【37】訓練
〈シュウ視点〉
予定外のハプニングはあったものの。
ユウヤたちの奮闘によって、レガリアとの模擬戦における目的は概ね達成できた。
ひとつはユウヤ自身のレベルアップ。
これは模擬戦の結果が証明しているだろう。
その副産物として、もうひとつの目的である『精神技能者の有用性』も宣伝できた。
さらに最大の戦果である『この合宿中に限ったレガリアへの命令権』までもが手に入っている。
まさに一石三鳥の大成果。
ユウヤたちはしっかりと、期待に応えてくれた。
だったらあとは俺の役目だ。
(まぁレガリアの双子兄妹は性格的に、約束を反故にするようなマネはしねぇと踏んじゃあいたけどな)
合宿はすでに五日目に突入している。
そして模擬戦があった二日目以降は、学校側が組んだカリキュラムの他に、生徒たちに与えられた『自習時間』を活かす形で、俺は参加校を問わず『精神技能者のための魔力鍛錬講座』を開いていた。
同じようにジンヤが境界系、アユムが現象系、ガエルが輪郭系の系統別訓練を設けており、叛星會の星候補たちがそれぞれの得意分野でフォローに回っている状態だ。
でもって、自主参加とは銘打ちつつも。
俺はここで早速、レガリアへの『命令権』を行使している。
そしてジョウにもお願い……するまでもなく、主席の命令で桜陵学園の生徒たちも、この特別訓練に参加していた。
「んー、んーんんんっ……って、ムリですよぉ! 三重発動の時点でかなりキツいのに、それ以上の多重発動やりながら身体も動かすとか、マジで無理ゲーですって!」
「そうですよ! 私ら凡人なんで! シュウさんたちみたいなマネできっこないですから!」
「そーだそーだ! 凡人を過大評価しないでください! みんながみんな、シュウさんたちみたいに何でもできるワケじゃないんですよ!」
レガリアと桜陵学園からやってきた、それぞれの学校の体操服に身を包んだ生徒たちが、俺の課した訓練にブーブーと口先を尖らせる。
部屋の隅で訓練を見守っている〈白銀の樹〉の副団長……ミカも、苦笑いを浮かべていた。
彼女も精神技能者なので、少女たちの不満が理解できるのだろう。
ちなみに偶然だが、こうして俺の前に並ぶ生徒たちは全員が女子だ。
しかも、かなり容姿が整っている。
普通の学校ならクラスに一人いるかどうかのレベルだろう。
だが魔力適合者は魔素保有量が多くなればなるほど『理想の姿』へと自己進化していく性質があるため、何も不自然な光景ではない。
高レベルの魔力技能者ほど美形の割合が増えていく現象は、一周目の世界で統計的に証明されている。
そんな可愛らしい少女たちが、一応は同年代である俺を敬語で『さん』付けまでしているのは……まぁ、模擬戦での『やらかし』が原因だった。
訓練開始当初から、どれだけタメ口でいいと言っても……
『……い、いいえそんな!』
『影番長に、畏れ多いですって!』
『せめてシュウさんで勘弁してくださいよ!』
などと、頑なに聞き入れてくれないのだ。
「ねぇねぇ、ユウヤくんもそう思うでしょ?」
それなのにユウヤにはタメ口を利いているあたり、これが人徳なのかと、地味に凹んでしまう俺がいた。
ともあれ。
「僕も最初はそう思っていたけど……結局は、慣れだと思うよ。ほら、自転車だって最初は絶対に乗れっこないって思ってたけど、一度乗れたら、手放しとか二人乗りも案外普通にできたんじゃない? あれと同じ感覚だよ」
まあ両方、違法なんですけどね。
なんて野暮は、ここでは言わない。
せっかくユウヤがポジティブな発言をしてくれたんだ。
ネガティブな気持ちを切り捨てて、俺も便乗させてもらう。
「そういうこった。つーかオマエらも『あの』レガリアと桜陵の上澄みなんだから、もっと自信を持てよ」
「えー、でもー」
「三中の皆さんを見てたら、その自信が粉々になったっていうかー」
「そりゃアイツらはずっと、オマエらがやってない訓練とかバシバシやってたからな。そのぶんの差が出るのは仕方がねぇだろ?」
「で、ですよね!? だったら今さら同じことをやっても——」
「——でも今やらないで、だったらどうするんだ? ここでスネてたらそのぶんだけ、もっと追いつけなくなっていくだけだぞ?」
苦しいのはわかる。
ズルい、と。
口には出さない気持ちだって理解はできる。
だけど。
「人生は平等なんかじゃねぇってことぐらい、オマエらだってもうわかってるだろ? スタート地点だって違うし、背負ってるものだって違うんだ。そこに寄り道や迂回が加わった程度でグダグダ言ってんじゃねぇよ。んでもって今やっとかねぇと、遅れたぶんあとで後悔するのはオマエらだからな?」
「「「 …… 」」」
正論パンチに、黙り込んでしまった少女たち。
(……あー、クソ、またやっちまった)
どうにも俺は、口加減が得意ではない。
