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ロイロの日常  作者: 寸劇
第二章 いつも通りの 夏
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幽霊と少女 その七

「ああああああああ!!!」

なんとか、ハリーを引っ張り後ずさりしたものの 足がくすみ 動けない。蛇に睨まれた蛙とは正に、このことなのだろう。

片腕がないせいで、バランスが取れていないのだろう。右に全体が傾いている。

暗闇なのに、姿が見えてしまったら もう恐怖は拭いきれない。

「ショウ…助けてよ…ぅう」

そうだ、俺はこの明るくて優しくて…可哀想な幼馴染を助けるって決めたじゃないか。

「もちろんだ、ハリー」

だんだんと 無常にも近づいてくる幽霊に集中し

顔の方をもう一度だけ見てみた。


「あれ…?この……顔…。」

見たことがあった。記憶の片隅。いやもう、底辺まで沈んでいた記憶。

顔を見なかったから気づかなかったのか?いや、違う先程より近いから、はっきりと見えてしまっている。 それだけだろう。

木の幹に人の顔が、点が三つで顔に見える。とか

シュミラクラ現象だっけ?あれのせいかも。

「まさか…まさか…な」

でも、その現象で知人の顔に見間違えるなんてあるのか?

幽霊があと、1メートル位まで近づいていた。

ハリーの震えは、酷くなってきていた。

彼女も気づいたのだろうか。いや、見えてしまったのだろうか。泣きそうな顔でこちらを見た。

よし、またあれを使おう。今度はここの中じゃない。外だ。

「ハリー、俺はお前を守る。昔からの仲だから」

「ありがとう。ショウ…。」

だから、手を引いて俺とハリーは立ち上がった。足の震えも肩の震えも、なんも止まってないが、留まってちゃ 先に進めない。

「あぁ…」

悲しそうな声をあげないでくれ。悲しそうに消えないでくれ。

逃げている時に見えた、幽霊の姿。

それは、我が子との別れを悲しんでいるような 母親の姿に酷似していた。

多分、あの幽霊は。


無我夢中で逃げ延びた先にはちゃんとドアがありもちろん鍵も開いた。懐中電灯を置いてきてしまったが…取りに行く気力など残っていなかった。

意外なことにあの地下室にいた時間は、そこまでじゃ無かったようだ。

停電も、豪雨も、起こっていなかったかのようになっていた。

時計の指す数字は長針が7。短針が11。まだまだ

居れないことはないけど、帰ろうと思った。

「ハリー、1人でも大丈夫か?うちに来る?」

ソファーにひとり、横たわっていた少女は静かに

顔を横に振った。

「分かった。何かあったら連絡してくれ。」

「ごめんね、ショウ…。本当に、ごめん。」

「全然 こちらこそ、ごめん。」

あはは、何で謝るの!何て優しく笑って言った。

けれど、水色の瞳からは涙が出そうだった。

「地下室の鍵、ある?」

「あーうん」

ズボンのポケットから取り出した鍵。

「借りるわ、これ。すぐ返す。」

「分かった。だから、絶対無事で返してね。」

「ああ、絶対だよ。」

ハリーは地下室の鍵を締めに行きたくないだろうから、代わりに行くことにした。

地下室からは、なんの音もしなかった。扉を開ける気には到底なれないので、締めるだけ。

玄関のキーストッカーに掛けておいた。次に開けるのはいつになるのだろう。

「じゃあな、ハリー。また、明日にでも。」

「約束…だよ。おやすみ。」

「おやすみなさい。」


夜空に光る星を少し見上げながら見ていた。

薔薇の香りのする庭を抜け、家路につく。

今日はなんて言って、説教をくぐり抜けようか。とか、明日の朝ごはんはフルーツが食べたいとか

考えていたけど。


やっぱり、母さんに会いたくなった。


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