【06】体力測定①
〈シュウ視点〉
「いや、違うんだよ、マジで」
「何が?」
グッグッグッ、と。
互いの背中を合わせながら、腕を組んで、背を逸らす。
そのまま片方が相方の身体を、腰の上に乗せることで、背筋の筋肉を引き伸ばした。
「ふっ……くっ、ふぅぅぅ〜っ!」
伸び切った背筋から、凝り固まっていた血液が、全身へと巡っていく。
「んぎんもぢぇえええ〜っ!」
「……ぷっ。何それ、オジサンみたい」
下からユウヤの声が聴こえてくるけど、仕方ないじゃない。
(やっぱ一度中年になってみないと、この爽快感は、理解できねぇよなあ)
好きなものを、好きなだけ食えるし。
いくらでも寝れるし。
身体はすぐに回復するし。
(んんん、若いってサイコーっ!)
図らずしも、二周目の人生に突入して。
色々と不満や問題はあるけれど、この『若さ』という点においては純粋に感謝している、前回アラサーの俺である。
「……で、何が違うの?」
普通の学校なら、入学初日はHRを済ませたあと、昼前には解散となるのだろうが……
生憎とここは、普通ではない。
ちょっと特殊な学校だ。
しかもこの時代においては色々と手探り状態の『魔力技能を扱うための学問』である『魔素力学』を、授業科目に無理やり組み込んでいるため、履修内容が色々と、圧迫されてしまっている。
よって、昼上がりで生徒たちを帰宅させるという、時間の無駄は省略。
昼休憩中に、食事を終えて。
運動服に着替えた、生徒たちは。
通常とは比べ物にならないほど大きく、頑丈に設計された、魔素適応者用の運動場や体育館へと移動して、午後から体力測定を受けていた。
出席番号が前後だったため、とりあえず行動を共にしている俺とユウヤはペアを組んで、軽く柔軟をしつつ、雑談を交えている。
「なんていうかなぁ……俺が昼行燈とか、裏ボスって話もそうだけど、そもそもユウヤ的には叛星會って、一体どんなイメージなんだよ?」
「う〜ん……この辺では一番有名な、愚連隊かな?」
「げっ」
「しかも魔力適合者を何人も抱えているから、かなり好き勝手やってるって聞いてる」
「うげげげ」
ほらね。
やっぱり、良くない印象を抱いちゃってるよ。
「い、いやいや、それは違うって! なんか実情に、良くない尾鰭がついてるから!」
「へー、そうなんだ?」
「そうそう! 単なる不良集団みたいに言われちゃうと、聞こえが悪いんだけどさぁ、要は互助会? とか部活動? みたいなノリの、ゆるい組織って考えてもらえば、実情が伝わり易いと思うんだよね!」
だからここで『誤解』を、なんとしても解いておきたい。
「最初はただ、身内の悪ノリで、何かとやらかす幼馴染らの『反省会』をイジって『叛星會』なんて、ふざけて呼んでただけなんだけどさぁ……それをアイツらが、妙に気に入っちゃって! なんかことあるたびに、そう名乗ってるうちに、いつの間にか『會』とかって、地元に定着しちゃったんだよ!」
「ははっ、意外と元ネタは可愛いんだね」
「だろ!? だから全然、怖いとかねぇから!」
「でもこの辺の不良たちを束ねているって聞いたよ?」
「それはまぁ……なんだ……類は友を呼ぶっていうか……」
「あ、自分たちがヤバいって自覚はあるんだ」
だってしょうがないじゃん。
アイツら、少しでも目を離したら、すぐに問題起こしてるんだもん。
何なら俺が抑えてても、トラブルのほうから、寄ってくるんだもん。
これも『因果律の歪み』ではないか、と。
わりと本気で、邪推しているくらいだ。
「とにかくアイツらって、見た目もアレだから、良くも悪くも何かと目立っちゃうんだよ。そんで良くない連中に絡まれたり、良くないことをしている連中にぶつかったりしているうちに、なんかどんどんと、そうやって関わっていた連中の一部が、自分たちも會に入れてくれとか言い出してな? 気がついたらなんか変な集団が、できあがっちゃってただけなんだって!」
まあ、途中から。
承認欲求が強めの幼馴染が。
調子に乗って、組織の拡張路線に乗り出しちゃったっていう、裏事情もあるんだけど……
そこは割愛。
「ふーん」
「だから世間で思われているような、ヤンチャで悪いことなんて、全然ないんだって!」
「じゃあ僕が聞いた、河川敷を溜まり場にしていた不良高校生たちを叩き出して、乗っ取ったって話は、嘘なの?」
「あ、それはホント」
