【05】幼馴染①
〈シュウ視点〉
客観的な事実として。
前回の俺だって『そこそこ』は。
優秀な人材、だったのだろう。
でなければ、あれだけ多くの失態をやらかしておきながら、最終的には世間で一流と評価される金等級冒険者……まああの頃はあまりに冒険者が不足し過ぎていて判定がガバだったのだが……にまで上り詰めることは、出来なかったはず。
とはいえ所詮は、秀でた凡人。
突出した天才には、至らない。
そんな俺が一周目の人生において、自分の実力を勘違いしてしまった、最たる理由は……
やはり、リスキーの『神隠し』に俺と一緒に遭遇した幼馴染たちが、次々と〈権能〉を覚醒させたことだろう。
だったら当然、俺だって。
きっと。
いつかは。
超一流冒険者の前提条件とされる、素晴らしき〈権能〉に目覚めるものだと、信じていた。
信じて……
縋って、いたのだ。
でも二周目《今回》には、それがない。
すでに〈権能〉は割れている。
なら勘違いする理由がない。
加えて一度、実際の社会に出たことで。
外から見れば華々しく見える業界の上澄みが、内側から見るとどれだけ過酷で、残酷であるのか、身をもって知ってしまっていた。
だからこそ、二周目の俺は……
(……ほどほどで、いいんだよ。ほどほどで)
幼馴染さえ。
前回の俺が見てきた、悲惨な未来を、回避することが叶ったなら。
俺自身は、そこそこの組織に所属して。
ほどほどに仕事して。
のんびりと。
趣味や休暇を楽しめる生活を確保できれば、万々歳である。
(ま、流石に一周目の死因となった連鎖型異界暴走への対策は、必須だけどな)
確定未来という情報を活かして、可能な範囲で、一周目では失われるはずだった人的資源の保護や、十数年後の魔素力学に基づいた戦力強化など、未曾有の大災害に対する備えは、行っていくつもりだけど。
俺自身は、表になんて出たくない。
前線を支える、裏方でいい。
勘違いしない。
分を弁える。
適材適所。
それが二周目における、俺の人生論だった。
ともあれ。
「んん……そうだ、っていうかさっきの話! 俺たちの噂って、一体どんな話を聞いてんだよ?」
授業《HR》の開始まで、もう少し時間がある。
不意打ちの黒歴史発動で、奇しくも距離を詰めることができたユウヤに、せっかくなので踏み込んでみた。
「あ、えっと……そうだね」
メガネを……クイックイ。
忙しなく、位置調整しながら。
ユウヤも話をしてくれる気になったらしい。
「僕が聞いたキミたちの組織……叛星會の噂は、『孤児院の聖女』に『公園爆破事件』と、あとは『河川敷解放戦線』くらいかなぁ」
ぐぅ。
確かに全部、心当たりがありますねぇ。
(ってか叛星會って、お隣の県からやってきたユウヤですら、知ってんのかよ!)
すでに、SNSが普及し始めていた。
ネット社会のご時世とはいえ。
身内の悪ノリが、こうして外部へと拡散されている事実は、かなり気恥ずかしい。
「で、でもさぁ! 好き勝手やってるのは、俺の幼馴染たちであって、俺自身は特に何も、やっていないんだぜ!?」
「でもみんな、キミの指示で、実行してるんじゃないの?」
「いやいや! そんなことは……ん、んんー?」
咄嗟に、否定しかけたものの。
ふと、内容を精査してみて。
言葉に詰まってしまう。
「……いや、そうかもしれないと、言えないことも、ないかもしれないですねー?」
「……なんでそこで、言葉を濁すんだよ」
違うのよ。
本当に、俺が主体となってやってるんじゃなくて、アイツらがあちこちで好き勝手に暴れるから、仕方なく、裏から事態を鎮静化させようと動くことが、度々にあった程度なのよ。
「だから昼行燈とか、裏ボスとかさぁ、言われてるんじゃないの?」
呆れたような、ユウヤの物言いに。
「う〜ん」
と、思わず唸ってしまった。
(あれぇ? おかしいなぁ? ちゃんと当事者や関係者たちには、俺は大したことなんてしていないって、しっかりアピールや口止め、していたつもりなんだけどなぁ?)
一体どこで情報が、捻じ曲がったんだ?
