【54】戦闘③
〈シュウ視点〉
洞窟型のニアダンジョン深部。
俺たち先行部隊が到着してから、五分ほどが経過した頃に……
「……うぉおおおしゃあああッ、とおッちゃァあああああくッ!」
「ヒャッハァアアアアアッ!」
「イエァアアアアアッ!」
あとを追ってきた後続部隊。
その中でも先頭を、突っ走ってきたのだろう。
血気盛んな叛星會の少年たちが、洞窟の横穴から飛び出してきた。
即座に感応共有で、悪ガキどもに指示を飛ばす。
「——りょっス、カイチョーッ!」
切れ長の瞳を、楽しげに細めて。
銀髪の少年……ギンジが、飛び出してきた横穴の中層から、コテツたちが暴れ回る下層へ手のひらを向けた。
「のぉぉりゃあああああッ!」
俺が指示した空間座標に、境界技能者が魔力障壁を展開。
空中に擬似的な足場が形成される。
「セィ! ホッ! イェヤァアアアッ!」
リズミカルに声を漏らすのは。
中学生らしからぬ体格の黒人少年……ダンテ。
半透明な足場を使って、下層へと駆け降りていく。
その途中で……ドンッ! ドンッ! ドゥンッ!
眼下に向けて少年が拳を振るう度、空気が弾ける。
放たれた『音』が衝撃波となって、直下のサトリたちを地面へと押し付けた。
自身が放つ『振動』を操る輪郭技能者。
先読みしていても回避の難しい、範囲攻撃だった。
「頼みマスよ、キンバさァァァんッ!」
「まっかせろォォォいッ!」
ダンテが着地するなり……ズダァアアアンッ!
盛大に大地を踏み締める。
今度は振動の波が、同心円状に拡散。
地表を伝播する微振動によって、ほんの一瞬。
逃げ遅れたサトリたちの足裏が、地面へと縫い付けられた。
高速振動する物体の性質を利用した拘束技能だ。
そこに……
「……キンバぁぁぁ、ホォームランッ!」
両手で『バット状に固定した魔力障壁』を握りしめた金髪吊り目の少年……キンバが到着した。
地面を踏み締めて、腰を捻り。
思いっきり、両腕を振り抜く。
そして魔力を込めたぶんだけ、魔力障壁の大きさと強度が変化していた。
すなわち……
「……がっきィいいいいんッ!」
「「「 キョァアアッ!? 」」」
握り手から先が、一瞬で巨大化した魔力バット。
先読みできていても身動きのとれないサトリたちを、まとめて吹き飛ばす。
「おいキぃン! 取りこぼしてっぞ!」
硬直が解けて、すぐさまに。
無防備なキンバの背中に襲い掛かろうとしたサトリたちの眼前に……バッキィイイインッ!
突如として、魔力障壁が展開。
妖怪たちの行手を阻む。
「ギィギィ!」
「ウッギィ!」
「うっせぇよ、バーカ!」
怒りの猿叫をあげるサトリたちに中指を突き立てながら、ギンジも下層に着地した。
「わりぃ、ギンっ! さんきゅっ!」
「防御は任せろ! ゴーッ、ダぁン!」
「オーケッ! レディゴーッ!」
ダンテが拳を振るうたび、空気が弾けて、音波が敵を怯ませる。
ギンジが魔力障壁を遠隔展開して、ときに仲間を守り、ときに敵の逃げ場を塞ぐ。
キンバが伸縮自在の魔力バットをぶん回して、逃げ遅れたサトリどもを宙へと打ち上げる。
三人の少年たちの連携によって、サトリたちで埋め尽くされていた下層に、空白地帯が生み出されていった。
「あーもぉ、三馬鹿ぁ! 勝手するなしぃ!」
「これだから、男子たちは!」
そこに中層から、アキラとユリカの怒鳴り声が降り注いだ。
「ひ〜ん! や、やっと着いたぁっ!」
「ハルちゃん、ちょっとタルんでない!?」
「胸にそんなおっきな重しをのっけてるからだよ!」
「ちょっとは痩せろし!」
「っていうか寄越せ!」
「ひ〜んっ! む、無理だよぉ〜っ!」
でっかい身体に反して動きのトロいハルカも、無事に到着したようだ。
コイツをここまで引っ張ってきた盛り髪の少女……ミフユと、巻き髪の少女……ナツキに、左右からキャンキャンと吠えられている。
背後では彼女たちとここまで護衛してきた〈白銀の樹〉のメンバーが、苦笑していた。
「兄さん、只今参りましたッ!」
「真打登場ですわぁ!」
「シュウ、指示を寄越せ!」
最後に殿を務めていたジンヤ、レイカ、レンジたちも合流する。
(よし、誰も欠けてねぇな!)
