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【43】舞台裏

〈???視点〉


 豪奢な空間である。


 趣のある古時計、巨大なクマのぬいぐるみ、天蓋付きのベッド、宝箱からはみ出した金銀財宝、自身の肖像画、古書から新書まで様々な本がジャンルを問わず詰め込まれた本棚……と。


 無邪気な子どもが目についた『興味あるもの』を、片っ端からかき集めたような。


 重厚な歴史と気まぐれな悪夢が混在する空間だった。


「いひひひっ♡」


 その中央。


 格式めいた大食卓《テーブル》に着席するこの空間の創造主《あるじ》が、虹色のパフェをパクつきながら、上機嫌な笑みを浮かべている。


「うんうん、ちゃんと今回『は』まだ視ているのだよ、シュウくんっ♡」


 絹糸のような銀髪。


 整いすぎた美貌。


 無邪気でありながら深淵さを感じさせる、深く澄んだ紫水晶《アメジスト》の瞳。


 その全てが人間ではなく、比べることすら烏滸がましい遥か上位の存在なのだと、言外に物語っていた。


 下位存在に名乗る際には自身を『永遠の10歳である銀髪ロリ』などと紹介している上位存在……リスキーの眼前には、宙に浮かぶ無数の四角形。


 画角の中にはそれぞれに……泣き、笑い、慟哭し、欲に溺れる、リスキーが目をつけた下位存在の生き様が、まるで動画のように編集されて映し出されている。


 それらは等しく上位存在にとっての『娯楽』だった。


「むしろシュウくんは、今のリスキーちゃんの一番お気に入りの推し娯楽(コンテンツ)なのだーっ♡」

 

 その中のひとつ。


 気まぐれに与えた〈権能〉によって、二周目の人生に挑む下位存在……シュウの映る窓枠を見つめて、リスキーが声音を弾ませる。


「ちゃんと一周目の教訓を活かして、頑張っているのだねぇ♡ 抗っているのだねぇ♡ とってもえらいえらいなのだっ♡」


 声には、優しさがあった。


 絶対的な上位者が愛玩動物を愛でるそれだ。


「一周目のトラウマのせいでちょーっと捻くれちゃってるところもあるけど、それ込みで十分に、可愛いのだーっ♡ 推せるのだーっ♡」


 リスキーは期待する。


 これからの、娯楽《シュウ》の人生に。


「でもそんなシュウくんだからこそ、もっともっと、足掻いてもがいて苦しんで、カッコいいところをたくさん見せて欲しいのだーっ♡」


 少年の苦しみを。


 少年の喜びを。


 等価の娯楽として、消費している。


「今回のダンジョンを、安易に回避しなかったのは正解なのだーっ♡ でも……シュウくん、キミは気づいているのだ?」


 だから手助けはしない。


 後押しもしない。


 ただひとりの観客席として、舞台で踊る登場人物たちに、期待と拍手を贈り続ける。


「キミの周りで色々と変わっていることにずいぶんと戸惑っているようだけど、一番変わっているのは『キミ自身』なのだーよ?」


 それは性格や能力もさることながら、彼が『無自覚に発動し続けている〈権能〉』という重しの存在だった。


「一周目では幼馴染くんたちにレンジくんを合わせた五人の〈権能〉が集まった歪みで、あれだけのダンジョンが発生したのだー。でも今回はそこに、ジョウくんとシュウくんという二人が追加されて、以前と同じ規模で済むはずがないのだーよ?」


 そこで……ふっと。


 リスキーの瞳から温度が消える。


 楽しだった幼女の声には、賢者の静けさが宿っていた。


「……その辺に溢れている魔力なんかとは違う、〈権能〉という重しが因果律に与える影響を、まだまだキミはわかっていないのだねぇ……」


 大量の重しを載せた樽が、より深く。


 泥沼の底へと沈んでいくように。


〈権能〉によって生じた『因果律の歪み』は、数に比例して規模を増していく。


 事実、シュウが映る画面の横には小さな別窓が浮かんでいて、そこで蠢くものたちは『一周目』とはまるで異なる動きを見せていた。


「いひひひっ♡」


 ニパッ、と。


 リスキーの表情に笑顔が戻る。


「さてさて、これだけ用意周到に場を整えたシュウくんが、二周目《こんかい》はどう無様に足掻いてくれるのか、今からとっても楽しみなのだーっ♡」


 悪意も善意もなく。


 純粋な期待を寄せる上位存在の声が。


 誰もいない空間に、無邪気に転がっていた。


〈作者の呟き〉


 第六章もこれにて終了!


 そして次回から始まる第一部の山場を、果たして主人公たちは乗り越えられるのか……っ!?


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