これじゃあ俺がまるで、幼馴染たちや『會』の連中を操って黒幕ムーブを演じている、イタい中学生みたいじゃねぇか。
「い、いやいやいや! とにかく、誤解! 誤解なんだって! 俺はただ——」
「——そうです! 兄さんは素晴らしいんです!」
スパーンッ、と。
せっかく、ここで一度。
心外な流言を否定しようとしたのに。
勢いよく教室の扉を開いて、背後から響いた声音が、俺の言葉を掻き消した。
「……おい、ジン」
「はい、兄さん!」
「なんでお前がここにいるんだよ?」
俺の席は、出席番号順に並んでいて、ちょうど教室廊下側の一番後ろに当たる場所だ。
でも……だからと言って。
他のクラスに振り分けられているはずの幼馴染が、ひょっこりと、顔を出していい理由にはならない。
「兄さんを讃える声が、聴こえてきましたので!」
当然、そんな戯言も。
理由に該当しねぇんだよ馬鹿野郎。
「え……僕の声って、他のクラスまで、聴こえていたの?」
しかしこの幼馴染に免疫のないユウヤは、戯言を真に受けているようだった。
「いや、そんなわけ——」
「はい! 兄さんの半径10メートルの会話には、常に全神経を集中させていますので!」
「——あったのぉ!?」
まるで生きた盗聴器じゃねえか。
キモい。
キモ過ぎる。
「いややめろマジで、普通に気持ち悪いわ!」
幼馴染の天然粘着発言がキモ過ぎて、思わず声に出してしまった。
「え? お前いつも、そんな真似してたの!?」
「はい! だってそうしないと、兄さんの玉言を聴き逃してしまうじゃないですか!」
「……っ!」
俺はドン引いた。
ユウヤも顔を引き攣らせている。
「……?」
ただひとり、自分の異常性に無自覚な幼馴染だけが、悔しいほどに整ったイケメン面に、不思議そうな表情を浮かべていた。
「あの、えっと、キミは……」
「……」
「おい、自己紹介」
「はい! 初めまして、オワリくん。僕はカナタ・ジンヤ、見ての通り、兄さんの忠実な下僕です!」
「お、弟……でも、同級生だよね? それに見た目もなんか、その……」
「……ああ、そうだよ」
ニコニコ、と。
曇りのない笑顔を浮かべて。
ツッコミどころ満載の自己紹介を吐き出した幼馴染……ジンヤから、目を逸らしつつ。
助けを求める、眼鏡越しの視線に。
嘆息を交えて、応えておく。
「見ての通り、俺とジンは本当の兄弟じゃねぇよ」
「その通りです! 僕と兄さんは、血の繋がりを超えた、魂の主従なんです!」
「……ほら、さっきの噂話に出てた『聖女の孤児院』が、あるだろ? あそこが俺たちの家で、たまたま俺が一番最初に保護されてたから、コイツ以外の幼馴染たちも、同い年だけど兄貴分みたいな感じで、好き勝手に呼んでるだけだ」
「そ、そうなんだ……」
「そんな! たとえ順番が逆だろうと、僕にとって兄さんは、唯一無二の主人ですよ!」
「……ッ、いいから、ちょい黙れ」
「はい!」
わりと乱暴な、物言いなんだけど。
俺に、命令されるのことの。
何がそんなに、嬉しいのか。
実に良く響く艶やかな美声で、俳優顔負けのルックスに笑顔を浮かべながら、中学一年生にしてすでに170センチを超える長身の背筋をピンと伸ばす、白髪を長く伸ばした美男子の姿に……
「……誰っ!?」「綺麗な白髪!」「ぎゃあああ!」「ヤバいくらいのイケメン!」
当然のことながら。
クラス中の女子から、視線が集中していた。
「……チッ」「んだよ」「うざってぇな」
他方、男子からの視線は険しい。
「會だかなんだか知んねぇけど、空気読めよな」「不良アピール? だっせぇ」「いつまでガキみたいなマネしてて、恥ずかしくないのかよ」
なかには露骨に、嫌悪感を露わにする者もいる。
「……」
「ストップだ、ジン」
爽やかな笑顔を浮かべたまま……すっと。
露悪的な態度の男子たちへと、一歩。
踏み出そうとしたジンヤの機先を。
制しておく。
「……でも、兄さん」
「いいから。そういうの、ホントいいから」
「……にぃや、出番ー?」
声が聞こえて。
視線を、下方に向ければ。
いつの間にか、机の足元には。
お行儀よく体育座りをする、人影があった。
金髪を太い三つ編みにして垂らした、褐色肌の、小柄な少年である。
残念ながら、こちらの不審人物も。
俺の幼馴染だった。
「……ほら。ジンがしゃしゃるから、エルまで寄ってきてるじゃねぇか」
「う、うわぁっ!?」
ガタンッ、と咳を鳴らして。
ユウヤが驚きの声をあげても。
中性的な容姿をした、褐色肌の少年……ソウザ・ガエルは、微動だにしない。
「……」
ただ……じっと。
感情味の薄い、爬虫類めいた翡翠の瞳が。
俺を見上げている。
「ダメ」
「……ん」
無言の確認を、却下すると。
特に、食指をそそられていなかったのか。
大人しく引いてくれた。
「ではやはり、僕が不届者を——」
「——いいからさっさと、ジンもエルも、クラスに戻れ。つーか呼んでもないのに、来るんじゃねえよ。ハウスだハウス」
「はいっ!」
「……」
ジンヤは、威勢良く。
ガエルはのっそりと、立ち上がって。
自分たちのクラスへと、引き返していく。
(ったく、アイツら、初日くらい大人しくできねぇのかよ!?)
まだ、初授業すら始まっていないというのに。
自由過ぎるだろ。
先が思いやられる。
「……やっぱり、裏ボスじゃん」
クイッ、と。
メガネを掛け直しつつ。
零れ落ちたユウヤの小言が、耳に痛かった。
〈作者の呟き〉
癖が暴走し過ぎて、幼馴染のうち、ボーイズ二人だけしか登場させられなかったよぉ……
こういうところやぞ、私っ!




