【32】模擬戦②
〈シュウ視点〉
……ビィィィーッ!
外縁部が魔力障壁で覆われた一階のフィールドに、開幕のブザーが鳴り響いたと同時。
「はっしーんっ!」
各校の代表選手たちが長方形型のフィールドにおいて、短辺部分となる端に控えていた中、第三中学の陣営からロケットのように飛び出したのは、巨大な魔杖に腰掛けるアユムであった。
遅れてユウヤが駆け出す。
ジンヤはその場に居残り、背後の石板を庇うようにして魔力障壁を展開していた。
「……ッ! ワタクシたちも、行きますわよ!」
「わ、わかりましたぁ!」
対するレガリア陣営から飛び出したのは金髪ドリルヘアの少女……レイカと、前髪で目元を覆った痩せぎすな少年……オボロである。
(チッ、流石にディフェンダーには、レンジが居残ったか)
昨日から散々と煽り散らかしても、流石はレガリアの首席。
私情を戦場に持ち込む愚は、犯さなかったらしい。
これで一番簡単だったプランは消えたな。
(まあいい、これくらいの歯応えがなきゃ、アイツらだってやる気がでねぇだろ)
思考加速を用いた高速処理で情報を分析しつつ、視線をフィールド端から中央に戻すと、地上を駆ける二つの影と空を駆ける孤影が、まもなく接触するところであった。
(さすがレガリアのトップ帯だけあって、身体強化はそこそこだな)
しかしオボロの保護具は規格が合っていないようで、動きを阻害しているように見受けられる。
プロテクターにも種類があり、彼が選んだのは伸縮性が高い素材だが……多分そこに、魔力技能者としての性質が関係しているのだろう。
「あはっ♡ 地面を這う、ノロマなザコどもはっけぇ〜んっ♡」
とはいえ空を駆ける第三中学のアタッカーは、馬鹿正直に彼らと交戦する必要はない。
事実アユムは地上の二人をやり過ごして、誰にも邪魔されることなく石板のある敵陣奥部へと一直線に攻め込むつもりのようだが……
ヒュゴオオオッ!
バキバキッ……ビキィッ!
ゴォオオオオッ!
自身の周囲に渦巻く旋風、氷塊の槍、燃え上がる火球を、次々と生成。
「……潰れとけ、ザぁ〜コっ♡」
すれ違いざまに行き掛けの駄賃として、属性の異なる複数の攻撃魔術を地上へ投下していく。
「……クッ! なんて卑劣な!」
「う、わぁあああっ!?」
腰元から刺突剣型の魔道具を引き抜いたレイカは、一瞬で頭上に魔力障壁を展開。
魔術の精度、密度、展開速度から察するに、彼女は境界系の魔力技能者らしい。
一方で間抜けな悲鳴を漏らすオボロは、ろくな防御反応や魔術を用いないまま……ズドドドドドッ!
絨毯爆撃が地上を蹂躙。
盛大に轟く爆発音と炸裂音。
濛々と、粉塵が舞い上がった。
戦果を確認することもなく、アユムは敵陣目掛けてカッ飛んでいく。
「あぁぁ、もうっ! 最悪ですわっ!」
ビュオン! ビュンッ!
周囲の粉塵を切り裂き、怒鳴り声をあげて姿を現したのはレイカだ。
遠ざかっていく爆撃魔を忌々しそうに一瞥するものの……ドオオオンッ! ズドオオオンッ!
先ほどのそれとは比べものにならない爆撃音が、自陣の奥深くから鳴り響く。
早速攻撃目標まで到達したアユムが、上空から大量の攻撃魔術を打ち込み始めたのだ。
同時に……バヂヂヂッ!
降り注ぐ属性魔術を焼き払う、紫電の結界。
(まぁ、そりゃそうだ)
前回と同じで、レンジは雷撃魔術に特化した〈権能保持者〉のようだ。
彼がああしてディフェンダーとして残っていなければ、強烈な属性魔術による飽和攻撃によって、優等生程度の境界魔術など簡単に打ち破られていたことだろう。
「うぉおおおおおッ!」
時折……ビィイイイッ!
少年の裂帛と共に、空気を引き裂く光線が空に向かって放たれる。
「あははっ♡ ザコ過ぎっ♡ どこ狙ってんだよバぁぁぁカっ!」
しかし攻撃魔術の迎撃はできても、縦横無尽に空を駆ける術者を撃ち落とすには至らない。
空中を高速移動しながら攻撃魔術を降らせるアユムと、地上で電磁結界を張りながら雷撃魔術で迎撃を試みるレンジの、耐久戦が展開されていた。
「……ッ!」
たとえあの場に自分が戻ったところで、対空戦力が足らないと判断したのだろう。
金髪ドリルヘアの少女は踵を返すことはなく、再び第三中学の奧陣を目指そうとして……ギィイインッ!