俺もアユムに飛翔する大魔杖を寄せてもらい、仲間たちのもとに降り立った。
「アユはそのまま、中層の武装サトリどもを牽制し続けろ!」
「りょーかいっ!」
単騎となって身軽になったアユムが、ツインテールを靡かせながら、再び洞窟の宙へと駆け上がっていく。
「——ハル、全力だ! 魔力強化頼むッ!」
「おっけ♡ にぃに、いっくよぉ〜っ!」
ハルカが掲げた錫杖から……シャンシャン!
光の粒が溢れ出して、全身に降り注いだ。
(……ッ!)
生体権能者の〈権能〉を全開にした魔力強化は、耐性のある俺ですら、意識を飛ばしそうな程の魔力負荷である。
だが……耐える。
脳神経が焼き切れそうな魔力圧を感じながら、全力で魔力知覚を展開。
洞窟の隅々まで、構造と配置。
敵と仲間の位置。
動きと数。
距離と角度。
それらを一瞬で把握すると……パキン。
脳裏で音が鳴った。
(……ッ! よし、これなら——)
新たに凍結解除された情報から、可能性を取捨選択。
瞬時に作戦を組み立て、魔力通信で仲間たちに指示を送る。
「——ッ! 任せろッ!」
「行きますわぁ、お兄様っ!」
最初に動いたのは、長槍を構えるレンジだ。
同時にレイカが刺突剣を抜き放ち、洞窟の下層へと向ける。
空間加工に特化した境界技能者による歪曲空間が、指定された座標に形成された。
直後に……ドウッ!
金髪の少年が構えるランスの切先から、電磁光線が放たれる。
太い光の直線が歪曲空間に飲み込まれて、すぐに拡散放出。
無数に枝分かれした光条が……
「……ギャッ!?」「ギィ!」「ウギャアッ!」
洞窟に空いた、無数の横穴。
そのうち『人間が囚われていた』穴ぐらに居残る、見張り役のサトリたちの頭を、回避不可能の閃光が貫いていった。
「——ジンッ!」
「了解です、兄さん!」
すぐさまに、阿吽の呼吸。
俺と同じくハルカの強化魔術を受けたジンヤが、魔力障壁を遠隔で高速展開。
衰弱しきった人間たちを、新たな人質に取られないようにと、横穴の入り口を結界で塞いでしまう。
「……チィッ、洒落臭いねぇ!」
上層で三人の魔力技能者を相手取るダイキョウが、忌々しげに目を細めた。
(……やっぱりな!)
一方で俺は、確信の笑みを浮かべる。
(コイツの読める『思考』には、深さがある!)
森林型ダンジョンの遠距離からは、俺たちに気づかれないよう『魔力通信』を盗み聴いていた。
姿を晒すほどの近距離では、直接に心を覗いていた。
それらの読心能力は無論、この洞窟型ニアダンジョンの異界強化で、さらに底上げされているのだろう。
フェイントに引っかからない『攻撃の先読み』は、思考の表層ではないもっと深い部分を読み取っている証拠だ。
だが……
(……記憶封印された情報までは、読み取りきれていねぇ!)
でなければ、あの狡猾で邪悪な大妖怪が。
ジョウを無意味に空中へと弾いたり。
人間たちを手放すような無警戒を。
易々と晒したりはしないはず。
(距離や対象の数で、読み取れる『思考の深さ』がどれだけ変わるのかはわかんねぇけど、読み取れるのは『本人が認識している』情報だけで、それ以外の『自分でも認識していない情報』までは読み取れないってことが、わかっただけでも十分だッ!)
これで……パキン。
新たに凍結されていた情報が解凍。
手段が増えて、世界が広がる。
即座に追加された手札を見つめ直して、情報を整頓。
この状況下で、俺が取るべき行動は……
「……お嬢! 無明庭園だッ!」
「——ッ!」
瞬間、ジョウの紅瞳が見開かれた。
俺の叫び声で、彼女も記憶封印が解凍されたはず。
「——いいね! いいよ! いいじゃないかッ、親友! 勿論キミに、ボクの全てを捧げようッ!」
なんだか怖いことを叫んで。
微塵の躊躇もなく、少女は即断即決。
満面の笑みを浮かべたジョウが、たった今『思い出した』ばかりの魔力技能を展開していく。
「——ッ!?」
解凍情報を読心したダイキョウが目を剥くが、もう遅い。
(その距離じゃあ、逃げられねえよッ!)
直後に……ブワァアアアアアッ!
影を纏う少女から噴出した『闇』が、大妖怪ともども、周囲の空間を呑み込んだのだ。
〈作者の呟き〉
頭脳戦、敵よりも先に、作者の頭を破壊しそうです……。




