【08】叛星會
〈シュウ視点〉
「やっぱりよぉ、人には適正とか適材適所ってもんが、あると思うんだよね」
「そうかなぁ? 僕は十分、シュウには適正があると思うけど?」
「いやいや、外野からそう言ってもらえるのはありがたいけど、やっぱ本人の肌感はまた別物なのよ」
「ふーん。なんか、贅沢な悩みだね」
「ははっ、これがなんでもデキちまう男の辛いところよな」
「うわ、今度はただの嫌味だ」
「あ、バレた?」
「ふふっ」
なんて。
少し打ち解けた空気感を、醸しつつ。
体育館での体力測定を終えた俺は、ユウヤと並んで廊下を移動。
今度は運動場へと向かっていた。
(よしよし、いい感じだぞ〜)
個人的には互いの悪口を気兼ねなく言い合える関係性を築けたなら、友人まで、もう一歩だと考えている。
俺とユウヤは出会ってまだ半日も経っていないが、この辺りの感性は、大人になるほどに失われていく子どもならではの距離感だった。
(このぶんなら今日中に、勧誘成功までイケちゃうんじゃね!?)
とはいえ見た目は子どもでも、中身は汚い大人である。
ユウヤとの会話に純粋な喜びを覚えつつ、しっかり打算も働かせていた。
「だから俺としては、トップで責任をとらされるより、ヒラで気楽にやらせてもらうほうが身の丈に合っているっていうか——」
「——あ、カイチョーっ!」
「チッスチッス!」
その目論見に暗雲が立ち込めたのは、下駄箱へと向かう途中。
廊下の向こうから歩いてくる見覚えのある連中に、声をかけられた時だった。
「おぅ、ちすちす」
つられて、俺も軽い調子で挨拶を返したのは。
それぞれが金と銀に、髪を脱色して。
だらしなく、体操服を着崩した。
如何にもワンパクそうな見た目をした、悪ガキどもである。
「……シュウの知り合い?」
「おう。アイツらもうちの『會員』だよ」
ちょっと及び腰なユウヤに、軽く説明をしておく。
「たまたまクラスメイトにはいなかったんだけどさぁ。この辺りで荒れてた同年代の魔力適合者どもって、だいたい叛星會に入ってるから、幼馴染たち以外にも何人かこの学校に受かってんだよね」
「……へえ、それは凄いね」
ぽろりと漏れた、驚きの声。
無理もない。
なにせこの中学校はまだ日本で十数校しか設立されていない、政府公認の『魔力適性者を育成する教育機関』だ。
入学のハードルはそこそこに高い。
とはいえ一周目という知識を持つ俺であれば、適正ある対象に魔力鍛錬を施すことで、この時代における高水準値まで能力を押し上げることは……かなり大変だったが、不可能ではなかった。
(でもそんな裏事情を知らなけりゃ、知り合いが何人も中学に入学できてることに、驚くわな)
実際にユウヤの知り合いは、いないみたいだし。
本当ならこの機会に、友人の輪を広げて欲しいところなんだけど……
「カイチョー、マジで『星』と違うクラスなんっスねー」
「ウザいヤツいました? なんならオレらのほうで、シメときますよ?」
将来の頭皮が心配になる少年たちは、俺に対して親しみのこもった視線を向けているものの、隣にいるユウヤを気にかける素振りが一切ない。
ま、想像通りだ。
(しゃーねぇ、さっさと退散してもらうか)
せめてユウヤが気まずくならないようと、前に出る。
「運動場組は、これから体育館か?」
「ウッスウッス!」
「安心してください! ちゃんと會の実力、ぶちかましてきてやりますんで!」
「やめとけ。ちゃんと先生の指示に従って、大人しくしてろ。いいな?」
「……っ! ん、リョーカイっス! ノーあるタカは、ツメを隠すって、ヤツっすね!?」
「フー! いっぺん油断させといて、後で一気に、シメる的な!? カッケー!」
「違うから。とにかく今は、目立つ真似すんなって。あと学校で『會長』呼びも禁止だから、忘れてんなよ?」
「ウィース! サーセン!」
「ウェーイ!」
とはいえ、こうして言い聞かせれば。
たまに忘れたりもするけど、ちゃんと約束は守るのだ。
軽い返事でもそこそこは信用できる。
「じゃあカイチ……シュウくん、また後で!」
「バイなら〜っス!」
終始、ハイテンションな悪ガキどもが。
手を振りながら、去っていった。
「……なんか、凄い人たちだね」
遠ざかっていく背中を、ずっといないもの扱いされていたユウヤが、複雑な表情で見つめている。
「わりぃ、アイツらも悪気があるわけじゃねえんだけどさ。身内かそれ以外かでかなり強く線引きしてるんだよ。誰にでもあんなのだから、まぁあんまり気にしないでくれると、助かる」
「……うん」
小さく、頷いてくれたとはいえ。
如何にも優等生然としたユウヤである。
きっとこれまでああいった連中とは、関わり合いがなかったのだろう。
時間をかけて解した強張りが、戻りかけていた。
(クッ、マズぃ! なんとか挽回を……)
そう、焦っている矢先に。
「……あ、カイチョーだ!」
「やっほやっほっ♡」
今度は見覚えのある女子たちに、声をかけられた。
(クソが! 追撃早すぎるだろ!?)
