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【27】後日談

〈ユウヤ視点〉


 ユウヤが叛星會の集会に参加して、帰宅中にドミニオンなる犯罪組織に拐かされてから、三週間が経過していた。


「ぶーぶーっ!」


「ブーブー!」


「うるせぇ、図書館じゃ静かにしろ」


 半日授業の土曜日。


 午前中の日課を消化したユウヤは、シュウたちと共に第三中学の図書館を訪れていた。


 無数の書棚に埋め尽くされた空間は、どこか世界から切り離されたような静けさを湛え、年季の入った古紙独特の甘い香りに包まれている。


 校舎の一棟を丸ごと使った広い図書館だが、中間試験が近いこともあってか、館内は空席が見当たらないほどの盛況ぶりだ。


 静かな賑わいを見せる一角に、周囲の空気から明らかに浮いている、異質な生徒たちの集団があった。


「だってぇ〜、こんなのぉ〜、デートじゃないよぉ〜っ」


 中学生とは思えない発育過剰な身体を揺らして、不満の態度を露わにするのは桃色髪の少女……ハルカ。


「マジでそれなー。ねぇねぇおにぃ。せめて学校から離れて遊ぼうよー」


 こちらは平均値よりも小柄だが、地毛に4色が混じるツインテールが人目を惹く小麦肌の少女……アユム。


「いいから、黙れって」


 カラフルで魅力的な少女たちに挟まれつつも、つれない態度で辟易とした表情を浮かべるのは黒髪の少年……シュウである。


「お前らが中間テストで俺よりいい点取ったら、考えてやるよ」

 

「はぁ!? そんなの絶対、ムリなヤツじゃん!」


「そーだよにぃに、イジワルだよ〜っ!」


「……お前らなぁ、やる気ねぇなら俺は降りるぞ?」


 ジロリ、と。


 わざわざ自分の時間を削って勉強を教えていたシュウが睨みつけると、叛星會においては一目置かれている星の少女たちが狼狽する。


「う、うそうそ、ごめんねにぃにっ! あーし、がんばるから! だから怒らないでよ〜っ!」


「で、でもおにぃ! マジでいい点取れたら、今度こそちゃんとデートしてよねっ!」


「はいはい」


 心底面倒臭そうな態度を取りつつも、幼馴染の少女たちから質問されるとちゃんと教えているあたり、やっぱり素直じゃないなと思ってしまう。


(結局……あの日の『後始末』だって、最後は全部、シュウに任せきりになっちゃたし)


 事件に巻き込まれた不良少年たちを守るため、ドミニオンの処遇を「俺に任せろ」と強引に請け負った少年が、あのあとどのような手段をとったのか。


 その場から退去を命じられたユウヤはおろか、幼馴染たちすらわからないという。


『——兄さんの高みには、まだまだ僕たちは届いていないということです』


『……ん、もっとがんばる』


 廃ボウリング場からの帰り道。


 ユウヤたちの護衛という名目で、現場で露払い役を命じられていた少年たちの漏らした呟きが、胸に響いていた。


(まだまだ……今の僕じゃ、シュウの荷物を背負ってあげられない)


 でもいつか、背負ってあげたい。


 彼の抱えるものを少しでも支えたい、と。


 あの衝撃的な夜を経ることで、そうした気持ちが膨らんでいる実感があった。


 そのためにとにかく今は、自分にできることを積み上げていくしかない。


「ねぇねぇユーくん、この問題なんだけど……」


「……あ、うん、ここの方程式はね——」


 第三中学に通う叛星會の面々が集まるテーブルにおいて、幼馴染の少女たちに勉強を教えるシュウと同様に、ユウヤも教えを請われる立場にあった。


 発育過剰なハルカほどではないものの、こちらも十分に大人びた容姿をしている垢抜けた少女……アキラからの問いかけに、高鳴る鼓動を抑えながら、ノートにペン先を走らせる。


