黒橡の探し物 その4
「おい待てよ!」
クロエ嬢は呼び止める暇もなく、廊下へと飛び出していった。
慌てて追いかけるも、少し進んだ先で立ち尽くしていた。クロエ嬢は俺に気づいて後ろを振り向く。
「あら…ショウ…何をしているの?早く帰りなさいよ。今日、部活ないんでしょ?」
「…は?まぁ、確かに無いけれど、いや…は?」
何言ってんだこいつと思った。いや、真面目に。
追いかけて行ったんだろ?で、なんだなんだ…早く帰れと促してきた。
「なんで驚くのよ。私に見つかると悪い事でも隠しているわけ?はぁ…また器物破損届かしら?」
「いやいやいや、溜息をつきたいのはこっちだぜ!?あのクロエ嬢が追いかけていった奴は!?お守りは!?」
「…何の事よ?阿呆だとは思っていたけどここまでなのね。お守り?何であんたがそれを知ってるわけ?」
どうも噛み合わない。俺が悪い夢か何かを見ている…とでも?
「あ、え、っと何でもねーよ。やましいことなんて何も…ねぇし。」
傾きかけている夕日は窓から俺達を照らす。
「そう、じゃあ、これで私は帰るわね。用事がないのに居続けるのは補導の対象よ。」
「そーかよ。クロエ嬢こそあまり遅くなると狼にとって喰われるぞー」
違和感を覚えていた。何かがおかしい。いや、全てだ。部活が無いことを知っていた?それとも今までの事を忘れていた?
1度教室へと戻り、荷物を取りに入った。
「ん…何だよ…何が可笑しいんだ?」
おかしい事だらけだが、それ以上に突っかかる。
窓から差し込んだ光が、机や椅子、窓側にある花瓶に影をつくる。そして教室に1人の俺。
「あ…」
そうだ、この世界は可笑しい。きっと、あの学校にいたはずの生徒や先生、全員が消えた時からだ。
それ以前は普通だった。確かに探していた。
「追いかけなくちゃあな…」
走らないと、あのクロエ嬢の偽物に。帰らせるわけには行かない。帰らせたら…駄目だ。俺が帰れなくなるに違いない。本能的なやつだ。
荷物を置いて昇降口へ全力で走る。まだ帰ってないことを願い、下駄箱の方へ目を向ける。
「意外と、早かったじゃない。」
「どーゆー意味だ、それ。」
「私にここまで早く会いに来てくれるなんて、思ってなかったわよって事。」
「冗談きついぜ?俺は待ち合わせに来るのは早いからなぁ」
「あらそう。さて、帰りましょ。」
「おいおい、待てよ。俺はクロエ嬢に会いに来たわけじゃない。」
「気づいたってこと…?そう…じゃあ帰らせてあげるわ」
案外諦めは早く、白状した。でも、まだもやもやが、謎が残る。
「何で、こんなことになってんだ?俺は」
こちらを睨みつけてきた。悲しみと怒りに濡れて、美しくも思える瞳で。
「考えなさいな。あなたの推理はまた今度聞くことにするから。」
「おい…!?待てよ!?」
捕まえようとしたけど、逃げられてしまった。飛んで消えたような…静かに消えていった。
俺も急いで、外へと続く扉に向かった。




