【28】合同合宿
〈シュウ視点〉
中学二年生の、夏休みである。
ミーンミーン……
ジワジワジワ……
人里離れた山奥の訓練施設。
都心部とは比較にならない自然の大合唱が、四方から押し寄せてくる。
降り注ぐ日差しに灼かれながら、俺はクソ熱い夏用制服のまま、炎天下の広場に整列していた。
「……という訳で、今日から始まるこの一週間の合同合宿が、これからの時代を牽引していくキミたちの礎になることを、心から願っています」
「はい、という訳で現役の金等級冒険者であるヒイラギ・カイトさんによる、有り難いお言葉でした。みなさん拍手っ!」
パチパチパチ、と。
拡声器で増幅された教員の指示で、三列に並ぶ少年少女たちから拍手が湧く。
いかにも現代風な最先端の科学素材と魔力素材を融合させた冒険者装備に身を包む青年が、丁寧に一礼。
恭しく壇上から下がっていった。
「それでは次に、各校の代表首席による宣誓に移ります。私立桜陵学園代表、クロツキ・ジョウさん、前へ!」
「はい」
「レガリア・アカデミア代表、タチバナ・レンジくん、前へ!」
「はいっ!」
「東京第三中学校代表、カナタ・ジンヤくん、前へ!」
「……はい」
冒険者の男と入れ替わるようにして、広場に整列する桜陵学園、レガリア、第三中学の選抜組の中から、各校の代表生徒が前へと進み出ていく。
(ジンのヤツ、まだブー垂れてやがんのかよ)
俺たちが中学校に進学して、すでに一年以上が経過していた。
季節は七月の下旬。
中学生活二度目の夏休みだ。
普通の中学生ならレジャーやお祭りなんかで浮かれる時期だろうが、生憎と俺たちのような魔力技能者の通う学校では、各校の成績上位者16名が選抜された六泊七日の『魔力技能者合同合宿』が、夏休みを食い潰す恒例行事となっている。
壇上へと登っていく白髪の美男子……ジンヤは、俺が学年首席じゃないことに、未だに不満を持っているらしい。
(仕方ねぇじゃねえか、ここは『学力』よりも『魔力』が優先される学校なんだからよぉ)
テストで同じくらいの好成績を取り続けている場合、魔力値が高い生徒が優遇されるのは当然の理屈。
ちなみに第三中学の首席はジンヤで、次席が一年前からまるで体型の変わらない小麦肌のチビっ娘……アユムだった。
「……チッ、チッ、チィ!」
こちらはジンヤに対抗意識を燃やしているらしく、舌打ちを漏らしながら壇上を睨みつけている。
「……ふわぁぁ……まだ、終わらないのぉ〜?」
小柄なアユムとは対照的に、肉体の成長『だけ』は著しい桃色髪の少女……ハルカは、よほど興味がないのか開始五分ですでに頭が左右に揺れていた。
「……」
褐色肌の少年……ガエルなど、挨拶すら聞いておらず、先ほどからずっと片足の爪先立ちで自重訓練を行っているほどの無関心ぶりだ。
相変わらず幼馴染たちが自由過ぎる。
(しっかし……なんか色々と、前回から変わってきちまったなぁ)
すでに二周目での人生が、五年以上も経過しているのだ。
魔力災害のような大きな因果律の歪みは変わらないとしても、それ以外の人間関係や立ち位置などは、目に見えて変化していた。
例えば今こうして第三中学が並ぶ列を見渡すと……首席を除いた15名の生徒のうち、その大半が叛星會で占められている。
一周目で首席と次席だった生徒が列の最後尾に並んでいるのとか、もはや異常だろ。
(それに第三中学だけじゃなくて、桜陵学園のほうも……)
チラリと、視線を送ると。
広場の壇上に立つ桜陵学園の首席。
画一的な第三中学のものとは違い、有名なデザイナーに頼んだのだという華やかな夏用制服に身を包む、夜を溶かしたような黒髪の少女……ジョウと、バッチリ目が合ってしまう。
(っていうかアイツ、さっきからずっとこっちをガン見してない!?)
