↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/61

【39】肝試し②

〈ユウヤ視点〉


 魔力技能を禁止されているため、いつものような空間把握ができない状況下。


 普段よりも密度を増した暗闇のなか、懐中電灯の光で切り取られた円形の舞台に躍り出たのは、猿の覆面を被った上半身裸の『小人』だった。


「「 ……ッ!? 」」


 不気味である。


 滑稽でもある。


 何よりも歪《いびつ》である。


 生物が『本来あるべき』骨格を歪めて成立する猿面の小人は、現実離れした諧謔《かいぎゃく》と、生理的な嫌悪感を伴っていた。


「あはははは! あはははははっ!」


 事前に覚悟を決めていた甲斐あって、なんとか驚きの声を呑み込んだユウヤとアキラを一瞥すると、小人は甲高い笑い声を上げながら再び林の中へと消えていった。


「ねえユーくん、あれって……」


「……うん、レガリアのオボロくんだと思う」


 合宿二日目の模擬戦に出場していた、レガリア第三席の輪郭技能者……ミドウスジ・オボロなら、自身の肉体を『肥大化』させていた応用で『縮小』させることも可能だ。


(ま、まあこれくらいなら、なんとか……ッ!?)


 直後に気付く。


 先のオボロは『陽動』に過ぎない。


 本命は……ユウヤたちの、視線の先にいた。


「……」


 闇の中。


 月光を反射して煌めくのは、力強い獣の双眸。


 縦に割れた瞳孔には闘志が宿り、先ほどのような被り物ではない。


 こちらも上半身は裸だが、皮膚の一部が黄と黒の獣毛に覆われており、体格は大きくなくとも鍛え抜かれた筋肉が尋常ではない威圧感を放っている。


 虎の頭部を有する半獣人の正体は、桜陵学園の三席……ゴジョウ・コテツだ。


「……っ!」


「だ、大丈夫だよ」


 バクンバクンと、心臓が跳ねる。


 たとえ狙いがわかっていても、捕食者の前に晒された被捕食者の本能までは、抑えることができない。


「こ、コテツくんの不意打ちには驚いたけど、シュウから『仕掛け人の暴力行為は禁止』って指示が出ている以上は、直接襲ってきたりはしない……はず」


「でもユーくん? あれってなんか待ち構えてるっぽいから……たぶんあの横を、通り抜けなきゃダメなんだよねぇ?」


「……」


 普通に最悪だ。


 この仕込みを考えた人間は絶対に性格が悪い。


 前提として手出しされることはないと分かっていても、檻に入っていない猛獣に接近する行為には、相応の精神負荷《ストレス》を強いられる。


 ただでさえ強化魔法《バフ》で感覚が鋭敏化しているのに、大声なり拍手なりで揺さぶられると、生理的な反応を抑えられる自信はなかった。


 それに『暴力的でない軽度の接触』なら、許容されているのかもしれない。


 先ほどの小人化したオボロだって、完全に過ぎ去ったと考えるのは早計である。


 立ち塞がる『危険《未知》』を前にして……グルグルと。


 様々な可能性が脳裏を駆け巡る。


「……ん、よしっ!」


 ここで生来の性格が出た。


 慎重派のユウヤが思考の沼に嵌っている間に、行動派のアキラは覚悟を決めたらしい。


「いこ、ユーくんっ!」


「……っ!」


 ごく自然に、少女の柔らかい手のひらが少年のそれを包み込む。


 それだけで先ほどまでの不安や恐怖が吹き飛んで、引っ張られるがまま、ユウヤの足は前へと進んでいた。


 ただ……ドクン、ドクンッ!


 心臓の鼓動は、先ほどよりも高鳴っている。


 耳の裏が熱い。


「……」


 ともあれ、ひとつに繋がった影は数メートルほど先で腕組み待機していた虎人の真横に並び、そのまま通り過ぎていく。


(な、何もしてこない?)


