当にごめん!払えるかなーって思っちゃってたんだよー」
結局、後で返すという約束をして払ってもらったのだが…
「別にいいわ。問題はちゃんと返してもらえるかね。どうかしら?」
その自信は無いぞ。正直に言ってしまえばな。
「肝に銘じておく」
「そんな事どうでもいいのよ。今は」
晴れた日の午後というのは、眠気を誘う。
特に春。ベランダに干してある布団に顔を埋めるのは最高だからな。
段々眠くなってきたのだが、クロエ嬢の足が急に止まったので驚いて急いで俺も止まる。
「どーしたよ?」
「何処を通って帰るのか よ。」
「そりゃ…あ。」
急いでスマホを開き、地図を見る。位置情報は
あの公園の近くだった。
「無意識に元の道を通って帰ろうと思ったのかもしれないわね。」
「兎に角、どーすんだ?やっぱ、ここの前通った方がクロエ嬢の家に近いからな。」
「中に入らなければいいのよ。きっと」
再び歩き出して、確認する。
風に揺れているブランコに 錆が目立ってきた鉄棒
誰かが作った砂の城。
「猫」
「どした?クロエ嬢」
「いないわね。」
「 本当だ。」
「嘘つかないで」
確かに、俺は公園内を見ていたが 話しかけられるその瞬間まで、探し出せなかったんだ。
「本当だよ。 約束する」
チャラけた感じで言っておいたから、信じてもらえてないだろう。 それでいいから いいんだけど。
「そう。じゃ約束よ?嘘をつかないっていう約束ね。私との約束を破ったら…」
「…破ったら?」
「私の 奴隷よ。何でも命令するから」
………………重っ!?
「約束…する?」
威圧がはんぱない。約束しなければならない流れ
に立たされている。
「はい、もちろんでございます。」
「ふふっ」
可愛らしい笑顔で笑う少女。この笑顔をいつもしていればいいのに。そしたら、好きな人とも付き合えるぜ?きっと。
歩きというのは、一人だとあまり楽しくなく面倒だが、誰か一緒にいてくれると意外と早いもの。
「着いたなー。いやー意外と早いな。」
「ありがとう。送ってくれて。」
当たり前だろ そんなこと位。
「いえいえ、そんなことねーよ。」
「だから、チャラにしてあげるわ。カフェのは」
「奴隷は?」
「駄目よ。」
なんで期待したんだろ俺。
うなだれるように、頭に手を当て下を向く。
「な、何よ。約束を破らなければいいのよ?まだ、
チャンスはあるじゃない。」
「はは…それもそうだな。」
「二日間ありがとう。何か、もしあったら」
もし、あったら?
「その時はまた、あんたを頼る。約束する。」
その笑顔は優しい微笑みだった。
「そうか、じゃあ破ったら…」
このやり取りさっきも聞いた。繰り返しているの
だから 結果は同じ。
「破ったら…何かしら?」
「俺の奴隷。何でも命令するからな」
「重いわね。正直引くわ。」
「何いってんだか!」
「おあいこね。どっちもどっちよ。いいでしょ。」
「だな。」
話すことも尽きた事だし、帰って休憩しようかとでも考えてたその時。
「みゃーお」
猫の鳴き声がした。一瞬だけ心臓が跳ねた気が
あったのたが、さすがに騙されない。
「…鳴き声が少し違うじゃんか!しかも、思いっきりクロエ嬢の声だしさ!」
予想外の行動にツッコミが飛び出す。いやいやいや
こんな人だったのか。
「バレた?あんたもそこまで阿呆じゃないのね。」
「なんだよそれ!?」
「じゃあね。明日に備えて休んで頂戴。約束よ」
足元を黒猫が通り過ぎていく。少しすました顔で
歩いていくと、立ち止まり振り向いた。
「にゃーお」
「ああ約束する。」
目を離さなかったつもりだったが…既にいなくなっていた。
「じゃあ、また明日。」
「ええ、絶対に。」
だんだん陽が長くなってきて、心なしか昨日よりも
明るく思える。
早く帰って家族に会おう。
唐突に出てきた感情を抑え、電車に乗り込んだ。




