【52】戦闘①
〈シュウ視点〉
「ウォオオオオ——ンッ!」
「あはははははっ!」
妖怪どもがひしめく魔窟の深部。
現場に到着するなり、飛翔する巨大カラスと大剣の刃から、少年たちが飛び降りた。
半獣人化した影響で昂っているのか、ケダモノじみた咆哮を洞穴に響かせる桜陵学園の三席……ゴジョウ・コテツ。
落下の最中に小人状態から巨人状態にまで、どんどんと膨れ上がっていくレガリアの三席……ミドウスジ・オボロ。
ともに単騎で戦闘能力が高い、輪郭技能者である。
大地に降り立った次の瞬間には、殺戮が始まっていた。
「——ゴォオオオオオッ!」
「——ぶっ潰ぅううううす!」
単純な話だ。
すでに二人には感応共有で、サトリたちが異界強化による『攻撃の先読み』を行なっていることは、伝達してある。
そのうえで『反応が追いつかない速度の攻撃』を叩き込めばいいという、実にパワータイプの輪郭系らしい、脳筋主義な解答であった。
「キィ!?」
「ウギィッ!?」
そして小柄な見た目通りに……
巨大洞穴の下層に群れているサトリたちは、未熟な個体なのだろう。
個としての戦力差は、歴然としていた。
「ゴオッ! ガアァッ!」
半獣化したことによる、獣じみた素早い身のこなしと、肥大化した両手の鋭利な五爪。
コテツが逃げ惑うサトリたちを追い詰め、引き裂いていく。
「あははははっ!」
二メートル近くにまで膨れ上がったオボロが、大声で笑いながら、巨大化した拳で岩盤を殴りつける。
先読みで一斉に、攻撃を回避したサトリたち。
しかし砕け散った石礫が、周囲に撒き散らされた。
「ギィッ!?」
「キィッ!?」
知能もあまり高くないのか。
本人が意識していない攻撃に晒されて、あからさまに動揺している。
すると今度は側面から、回避できない横薙ぎのラリアットが見舞われた。
「あははははァあああああ——ッ!」
ドッゴオオオン……ッ!
冗談のように、妖怪たちがまとめて吹き飛ぶ。
「グルォオオオオオ——ッ!」
唸るコテツも追撃に参加して、逃げ遅れた獲物を次々と狩っていく。
「キキィッ!?」
「ギョエッ!?」
暴力の嵐に巻き込まれて。
肉を裂かれ。
骨を砕かれ。
歪な形となった人型が、次々と地に伏していった。
だが……慈悲はない。
コイツらが邪悪な妖怪だってことは、もうわかりきっている。
最大限に展開された俺の魔力知覚が、洞窟の横穴……その奥に囚われている、衰弱し切った人間たちを把握していた。
(コイツらは、生かしちゃおけねえッ!)
世の中には決して相容れない悪意というものが、存在している。
少なくとも現場で手を汚すことを躊躇うような人間など、この場にはいない。
人類に仇をなす妖怪たちの、一方的な駆逐が続く。
「ギィイイイイイッ!」
「ウキキィッ!」
と、そこに。
怒りの猿叫を撒き散らして。
洞穴の中層から四匹の武装サトリのうち二匹が。
コテツたちが暴れ回る下層を目掛けて、飛び降りてきた。
「ゴルルルルゥ……ッ!」
「あはははっ! 中ボスキターぁあああッ!」
着地するなり、短刀を構えるサトリはコテツへ。
手甲を装備したもう一匹が、オボロへと向かう。
肥大化したコテツの五爪と、振るわれた白刃。
巨大化したオボロの拳と、装甲に覆われた拳。
それぞれに激突。
鈍い打撃音と、火花を散らした。
「雄ォオオオオオ——ッ!」
「あっはははははァ——ッ!」
「「 ウギィイイイイ——ッ! 」」
人と獣の咆哮が、洞穴に響き渡る。
一方で……チュドドドドッ!
洞窟の中層には、爆音が轟いていた。
「オラオラオラオラァ! おにぃをコケにしたクソどもは、全員丸焼きにしてやんよぉおおおおおッ!」
「急急如律令ッ! ——疾ッ!」
大魔杖に跨って、宙を駆けるアユム。
巨大カラスを繰って、空を舞うリュウケン。
空中からの高機動力を活かす二人が、攻撃魔術や呪札を駆使して、中層に居残った武装サトリたちへと遠距離爆撃を叩き込んでいる。
「ギキィッ!」
「キェエエエッ!」
こちらは下層のサトリどもとは違い、十分に成熟した個体だ。
武装した中型サトリは見た目通りに戦闘力が高く、降り注ぐ魔術爆撃を『先読み』で鮮やかに回避。
ときおり手にする長剣や長槍で、器用に打ち返してくる。
「……ハッ! ンなスットロいタマ、当たるかよッ!」
大魔杖の背後に同乗している俺と感応共有したアユムは、魔力通信による軌道予測で、打ち返された攻撃魔術を掻い潜っていた。
「臨兵闘者ッ! 皆陣列在——前ッ!」
他方、普段のチャラい言動に反して。
実は有名な陰陽道一族のリュウケンだ。
式神の背中で九字を切り、魔力障壁を展開。
巨大カラスが回避し損ねた攻撃魔術を、器用に弾き返している。
(ハッ、流石だな!)
