【04】新入生
〈シュウ視点〉
クソみたいな上位存在との、二度目の邂逅から、四年が経った。
一周目ではクソの役にも立たなかった〈権能〉によって、二周目の人生を迎えた俺は、晴れて12歳となっている。
この辺では一番新しく設立された、魔素適応者の育成に特化した中学校にも、無事に合格。
今日からピカピカの一年生だ。
(ここまでなんだかんだと想定外もあったけど、まあおおよそは予定の許容範囲内で、進んでいる……よな?)
やはり、完璧ではなくとも。
精度の高い『未来の情報』という優位性は、凄まじい。
時折、ちょっと偶然にしては出来過ぎたハプニングなどがあったものの、そこは身体は子ども精神は大人な優位性を駆使して、なんとか上手く、乗り越えてきた……と思う。
(だけどもう、間違いねぇよなぁ)
実際に。
様々な体験を経たことで。
前回の情報と、リスキーの言動から。
俺なりに『因果律の歪み』についての、仮説を立ててみた。
(一周目の日本でも、優秀な冒険者たちが集まると、確率的にあり得ない魔力災害や、強力なモンスターの発生が、頻発していたんだ)
おそらくは。
強大な魔力保持者たちが。
長時間に渡り、一カ所に集まることで。
空間が歪んで、不自然な『偶然』を生み出してしまう魔力現象……それが上位存在の口にしていた『因果律の歪み』であり、前回の日本を崩壊に追いやっていた、裏のカラクリである。
(でも、仕組みさえわかっていれば、対策は打てる)
幸いにして、本物の冒険者たちが芽吹く『黄金世代』の到来には、まだ数年ほどの猶予がある。
最盛期はちょうど、俺が社会に出る頃合いだ。
そして皮肉なことに、この頃には……もう、出世コースから脱落している自覚のあった前回の俺は、世間で活躍していた連中を妬ましく思い、彼らの失墜や没落に昏い喜びを覚えていたので、収集していた有望人材の情報は、バッチリと揃っていた。
(でも、ただの中学生が何を喚いたところで、世間には届かない。だったらのちの『布石』程度は撒いておくにしても、いま積極的にやるべきことは、人脈と、実績作りだ)
これまた、幸いなことに。
将来花開く、才能の原石が。
俺の進学先に、在籍していた。
「……よぉ、オワリ・ユウヤだよな?」
体育館で、延々と。
無駄に、長ったらしい。
入学式を終えた後。
教室で担任がやってくるまでの間、ざわつくクラスメイトたちの雑音に紛れて、俺は目の前の席に座る少年の背中に、声をかけた。
「俺はカナタ・シュウ、初めましてだな!」
「……うん」
背後から、声をかけられて。
億劫そうに、振り返るのは。
黒縁メガネをかけた黒髪の少年……オワリ・ユウヤ。
(しっかし『お目当て』が同じクラスで、しかも都合よく俺の前の席ってのは、偶然にしては、ちょっと出来過ぎだよな)
前回は特に、何も思っていなかったけど。
この時点で軽い『因果律の歪み』が。
すでに働いているのだろう。
(そもそも『歪み』って表現をするから、なんだか悪いイメージになっちまうけど、より正確には『不自然な確率の成立』ってことだから、期待値は、上振れも下振れもするんだよなぁ)
今回はそれが、良い方向に出たらしい。
しかしこれが異常なほど上振れすることで、高位冒険者たちが奇跡的な活躍を成し遂げることもあったから、前回の世界ではそれに気づくのが、遅くなっていたという面もある。
非常に……嫌らしい仕組みだよ。
ホント。
(まあいい。上振れるぶんには、しっかりと利用させてもらうだけだ)
さて。
前回ではコイツと、色々あったけど……
今回においては、これが初対面。
しっかりと愛想を振り撒こう。
「これから一年間、よろしくな!」
「……うん、そうだね」
「……?」
「でも……カナタくん」
「シュウでいいよ! 名字で呼ばれると、色々と紛らわしいんだ! そん代わり俺も、ユウヤって呼ばせてもらうぜ!?」
「……」
「で、なになに?」
「僕は……キミのこと、知っていたよ。なにせこの辺りでは、有名人みたいだからね」
おっと。
これは……良い反応なのか、悪い反応なのか。
どっちなんだい?