「——っていう感じになるんだけど、この説明で伝わるかな?」


「うんうん、めっちゃわかりやすい! サンキューっ! っていうか先生よりも全然わかりやすいから、ユーくん、先生とか向いてるんじゃないのー?」


「そ、そうかなぁ」


「間違いないって! アタシがママになったら、ユーくんみたいな先生に教えてもらいたいもんっ♡」


「……」


 ママ、という単語に反応して。


 思考加速《アクセラレータ》を使用していないはずなのに高速展開されたアキラの未来予想図と、その隣にいる男の姿を想像し、ユウヤは自分自身を張っ倒したくなった。


「……ユーヤぁ、ここはぁ?」


「あ、うん、ここはリトマス紙の応用でね——」


 思わず思考停止《フリーズ》しかかったところで、アキラと反対側の席から褐色肌の少年……ガエルから呼び声が挙がったのは、幸いだった。


 思考を無理やりに、問題文の説明へと移行させる。


「——だから以上の反応を踏まえて、もう一度、この問題を読んでみて?」


「……ん、わかったぁ」


 呼び方が微妙に変化したアキラと同様に、あの夜をキッカケに距離が縮まった少年が、太い金髪の三つ編みを揺らしながら再びノートへ視線を落とす。


「……いや、マジで助かるわ」


 不意の称賛に顔を向けると、テーブルの対面に、感心の表情を浮かべるシュウがいた。


「ねっ! エルくんがにぃに以外に懐くのって、珍しいもんねっ!」


「あぁ、そいつの世話を引き受けてくれるだけでも、ぶっちゃけかなり助かる」


 少女の声に、少年がしみじみと顎を引く。


「見ての通りコイツら、実技はともかく筆記はからきしだから、毎回教えるのに苦労してたんだよ……」


「あはは! ジンくん以外はあーしら、テストはにぃにに頼りっぱなしだもんね〜っ♡」


「褒めてねぇから、少しは反省してくれ」


「ひんっ♡」


 パシンッ、と。


 気安く後頭部を叩かれると、ハルカが浮かべる嬉しそうな笑顔に、シュウの顔色は苦々しさを増した。


「そうですよ、みんな。兄さんの手を煩わせるなんて言語道断です」


 少女たちを非難する声は、テーブルに集まる星候補たちの間を移動する白髪の美男子……ジンヤから放たれている。


「そんな為体《ていたらく》で、生きていて恥ずかしくないんですか?」


「うっせぇ反射《ボット》野朗! いいから黙って、お得意の暗記でも自慢してろよ!」


「ふっ……兄さんの役に立てない僻みですか。見苦しいですね」


「ンだと、このヤロ——んっ!?」


「……アユ、静かにしろって言ったよな?」


 ヒートアップするアユムの頭を、シュウが上から押さえつける。


「だ、だってぇ、おにぃ……」


「誰にだって長所と短所があるんだ。ジンが優れている部分は、素直に認めてやれよ」


「はい、兄さん! ありがとうございます!」


「ジン、次大声出したら図書館《ここ》から追放な?」


「……っ! わ、わかりました……っ!」


 すぐさまに声量を抑えるものの、ジンヤの背後でブンブンと振るわれる尻尾の幻影に、シュウは頭痛を覚えているようだ。


「……ッ! おいユーヤ、テメエもさっさと成績伸ばして、あの無感情《ロボット》野朗の鼻をへし折ってくれよな!」


「人を煽る前に、おまえはまず自分でちゃんと勉強しろ」


「う、うぅ……はぁぁい……っ」


 シュウから厳しく諭されて、しょんぼりと勉強に取り組むアユム。


 だがそんな彼女からも以前より棘が取れている実感に、ユウヤの口元は緩んでいた。


(きっと僕は、シュウには追いつけない。シュウのようにはなれない。でもシュウにだってできないことはあるんだから、僕はその部分を、できるようになればいい)


 それが単独ではなく、群れとして生きてきた人間の強みなのだと、ユウヤは確信している。


「……」


 その後はしばらく黙々と勉強をしていたのだが、ふとした静寂で、シュウの視線に気づいた。


(あっちには確か……)


 自分たちのテーブルから少し離れた場所で勉強しているのは、先日にシュウから『課題《ラストチャンス》』を突きつけられた、不良少年たちである。


「……気になるの?」


 思わず溢れてしまった疑問に、黒髪の少年は気恥ずかしそうに視線を逸らす。


「別に。ただアイツらがコケると仕置きの手間が増えるから、面倒だなって思ってただけだよ」


「ふふっ。本当にシュウは、素直じゃないね」


「いやマジだって。今でさえ結構迷惑してんだから、これ以上アイツらと関わりたくねーんだよ」


 おそらくシュウの指摘する『迷惑』とは、三週間前のあの日を境に、不良少年たちがシュウに向ける態度が一変したことだろう。


 顔を見掛ければ、必ず腰を折って挨拶をする。


 年下なのに『シュウくん』と敬称をつける。


 シュウ以外の會員たちにだって、下級生とは思えない対応を見せている。


 挙句に授業まで真面目に受けるようになった不良少年たちに理由を問えば『シュウくんと約束したんで!』と返されると、周囲の見る目が変わるのは当然だろう。


 しかもあの夜の詳細はシュウから戒厳令が出ているため、継ぎ接ぎされた情報から導き出された『どうやら上級生たちが呼び出されて一斉にシメられたらしい』という噂が、学校中に流布していた。


「影番長」


「……やめてくれ。マジで吐きそうだ」


 ここ最近で耳にする通り名を口にすると、本人は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「いいじゃない。なかなか似合っていると思うよ?」


「……ははっ。ユウヤも、言うようになったじゃねえか」


「まぁね。これでも星入りを、目指しているから」


「……」


 でも、何故か。


 増長ではなく前向きな気持ちでユウヤが星入りを宣言した瞬間、會に誘ったはずのシュウが、さらに苦々しい顔を浮かべていた。


「……ま、まあいいや。じゃあそんな未来の参謀さんに、お使い頼むわ」


「ん? なにこれ?」


「ここ数年ぶんの過去問。なんか俺らのを集める途中で拾ったから、アイツらに恵んでやってきてくれ」


「僕が行ってきて、いいの?」


「むしろ頼む。もうこれ以上、アイツらと関わりたくないんだよ」


 きっとこういう天邪鬼な部分が、裏ボスとか影番長だとか、噂される原因なんだろうなとしみじみ思う。


(でもそういうところを含めてシュウだから、仕方ないよね)


 とりあえず今は、この優秀なのに不器用な少年を支えるために、ユウヤは受け取った用紙を手にしてテーブルを離れるのだった。




〈作者の呟き〉


 これにて第三章が終了!

 ちょっと重たい内容だったので、第四章はリラックスできる内容にする予定です(^^)


 またここまで拙作に触れていただき、興味や関心を持ってくださった読者様には、最新話を下スクロールして星評価を投げていただくと、新たな読者の流入に繋がり執筆の原動力となりますので、どうかよろしくお願いします。


 m(_ _)m

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