【49】眩い光
〈シュウ視点〉
自分の弱さ。
無力さ。
醜さに呆れて。
立ち止まろうとしていた俺の背中を……
「……どーんっ!」
気の抜けるような声で押し出したのは、この状況下でも天真爛漫な笑みを絶やさない桃色髪の少女……ハルカだった。
「にぃに、何ぼーっとしてるの? さっさと行こ?」
状況の不味さを、わかっていないのか。
まるで空気を読んでいない、頭お花畑な幼馴染である。
思わず怒鳴りつけようとして……
「……ッ!」
息を呑む。
「だって……アイツら、にぃにを、バカにしたんだよ? にぃにと叛星會に、ケンカ売ってきたんだよ?」
遅れて気づいた。
目の奧が、全く笑っていない。
穏やかな声音には、底冷えする威圧感が宿っていた。
「だったら……きっちり、シメないとダメだよねっ!」
「お、おう……」
「……あっ! それにユーヤくんたちだって、ちゃんと助けなきゃだし!」
とってつけたような言い回しだ。
しかし博愛主義者であるコイツが、人質の存在を忘れていたワケがない。
こうして道化を演じるほどに、俺は酷い顔をしていたのだろう。
(ハルに心配されるとか……マジ、終わってんなぁ、俺)
フッと、自嘲の笑みが浮かぶ。
だが先ほどよりかは幾分、胸が軽くなっていた。
「……へえ。考えなしのハルカさんにしては、なかなか良いこと言いますね」
「つーか考える脳みそのないハルにだって、わかる程度のことだってことだろ」
「げっげっげっ」
「あーもー、みんなひどいーっ! たまにはマトモに褒めてよ〜っ!」
ハルカだけじゃない。
導かれるように、振り返ってみると……
とっくにダンジョンから脱出していると思っていた、ジンヤが。
アユムが。
ガエルが。
当然のように、そこにいた。
「……え? なんで、お前ら……?」
「え? だっておにぃ、アイツらぶっ飛ばしに行くんでしょ?」
「だったら是非とも、僕もお供させてくださいッ! 今度はちゃんと、役に立ちますから!」
「……あいつら、ムカつくぅ」
「だよね! めっちゃムカつくよね!」
あまりに、普段と変わらないノリだった。
先ほどの失敗などなかったかのような、幼馴染たちのいつも通り過ぎる態度である。
(……は?)
これには俺のほうが混乱した。
(なんで……だよ? だって一周目のオマエらは、俺に愛想尽かして……)
わからない。
理解できない。
ずっと信じ続けていた固定観念が、ガラガラと、音を立てて崩れていく。
「……何を、腑抜けているのだ」
呆然とする俺に、辛辣な言葉を投げつけてきたのは、幼馴染たちの背後から現れた金髪の少年だった。
「貴様……もしや『この程度の失敗』で、折れてしまうのか?」
「お、お兄様!? 何もそのようなお言葉を、吐かずとも……」
「……フン。腰抜けは不要だ」
「ぼ、僕は、できればこのまま居残りたいんですけどねぇ……」
鼻を鳴らすレンジ。
気遣わしげな視線を寄越してくるレイカ。
面倒くさそうなオボロが、俺たちを追い越していく。
「……」
しかし交錯したレンジの視線には、言葉とは裏腹に、期待の色が浮かんでいた。
「……んだよ、アイツ」
あんなわかりやすいツンデレ、どこに需要あんだよ。
「……ねぇ親友。ゴミ屑どもより先に、あの無礼者を処しておくかい?」
通り過ぎていったレンジたちとは逆方向から……ぬっと。
気配もなく現れたのは、妖しい笑みを咲かせたジョウだ。
視線は冒険者たちの元へ向かう、レガリアの首席へと向けられている。
「あー、ダメダメ、ダメやでぇ、アネさん? 肉壁は、一枚でも多い方がええでっしゃろ?」
「……」
軽薄な笑みを浮かべるリュウケン。
無言で首を鳴らすコテツ。
桜陵学園の連中も、この場に居残っていたようだ。
「……で、カイチョー! どうやってユーくんたちを、助けるんですか!?」
「叛星會を舐めたこと、マジ後悔させてやっし!」
「この世で地獄を見せてやんよ!」
「ま、まだ叛星會の見習いだけど、うちも頑張ります!」
さらに聴こえてきたのは、鼻息を荒くするアキラや、ミフユとナツキのギャルコンビ。
ここ最近本気で叛星會入りを目指しているというユリカの声である。
「カチコミじゃあ! 宴じゃぁあああっ!」
「うっでが鳴るーっ! 血っがさっわぐーっ!」
「イエアァアアア! レッツパーティーターイムッ!」
血の気の多いキンバやギンジ、ダンテたちも、当たり前のように戦意を高揚させていた。
(お前ら……)
流石に他の生徒たちは、全員がダンジョン外へ脱出しているようだ。
しかしここに居残っている連中だけでも、下手な冒険者チームなんかよりも、遥かに強力な戦力になるだろう。
でも……
「……いいのか?」
いくら手駒が優秀でも、それを指揮する頭脳がポンコツでは、意味がない。
「見ての通り……俺は、失敗したんだぞ? それなのにまだ、俺を信じてくれるのか?」
どうして。
何故。
そんな俺の疑問に……
「……え!? カイチョーがそれ、言っちゃうんですか!?」
心から、ビックリしたかのように。
アキラが目を丸くしていた。
他の會員たちも、似たような表情を浮かべている。
「いやだって、何回も間違って失敗して、迷い続けてきた叛星會を信じて支えてくれたのって、カイチョーじゃないですか?」
逆に、と。
俺なんかよりよっぽど逞しく育った少女が、不思議そうに首を傾げる。
「なんでそのアタシらが、たった『これくらい』のことで、カイチョーに愛想尽かすとか思っちゃうんですか? マジ意味フっすよ?」
「あーでもカイチョーって、そういうとこありますよねー」
「確かに。完璧主義? ってヤツ? かも知んないですけど、生きてる限り人間は誰だって失敗するもんだってあたしらに教えてくれたの、カイチョーじゃないですかー」
アキラに続いて。
ミフユとナツキまでもが。
揃って珍しく、俺を非難してきた。
(コイツら……こんな俺を、見捨てずに、まだ、信じようとしてくれてるのか……っ!?)