「何人もの〈権能保有者〉たちを従える、『叛星會』のボス……確かにすごい肩書きだけど、僕だって、負けないよ。中学で僕のほうが優れているんだって、証明してみせる」
残念。
こちらは下振れたか。
「ははっ、なんだよ、刺々しいなあ」
眼鏡の奥に、緊張の色を帯びた。
とても好意的とは言えない態度を前にして。
しかし俺の顔には、自然と。
笑顔すら浮かんでいた。
「……?」
想定外の反応に、ユウヤは怪訝そうな表情を浮かべているが……
だって、仕方ないじゃないか。
(一周目で散々に手こずらされた、腹黒いクソ野朗どもと比べらたら、こんなの全然可愛いもんだぜ)
むしろ、こうやって。
素直な対抗心を燃やされてしまうと。
正直、こそばゆいくらいである。
「まあまあ、せっかくクラスメイトになったんだから、仲良くしようぜ? それにどんな噂話を耳にしているのかはしれないけど、凄いのは俺の幼馴染たちであって、俺自身は、全然、フツーだって!」
「……なるほど」
クイッ、と。
眼鏡の位置を、調整して。
「これは噂以上の、昼行灯ぶりだ」
情報を修正するように、ユウヤが呟いた。
「……いやマジで、一体どんな噂話を聞いてんだよ?」
昼行燈とか、今日日の中学生が使うワードセンスじゃねえだろ。
(つーかコイツ、やっぱり二周目でも、こういう態度が基本なんだなぁ)
いや、懐かしい。
実はリスキーとの邂逅から中学までに、バタフライ効果が働いているのか、前回の俺の印象や情報とは違う展開が、ちょくちょく起きていたんだけど……コイツの性格は、前回から据え置きのようだ。
(ん〜でも、コイツ自身からすれば、これは『良くない』状況なのか?)
改めて、目の前の少年を。
まじまじと、観察してみる。
オワリ・ユウヤ。
俺と同じく黒髪黒目の、典型的な日本人だ。
しかし12歳のガキンチョのくせして、両親からの期待を過度に背負わされている影響なのか、すでに表情や態度は硬く、刺々しいものとなっている。
皺の寄った眉間に、鋭い眼差し。
ガードが厚そうな、黒縁のメガネ。
気難しく、への字に結ばれた口もと。
顔つきそのものは、将来有望そうな、イケメン枠なんだけど……
なんていうか、全体的に。
生意気なのよ。
これで見た目がデカけりゃ、威圧感もあったんだろうけど、残念ながら今のコイツは、チビでガリのヒョロガキだ。
一方、前回の俺はといえば。
チートな〈権能〉に目覚めた幼馴染たちに囲まれて、俺自身にもなまじ才能があったがために、こうして堂々と『魔力適合者たちが集められた特別な学校』へ入学したことで、完全な有頂天となっていた、正真正銘のクソガキである。
つまりは……
【……は? うっざ】【なんだよイキりやがって】【いやネタだって、ネ〜タ!】【ちょっと絡んでやっただけじゃん?】【んだよ、ノリ悪いなー】【名前通りオワってるわ、オマエ】【ぎゃはははは!】
脳裏に蘇る、黒歴史の数々。
「ふぐぅ!」
「……っ!?」
思わず、頭を抱え込んで。
机に突っ伏してしまった。
「あ、だ、大丈夫?」
ユウヤが驚きの表情を浮かべているが、ごめん、今はそれどころじゃない。
(鎮まれ……いいから、黙れって!)
リスキーから与えられた〈権能〉として、俺の魂と一体化している一周目の俺は、相当に拗らせている。
わかりやすいお行儀の悪さとして、前回に関わる『強い感情』を察知すると、こうして魂の奥底から噴出してくるのだ。
どうやら今回は、将来的には立場が逆転する成功者に対しての、一時的な示威欲求が刺激されたらしい。
前回ぶんの、感情とはいえ。
我ながら、最低である。
(だから前回の俺は、失敗、したんだよ……ッ!)
意識を、強く保って。
魔力を練り上げて。
心を鎮める。
「……ふぅ。わりっ、持病の『発作』でな」
「あ、ああ、そうなんだ……本当に大丈夫?」
ほらな。
動揺して、普段の外敵防御が緩んだユウヤは、普通に気のいい少年だ。
ただ周囲に、歪められていただけ。
前回の俺だって、同様である。
(他人は自分を映す鏡……今回こそは、自惚れず、驕らず、過信なんかせずに、謙虚な気持ちで誠実に、そこそこ幸せな人生を、謳歌してやるんだっ!)
それが、二周目の人生において。
幼馴染たちを救うのとは、別に。
秀才にすぎない、俺が掲げた。
人生の目標だった。
〈作者の呟き〉
果たしてそう、上手くいくかな……?