相変わらず凄みのある笑みを注がれて、日中でも背筋が泡立った。
「チッ! チッ! チィィッ!」
先ほどからアユムの不機嫌が加速しているのも、もしかするとそれが一因なのかもしれない。
幼馴染は昔から、ジョウと仲が悪いんだよなぁ。
(でもアイツがここまで表舞台に出てくるのは、正直意外だな)
俺の知っている『女帝』と呼ばれていた人物は、自らが矢面に立つことを好まず、影から盤面を支配するタイプだった。
事実として一周目では、ジョウが桜陵学園の代表にいた記憶はない。
しかし今回は堂々と、盤面に躍り出ている。
一体何が彼女の心境を変化させたのか……
(……っていうか、え? マジでアイツ、俺と同じ高校を狙ってんの?)
いつかのふとした会話であるが、もしそれが事実だとすれば、ジョウが二周目で実力を隠すことなく将来への下地作りをしているという行動に、一応の筋が通る。
(いやいや、そりゃ今回も受験はするけどさぁ!? 『また』通らねぇのかもしれねぇんだから、そんな期待されても困るんだけど!)
一周目の俺にとっての大きな転換点のひとつである、高校受験の失敗。
志望校は日本でも有数の魔力適合者育成に特化した学校であり、ここに入学することが、将来的な成功への王道だとされていた。
そして前回の俺は、筆記試験、魔力値ともに、合格水準に達していたはず。
それでもなお……不合格という判定。
この結果にはおそらく上記以外の『何か』が関わっており、今回の俺がそれを満たしているというのは、楽観的な考え方だと言わざるを得ない。
無論、受験に最善を尽くすけれど。
志望校に、期待を抱き過ぎてはいけない。
俺としては前回通りに、幼馴染たちを志望校に送り出せれば、万々歳くらいの心境である。
(そうなりゃ幼馴染やお嬢だって目が覚めて、俺に幻滅してくれるだろ)
思考を切り替えて、壇上に意識を戻す。
(なんにせよ、第三中学は実質的に叛星會が牛耳ってるし、桜陵学園はお嬢がシメてるってぇのは、この後の『計画』にとって追い風だ)
舞台に上がっている各校の代表生徒は三名。
つまりこのサミットに参加している学校は三つで、それぞれに特色があった。
まず俺たちの通う第三中学は、良くも悪くも政府から魔素適応者と認められれば、門を叩ける学校である。
そのため一般的な家庭や、俺たちのようにあまり裕福ではない家柄の生徒だって、政府からの支援金制度を利用する形で入学することができた。
他方、桜陵学園は所謂『上流階級者』の子息令嬢らが通う超名門校であり、こちらは家柄が何よりも優先されている。
とはいえ魔力社会へと移行しつつある現代、有望な魔力技能者を『特待生枠』として招聘したり、稀にジョウのような特異な血筋の者が〈権能〉に覚醒することもあるので、魔力技能者の頭数はピンキリとはいえ揃っていた。
そして最後となるのが……
(よし、レガリアの代表は一周目と変わっていねぇみたいだな)
レガリア・アカデミア。
魔力社会を見越した大企業がスポンサーとなって、数年前に共同出資で設立された魔力技能者用の専門教育機関である。
資本力にモノを言わせて掻き集められたこの学校の生徒たちは、学生のうちから厳しい競争社会に身を置いているとのこと。
極端な実力至上主義であるがゆえに、生徒たちは自分の力に誇りを持ち、それを誇示する傾向が強い。
そんな学校の代表ともなれば、語るまでもないだろう。
輝くような金髪に、精悍と傲慢が同居する厳しい面構えをした少年……レンジの姿に、俺は内心でほくそ笑む。
(とりあえずコイツを何とかできれば、計画の第一条件はクリアだ)
このあとで執り行われる予定の『晩餐会』。
俺はどうやって彼を罠に誘い込むべきか、悪巧みに耽るのだった。
〈作者の呟き〉
というわけで、第四章の開始です。
ヤンチャキッズたちが集められて、何も起きないはずがなく……(^^)