「……」
「いや、引かないでぇ!?」
すっ……と。
距離を置いたユウヤに、慌てて手を伸ばす。
「だって、仕方ないじゃん! 気づけば幼馴染ら、モメてたんだもん! あとあそこに屯ってたクソ不良どもって、小学生を相手にカツアゲとかしてたんだぜ! 流石にゴミ掃除案件だろ!?」
そして実力行使で、不良どもを河川敷から一掃したのはいいけれど。
目を離すと、すぐにゴミが戻ってくるから。
仕方なく、見回りとかしているだけなのだ。
断じて縄張りの示威行為ではない。
「……じゃあ公園を、爆破したってのは?」
「んー、それも本当っちゃ、本当かな?」
正確には魔力鍛錬の最中に、魔力を暴走させた幼馴染が、練習場に使っていた公園を爆破しちまったんだよなぁ。
「……あぁ! でもちゃんと、事前に注意喚起とかしてたから、怪我人はゼロだし、むしろボロい公園がリフォームされて、みんな喜んでたくらいだぜ!?」
なにせ、この年代において優れた魔力適合者というのは、大変に貴重な存在だ。
はっきり言って、優遇されている。
この件だって本来なら大事件になるところを、内容を把握した役人が行政と掛け合って、全力で隠蔽工作してくれたため、世間的には『ガス管の爆発事故』として処理されていた。
(でも人の噂に、戸は建てられないかぁ)
しっかりと情報流出してやがるじゃねえか。
相変わらず行政、腐ってんな。
だがこの事件をきっかけに、幼馴染たちが正式な〈権能〉持ちとして国から承認されたという、収穫もあった。
「……それじゃあ聖女を利用して、お金を荒稼ぎしてるってのは本当なの?」
「荒稼ぎじゃなくて、ただ単に、適正な報酬を貰ってるだけだよ」
数ある魔力技能の中でも、とくに希少で、重要性が高いとされる、生態系魔力技能の一種……治癒魔術。
それに〈権能〉として覚醒した幼馴染が、見た目や性格が相まって、巷では聖女なんて呼ばれているらしいのだが……
そんなもの、俺から言わせれば。
大衆にとって、都合のいい。
大義名分に過ぎない。
「だってよぉ、孤児院で幼馴染が魔力鍛錬として、近所の連中を相手に治癒魔術を練習してたら、それまで碌に関わりのなかった輩まで、ワラワラと寄って集って来たんだぜ?」
ぶっちゃけ、俺たちという。
優れた魔力適合者を、輩出して。
政府から、資金援助を受けるまで。
孤児院の経営は、非常に厳しい状態だった。
大異界蝕によって地球の魔素濃度が急上昇する以前から、前兆として突発的な自然災害が多発していたため、俺のような災害孤児や、幼馴染たちのような現実に疲弊した親による育児放棄は、世界中で多発している。
そのように不安定な情勢下でも、俺たちが保護されている児童養護施設……『春天院』は、可能な限り居場所を失った子どもたちを預かろうとしていたし、近隣住民たちの一部は、積極的にその活動を、支援してくれていた。
だから、彼らに恩返しをしたいと思うのは、当然の反応だろう。
けれども、甘い蜜に寄ってきた虫どもには、その限りではない。
「被験体でもいいから治癒魔術を受けたいんなら、別に受けさせてやってもいいけどさぁ? でも向こうから名乗り出てくるぶんには、ちゃんと相応の対価を、寄越せってハナシじゃね? まあ俺たちが年齢的に金銭の取引とかするとマズいから、孤児院への寄付って形にしてるけど、それにイチャモンをつけてくるほうが、流石にどうかしてると思うわ」
まあ、そうした寄付が。
俺たちの生活環境や、食事の改善。
引いては叛星會の強化に繋がっているという指摘は、否定できないけど。
「……なるほど、ね」
ピーッと、ホイッスルが鳴った。
柔軟を終えた生徒たちが、先生の指示に従って、列へと並んでいく。
「確かに……そういう話を聞くと、ネットで見かけたような印象とは、少し見方が違ってくるよね」
大人しく、順番を待ちながら。
ひと通りの説明に付き合ってくれたユウヤは、いちおうは納得の色を浮かべてくれている。
「だろだろ!? そうなんだよ、俺たちは別に、ガラの悪い輩どもなんかじゃねえんだって!」
「でも……だとしても、僕にそんな事情をいちいち説明する、理由はなに?」
しかし表情には、理解の他にも。
警戒の色が滲んでいた。
いいね。
(やっぱコイツ、頭の回転が早いわ)
それでこそ、俺が見込んだ男だ。
〈作者の呟き〉
トー卍、面白いです!