甲高い金切音。
「……ッ! 何者!」
咄嗟に反応したレイピアが、粉塵の中から飛び出した刃を弾いていた。
「無礼者め! 恥を知りなさいな!」
「いやこれ、模擬戦だから!」
煙幕からの奇襲を防がれたユウヤが、両手に構える短刀を乱舞させる。
「くっ……っ! この、下衆めっ!」
あそこまで密着されて攻撃を連打されれば、レイピアのリーチを活かすことも、魔力障壁を展開することも難しいだろう。
対するユウヤは精神系の魔力技能である魔力感知で周囲を知覚しているので、視界の悪さによる影響は受けていない。
そしてプレイヤーたちが身につけているプロテクターは、一定の衝撃を受けると色が赤く変化していく仕組みなので、これがそのまま使用者の受けたダメージとして換算される。
仮に各校が制限時間内に互いの石板をひとつも倒せなかった場合、プレイヤーの受けたダメージ値によって勝敗が決まるため、敵陣を攻めるアタッカーを背後から狩ることも、サポーターの重要な役割だった。
(つっても境界系を相手に、あそこまで思い切って距離を詰められる度胸と実力があってこその首狩り戦法だけどな)
援護射撃を活かす形で、本来であれば距離を詰めるのが最も難しい境界系へと肉薄したユウヤの勇気が、対戦相手のプロテクターに朱線を刻んでいた。
「ちょぉおおおおおおっとぉ! 待ぁあああああってくださいよぉおおおおおっ!」
絶え間ない斬撃に割り込んだのは、野太い少年の声である。
「ボクもぉ混ぜてぇえええええっ!」
鳴り響く金属音が、視界不良の中でも目印となったのだろう。
粉塵を突き破って姿を現したのは、身長2メートルを超える巨大な肉塊だった。
「オボロ、挟み込みますわよ!」
「合点承知でございますぅうううううっ!」
「うわっ……とっ!」
肉体の異常な膨張と共に、目元を覆っていた前髪が跳ね上がった少年は、おそらく輪郭系の魔力技能者だ。
全身を包む魔力皮膜ごと肉体《中身》を変質させる、わかりやすい強化技能者。
しかし魔力技能を身体能力に全振りした攻撃力は伊達ではなく、繰り出す拳は空気を豪快に割り裂き、機動力もその鈍重な見た目からは想像できないほどに素早い。
(挟み込まれたな)
そこに調子を取り戻したレイカの刺突が加わることで、並の魔力技能者なら詰みの状況なのだろうが……
「……ッ!」
「くっ……ちょこざいな!」
「当たれ当たれ当たれ当たれぇええええええっ!」
生憎と叛星會のユウヤは、格上《星》相手との戦闘には慣れている。
奇襲を仕損じた不利な状況でも、冷静に状況を分析。
情報処理を上昇させる思考加速と、肉体の反応速度を引き上げる神経鋭化の同時使用によって、スローモーションと化した体感時間の中で的確に敵の攻撃を捌いていた。
その間も……ズドドドドドォッ!
レガリア陣営からは、間断のない爆撃音が轟いている。
「……くっ!」
レイカの表情に葛藤が滲む。
(だよなぁ。たとえここで時間をかけて敵を討ち取ったとしても、その間に受けた二人分のダメージがユウヤの一人ぶんを上回っちまうと、差し引きでマイナスだもんなぁ)
ましてや手間取っている間に、自陣の石板を破壊されてはたまったものじゃない。
そのような立ち回りを、ユウヤは行っているのだ。
決断には十秒もかからなかった。
「……オボロ、この場はお任せしますわ!」
「イぃいいいいいエッサぁあああああっ!」
魔力技能で脳内麻薬を大量に分泌させているのだろう。
ギンギンに目を輝かせた、やたらとハイテンションな巨漢にその場を任せて、豪奢な金髪ドリルを翻した少女が敵陣へ向かって駆け出した。
「キミの相手は、ボクですよぉおおおおおっ! よろしくねぇえええええっ!」
「……いや、ちょっとうるさいから、もう少し静かに喋れません?」
「あはははぁ! よくぅ、言われちゃいますぅううううううっ!」
ようやく粉塵が晴れてきた、フィールドの中央。
全身が肥大化した筋肉ダルマの少年と、両手にダガーを構えた小柄な少年が、激突する。
〈作者の呟き〉
オボロくんは某ハ⚪︎クさんをイメージしていただければと。