自分で言うのもなんだが、良くも悪くも、思ったことをズバズバと言ってしまう性格である。
それが幼馴染たちや叛星會のようなハングリー精神の持ち主なら、発破にもなる。
しかしこうした『普通』の感性が相手だと、強く響き過ぎてしまう自覚があった。
「まぁまぁ、そうやってこれまで『できなかった』ことで悩むよりも、これから『できる』ことを考えようよ」
一方でユウヤの言葉には、強くなくとも、相手の心に染み入るような共感がある。
「大丈夫、僕だってできたんだ。時間はかかるかもしれないけど、みんななら僕よりもっと早くできるようになるって!」
俺からすればユウヤは未来の金等級冒険者だが、一周目を知らない人間から見れば、公立の魔力学校に『しか』入学できなかった凡人寄りの魔力技能者に見えるだろう。
しかし実際は努力と工夫と連携で、見事に格上の魔力技能者たちを上回ってみせた。
その光景は、あまりにも鮮烈で。
眩くて。
羨ましくて。
「……ん、そうだよね!」
「いつまでもグチってても、ダサいだけだもんね!」
「あぁああああ! ちょいヘラってたー! カッコわるぅーっ!」
萎れかけていた心に火を灯すには、十分だったようだ。
息を吹き返した少女たちは再び姿勢を正し、呼吸を整えて、俺が教えた体内の魔力経脈を意識して魔素を循環。
効率的に魔力を生成しつつ、複数の魔力技能を同時発動していく。
ユウヤは実演で、そんな少女たちの手本となっている。
俺は魔力知覚などを用いて彼女たちの改善点を確認し、随時指導していった。
数時間ほど、そんなことを続けていると……
「……ひ〜んっ! にぃに、もうあーし疲れたよぉ〜っ!」
訓練室の扉を開いて、涙目のハルカが飛び込んできた。
ちょうど腰を床に下ろして一息つく俺を見つけるなり、図体だけはでっかいガキが膝上に突っ込んできて、そのまま太ももに頭を乗せると……ゴロゴロ。
マタタビを嗅いだ猫のように丸まってしまう。
仮にも思春期の男女としては如何なものと思わないでもないが、まぁ、いつものことだ。
もちろんそれを先読みしていた俺は魔力技能で、ハルカのいろんな柔らかい情報を全て遮断している。
「おいハル、人前だぞ? はしたねぇって」
「いーもーん! 今のあーしは充電中だから、仕方ないんだもーん」
少し離れた場所にいるユウヤが肩をすくめていた。
周囲で魔力鍛錬をしていた少女たちも、集中力が切れてしまったのだろう。
俺たちを見つめてキャッキャッと楽しげに騒いでいるが、こうなってしまったハルカは意外と頑固なので、無理に追い払うことができない。
というかそんなことをして、今回の特別訓練において他の生体技能者たち百人分くらいの働きをしている〈権能保持者〉の機嫌を損ねるのは、得策ではなかった。
(あー、ちょっと酷使し過ぎたかなぁ?)
有事の際の救命措置に限らず、こうした平時における訓練でも、他者の魔力や体力を回復できる治癒魔術の恩恵は計り知れない。
コイツがいるだけで訓練効率が何倍にも跳ね上がるのだから、この程度のご機嫌取りは……まぁ、必要経費といったところか。
「にぃにー、あたま撫でてよぉ〜」
「はいはい」
ここぞとばかりに甘えてくる妹分を、目一杯甘やかしてやる。
ふわふわとした薄桃色の髪に、指先が沈んだ。
「えへへへ〜っ♡」
「かゆいところはありませんかー、お姫さまー?」
「苦しゅうない〜っ♡ っていうか、褒めて〜っ! あーしいっぱいがんばってるんだから、いっぱい褒めて〜っ♡」
「ああ、えらいえらい」
「じゃあチューしてぇ〜っ♡」
「調子に乗るな」
「ひんっ♡」
いつものノリで引っ叩くと、充電が終わったのか、嬉しそうに頭をさするハルカが身を起こした。
「じゃ、じゃあさぁ! デートは? デートっ♡ 最近全然構ってくれないから、アユねぇもブー垂れてたよぉ〜?」
「あぁ、心配すんな。それについては今夜、ちょっとした催しを企画してるから」
「えっ!? マジで!? やった〜っ♡」
よほど嬉しかったのか、両手をあげて……ぴょんぴょん。
目の前で元気よく飛び跳ねるハルカ。
当然ながら彼女の暴力的な部分が色々と揺れているので、紳士な俺は目を逸らすと、疑問顔のユウヤと視線がかち合った。
「……へぇ。シュウってば僕たちに内緒でそんなこと、企んでたんだ?」
「企むとは人聞き悪いな。それにこういうのはサプライズのほうが、喜ばれるってもんだろ?」
「……まあ、いいけど。それで今度は一体、何をやるつもりなのさ?」
「ンなもん、決まってんじゃねえか」
夏の合宿。
若い男女。
そのうえ周囲にはおあつらえ向きに、薄暗い森が広がっているのだ。
「夏の風物詩といえば、肝試しだろ?」
「「 ……えっ? 」」
ユウヤとハルカの声が、綺麗に重なった。
〈作者の呟き〉
これにて第四章は終了!
合宿所が海なら、第五章は水着回だったのに……残念っ!