 ここだけは意地で半獣人化したコテツ側を、アキラと並んで通過したユウヤだが、背後からの追撃を警戒したまま10メートルほど歩き続ける。


「も、もう大丈夫かな?」


「……確認してみる」


「じゃあ、せーので! 一緒に振り返るよ!」


「うん、わかった」


 果たして二人が同時に確認する必要があるのかは不明だが、このときのユウヤにそれを否定する論理的思考は存在しなかった。


「せー、のっ!」


「……っ!」


 息を揃えて。


 ちょっと不自然な体勢で振り返ると、繋がったままの手の下から照らされる光源の先に、半獣人の姿はなかった。


 直後に……デロン、と。


 生ぬるくて柔らかくて湿った『不快なナニか』が首筋を這う。


「んぎゃあああああっ!」


「うわぁっ!?」


 小人の煽り。


 虎人による緊張感《プレッシャー》。


 何とかそれらをやり過ごして気が緩んだ間隙をつくような、背後からの不意打ちである。


 今度こそ二人の悲鳴が山に響いた。


「げっげっげっ」


 これが『真打』だったのか。


 目の前の空間が揺らぎ、魔力技能による『擬態』を解いて姿を現した少年の両手には、先端にコンニャクが吊り下げられた細棒が握られている。


「げっげっげっげっ♪」


 カエルの仮面を被っているため声がくぐもっているが、喉を引き攣らせるような独特の嗤い方は、ユウヤのよく知る少年のものだった。


    ⚫︎


「あぁ、クッソぉ……ガエルくんめぇ、やってくれたなぁ……」


「いやアレは、無理だって……」


 小人と虎人で緊張感を高めてからの、完全に気配を絶ったガエルによる不意打ちなど、わかっていても耐えられるものではない。


 恐怖心はもちろん、生理的な反応からでも攻めてくるあたりが、非常にいや(シュウ)らしかった。


「……でもこれで、少しこの『肝試し』の方向性が見えたよ。次はもう引っかからない」


 まんまと見え透いた罠に引っかかってしまったことで、恐怖心より対抗心が上回ってしまったユウヤである。


「だ、だよね! アタシだって、負けないし!」


 気弱そうに見えて意外と負けず嫌いな少年の態度に、少女も励まされたらしい。


 ガエルの奇襲からすでに十分ほども経過しているが、繋いだままの手のひらの感触がギュッと、強まった。


(……ッ!)


 それだけでユウヤの胸に、新たな勇気が湧く。


(今度はちゃんと……耐えて、アキラさんを守ってあげないと!)


 そうして少年と少女が薄暗い山道を、二人で進んでいくと……ポッ。


 何もない闇の中に、不意に光源が灯った。


 しかもそれは……ポッ、ポッ、ポッ。


 加速的に増えていく。


 宙に浮遊する青白いそれは『人魂』のように見えた。


 自らの意思を持つようにゆらゆらと揺れて、不規則に浮遊移動する。


 それらに釣られるようにして、どこからともなく『きゃっきゃ』『うふふ』といった童子じみた嬌声と、パチパチドンドンと弾けるような、祭囃子のような音色が聴こえてきた。


「ゆ、ユーくんっ!? ねえ、これって——」


「——うん。たぶんリュウケンくんだね」


 妙にズボラなところもある企画者《シュウ》だが、約束事はこちらが破らない限りはキッチリと守ってくれる性格なので、指定していた仕掛け人以外は参加していないはず。


 第三中学からはシュウを筆頭に、ジンヤとアユム、ガエルとハルカ。


 桜陵学園からはジョウと、その側近であるリュウケンにコテツ。

 

 レガリアからはレンジとレイカの双子に、オボロといった塩梅だ。


 現時点でハルカとオボロ、コテツにガエルがすでに仕掛け人として登場しているため、残った面子でこの現象を可能とするのは、陰陽術に精通したリュウケンくらいである。


「たぶん人魂《あれ》は、『式神』だと思う」


「じゃあこの子供の声や、ラップ音みたいなのは?」


「それも式神……っていうか、精霊かな?」


 精霊とは『意思を獲得した魔力』だ。


 成長すると力ある魔力生物などに至るものの、まだ力が弱く自我が曖昧な精霊などは、魔力技能などで使役できる。


 暗闇から響く賑やかしは、半受肉化したことではしゃぐ精霊たちの歓喜だった。


「大丈夫、流石に攻撃はしてこないと思うから、視覚や聴覚の不意打ちに気をつけて進んでいこう」


「う、うん……」


 ベラベラと現状を説明することで、目の前の『不思議』を『理解』にまで落とし込む。


 そうすれば未知という闇が晴れて、進むべき道がはっきりと見えた。


「ユーくん、凄いね……」


「まぁ、この合宿中はシュウに連れられて、いろんな人の魔力技能を見させてもらったからね。これくらいは普通だよ」


「いや、そうじゃなくて…………まあ、別にいいけど」


「……?」


 幽幻的な人魂の明かりに照らされて、アキラの顔色が目まぐるしく変化して見える。


 少しだけ、不機嫌そうな。


 でもどこか、嬉しそうな。


 近くて遠い少女の胸中を推し量りたくて、チラチラ。


 横目で観察を試みるも、意地悪な影の濃淡がジャマをして上手くいかない。


(も、もうちょっと……)


 気付かぬうちに集中力を削がれていた所為か……ヒュン。


(……え?)


 突如、足元が『消失』した。


「——うわぁあああああっ!?」


「——きゃぁあああああっ!?」


 浮遊感と共に、奈落へ呑み込まれていく。


 落下の恐怖で二人はまたしても、情けない悲鳴を上げてしまうのだった。


〈作者の呟き〉


 どれだけの読者さんに需要があるのかは不明ですが、次回はスーパーお嬢タイムです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。