目頭が熱くなる。
「……えっ!? 嘘っ!」
「カイチョー、泣いてます!? マジで!?」
「アンビリバボーッ!」
デリカシーのない、キンバやギンジ。
ダンテたち男子どもが、賑やかに茶化しやがる。
でも。
その気安さが、今は心地よかった。
「おいテメエら! おにぃをディスるとはいい度胸だなァ!」
「ガエルくん、その無礼者たちをここへ。僕が首を刎ねます」
「げっげっげっ」
「エルくん、やっちゃえ〜っ♡」
アユムとジンヤにけしかけられたガエルが飛び出して、ハルカが無責任に煽る。
顔を青くさせた男子たちが、必死に逃げ回っていた。
(全く……少しは、空気読めよな)
緊張感の欠片もない少年少女たちの姿に、こちらを見つめる大人たちが唖然としていた。
レガリアや桜陵学園の連中は、呆れ笑いを漏らしている。
(でも……これが、俺たちだ)
俺が。
俺たちが。
作り上げた、叛星會だ。
失敗や挫折に塗れても、なお夜空で輝こうとする、眩いばかりの星たちだった。
「……しッ!」
パアン、と。
頬を叩いて気合いを入れ直す。
いつの間にか、黒い声は消えていた。
分が悪いと見るや、すぐに撤退していくところも、実に俺らしい。
だとすれば。
(すぐチョーシに乗って、懲りずに立ち上がって、しつこいぐらいに繰り返すのも、俺だよなァ!)
一周目は、ずっとひとりだったから。
進むべき道を見失って、ひたすらに失敗を繰り返した。
でも二周目は、ひとりじゃない。
こんな俺を信じて、叱ってくれる、頼もしい仲間たちがいる。
叛星會がいれば……俺だって。
夜空を彩るような、星々《ホンモノ》にはなれなくても。
一瞬だけなら、星よりも眩く煌めく花火くらいには、なれるかもしれない。
それだけで、一歩を踏み出すには十分過ぎる理由だった。
「……カイトさん」
「……ん、迷いが晴れたようだね、シュウくん」
叛星會の連中を引き連れて歩み寄ると、出立の準備を整えた冒険者たち……そのリーダーであるカイトさんが、迎えてくれた。
「その気持ちは嬉しい。でもこれは非常に危険なクエストだ。足手纏いは連れていけないことは、わかってくれるよね?」
この人も大概、性格が悪いな。
口では正論を吐きながらも、瞳には好奇の色が滲んでいる。
仕方ない。
ダンジョンの発生予告と脱出提案に続いて、三度目のプレゼン開始だ。
「相手はあの、狡猾なサトリどもです。そのうえ戦場は相手のホームで……勝算は?」
「高度な戦術を持った柔軟な視点による臨機応変な対応で、活路を切り開いていくつもりだよ?」
「つまりノープランというワケですね」
「そうとも言えるね」
互いに苦笑を浮かべる。
「だったら……」
俺ひとりでは、到底無理だったけど。
だけどこんな俺を信じてくれる仲間たちがいるのであれば、ようやく通せる勝ち筋がある。
「……作戦が、あります」
俺の提案に、金等級冒険者の口端が吊り上がった。
「面白い。聞かせてもらおうか?」
賽は投げられた。
もう、失敗は許されない。
今度こそこのクソったれな世界に、俺たちという輝きを、刻み込んでやる。
〈作者の呟き〉
大事なのは転ばないことじゃなくて、転んでから立ち上がる方法だと思うワケです。
そしてこれにて、第六章も無事完結!
次回からいよいよ第一部のクライマックスに突入しますが、ここまでで本作に魅力を感じてくださっている読者様におかれましては、作者のためにポチッと⭐︎や感想を投げていただけると、大変励みになりますので、どうぞよろしくお願いします!