体勢を立て直す隙も与えてくれず、笑顔で距離を詰めてくるのは、明るく髪を脱色してほんのり化粧までした、おませな少女たちである。
当然、彼女たちも會員だ。
この年頃の女子ってちょいワルに惹かれるのか、非行に走りかけていたところを保護した少女たちが、うちにはそこそこ所属している。
「ねえねえ、カイチョ——」
「——シュウ、な。気ぃつけてくれ」
「あ、うんうん!」
「ごめんなさい!」
ちょっと冷たく、突き放してみたけれど。
「でもシュウくん、もしかして、新しい會員を勧誘してるの!?」
「うわっ! シュウくんに直接声かけられるなんて、すごーい!」
残念。
男子慣れした女子は、異性と距離を詰めることに躊躇いがない。
「超ビップ扱いじゃん! うらやまし〜っ!」
「よろしくね、メガネくんっ♡」
ニッコリと、笑みを深めて急接近。
馴れ馴れしい態度の、派手派手しい見た目の女子たちを前にして……
「……え、あ、はい」
ユウヤはメガネの位置を調整しつつ、キョドキョドと、可哀想なほどに目を泳がせていた。
「……ぷっ! きゃはは! 可愛いーっ!」
「めっちゃ照れてるーっ♡」
「おいやめろお前ら、うぜーから」
あかん。
陰キャにギャルは、刺激が強過ぎる。
早く引き剥がさないと、せっかく稼いだ好感度が台無しだ。
「もう、いいから。お前らも体育館なんだろ? さっさと行けよ、しっし」
「あー、ひどいーっ♡ めっちゃ傷ついたー♡」
「お詫びに今度、デートしてよね〜♡」
「知るかバーカ」
ギャルたちを追い払ったあと、横目で覗き見ると。
「……っ」
ユウヤは平静を装いつつも、頬を真っ赤に染めていた。
「……悪いな。アイツらも、悪気はないんだけど、ちょっと距離感がバグってるから」
「だ、大丈夫……それよりも、凄いね。シュウ……くんは」
「いやなんで、急に呼び方変えるんだよ!? これまで通りタメでいいって、タメで!」
「う、うん……」
あちゃー。
慣れない空気感に、萎縮しちゃったかー。
でもこんなの、慣れだよ、慣れ。
會に入ればすぐに馴染むよ……と。
言いたいところだけど。
どうだろうなぁ?
(ユウヤが「ウェーイっ!」てテンションぶち上げている姿とか、ちょっと、想像できないぞ)
あれ?
もしかしてこのノリって、減点要素なの?
「ま、まあ無理にアイツらに合わせる必要なんて、ねーから! むしろトップはヒラと下手に馴れ合わずに、ビッとしてるぐらいで、丁度いいから!」
「……うん」
やや、硬くなってしまった空気の。
軌道修正を図りたいのに。
「それでユウヤ、會入りの件なんだけど——」
「ヘイ! ヨォ! ボス、お疲れですッ!」
「あ、カイチョ……シュウくーんっ! 来週は集会、いつもの神社でやるんだよねーっ!?」
二度あることは、三度ある。
下駄箱で、靴を履き替えて。
移動した運動場で、またしても。
會員の男女に、声をかけられてしまった。
「し、集会……? 抗争とか、始めるつもりなの……?」
物騒な単語を耳にしたユウヤが慄いている。
「いや、ちげぇから! ただちょっと定期的に、會のみんなで集まって、駄弁ってるだけだから!」
「イエー! みんなボスとのスピーチ、楽しみにしてますヨォ!」
「え? っていうかこのメガネくん、誰? もしかして新しい會員かなっ!?」
「あ、ち、違いますけどっ!」
「あ、そうなんだ」
12歳にしては過剰な色気を纏う少女が、ユウヤを上から下まで睨め付けるが、あっさりと興味を失って、俺の腕に抱きついてきた。
「それよりシュウくーん! 聞いてよ聞いてぇ! なんか女子寮って、門限とかあるみたいなんだけど! っていうか今どき門限とか、ありえなくない!? キュージツとかヤカンの外出にはシンセーショとかいるみたいなんだけど、大丈夫なのかなー?」
「ヘイ、ボス! これから、運動場ですカ!? だったらワタシも、ご一緒しますヨォ!」
反対側にはデカくてイカつい黒人の少年が、回り込んでくる。
「……やっぱり、適正ありまくりじゃん」
ボソリ、と。
背後で小さな声音が、零れ落ちた。
「……っ!?」
「……じゃあ、僕はこれで」
「あっ……れ、例の件! 前向きに検討してくれると、助かる!」
絞り出した叫びが、フェードアウトしていくユウヤの背中に、届いたのかどうかはわからない。
(あー、クソ、思い通りにいかねぇなぁ!)
俺はガリガリと頭を掻いて、憎たらしいほど快晴の空を仰ぐのだった。
〈作者の呟き〉
陰キャに優しいギャルは、果たして実在するのかな?