リュウケン自身は、境界技能者。
しかし魔術式が刻み込まれた呪札や。
一族が代々契約している魔力生物など。
多様な触媒を用いて多彩な魔力技能を使いこなすその姿は、一周目で『女帝』と恐れられていた傑物の片腕に、相応しい戦いぶりであった。
(よし、これで……)
下層と中層。
厄介な武装サトリのうち。
下層の二匹をコテツとオボロが。
中層の二匹をリュウケンとアユムが。
それぞれに、足止めをしている。
その間に……
「ぜァあああああッ!」
「げェえええええッ!」
「ゴミ屑が、叩き潰してやるッ!」
巨大洞穴の上層。
切り立った崖の上を舞台として。
大剣を構えて吠えるカイト。
尋常でない脚力で地を蹴るガエル。
全身に『影を纏って』両目を赤く染めたジョウが。
一斉に、巨大サトリ……ダイキョウへと。
襲いかかっていく。
「……ウキキッ、怖いねぇ! 物騒だねぇ! みんな寄ってたかって、酷いねぇ!」
三方向から迫る魔力技能者たち。
各々が内包する凄まじい魔力と技量を、わからぬダイキョウではないだろう。
それでも、余裕の笑みは崩れない。
四メートル近い体躯とは思えない軽やかさで足元への打撃をいなし、右手が握る朱塗りの巨大な鉄棍棒を旋回。
胴体に迫る大剣の刃や、顔面を狙う黒い爪を、まとめて弾き返す。
「——げッ! げッ! げげッ!」
「ヒヒッ!」
切り立った崖の上という、限られた空間。
巨体の足元にまとわりつくのは、三人の中で最も近接戦闘に特化したガエルだ。
黄金の三つ編みを尻尾のように振り回して、大岩をも容易く砕く蹴撃を、息を吐く暇もなく繰り出している。
だが——当たらない。
野生の反射に、武人の技量。
そこに『先読み』までもが加わって。
予定調和な演舞のように、ガエルの猛攻が掠りもしない。
「きゃあああ!」
「いやぁッ!?」
「もういやっ、いやだよぉ!」
それどころかガエルの動きが、徐々に鈍り始めていた。
原因は……ダイキョウの左手。
握りしめた鉄鎖の先に繋がる、鳥カゴめいた鉄檻である。
「……皆さん、しっかり掴まって!」
「みんな、諦めちゃダメだ! 頑張って!」
巨体が跳ね回るたび、鉄籠から溢れ出る悲鳴には、聞き覚えがあった。
「……ッ!」
ガエルの表情が歪む。
動きが鈍った瞬間に、ダイキョウの前蹴りが飛んできた。
咄嗟に後ろに跳ねて衝撃を緩和したようだが、少年の顔には苦々しさが浮かんでいる。
(ユウヤ……みんなッ!)
おそらくあれは、内部空間が拡張された、収納型の魔道具だ。
外部からは小人のように見える収監者たちは、サトリどもに攫われた仲間たち。
全員無事だが……ダイキョウが動き、跳ねるたび。
握りしめる鉄籠がジャラジャラと揺れて、不規則に弾む。
「「「 いやぁあああああっ! 」」」
内部に囚われている人質にとっては、世界そのものが揺れているような衝撃だろう。
悲鳴をあげる少女たちが、ユウヤやミカに励まされて、懸命な様子で鉄格子にしがみついている。
だがそれも、いつ力尽きてしまうかわからない。
そして硬い鉄檻の中で、無防備な人間がボールのように跳ね回り、打ち付けられる末路など……
想像するまでもない。
「……ッ!」
ガエルが動きに精彩を欠くのも、無理からぬことだった。
「死ねぇッ!」
しかしジョウに躊躇いはない。
彼女の両手を覆うのは、五爪を延長する形状で『固定化した影』だ。
闇色の鉤爪が人質などお構いなしに、不快な大妖怪を八つ裂きにせんと振るわれる。
「——ひひィっ!?」
なまじ、心が読めるダイキョウである。
ジョウの猛攻が『演技』ではないことが、事実として理解できてしまったのだろう。
微塵の躊躇いのない狂気を前にして、表情が引き攣っていた。
魔力知覚している俺も……ドッドッドッ!
心臓が高鳴る。
嫌な汗が背筋を伝う。
(でも……これくらいのリスクを負ってでも攻めなきゃ、アイツから情報を引き出せねぇ……ッ!)
直接戦闘に参加できない俺は、今は静かに。
息を潜めて、俺にしかできない戦いを続けていく。
〈作者の呟き〉
テロリストには屈しない、つよつよお嬢△ッ!




