【23】後始末〈表〉①
〈シュウ視点〉
一般的な感性で言えば。
大人における三歳差と、子どものそれとでは、受ける印象が全く異なる。
中学生の時分では上級生などまるで、絶対的な上級者であると錯覚していてもおかしくはない。
しかしいま俺たちの目の前には、学校の上級生たちが10名、ズラリと正座して並んでいた。
ただひとりの同級生である少女……ユリカなどは、その端っこで所在なさげに縮こまっている。
(さぁて、どうしたもんかねぇ)
廃ボウリング場で起きた半グレ集団『ドミニオン』による誘拐事件は、すでにケリがついていた。
ガエルが無効化した連中は死なない程度に応急処置をしたあと、奴らが持参していた魔力技能者用の拘束具でふんじばって、床に転がしている。
「げっげっげっ!」
「——シッ!」
興奮冷めやらぬガエルは、クールダウンとしてジンヤと模擬戦の真っ最中だ。
ズドォオオオンッ!
ゴオオオンッ!
激しい重低音が、空気を震わせる。
万が一がないようにと閉ざされたままの空間には、先ほどとは比べ物にならない戦闘音が鳴り響いていた。
「「「 ……ッ! 」」」
魔力波が吹き荒れる度に、先輩たちが肩を揺らす。
「……ねえ、シュウ」
「カイチョー、それでコイツら、どうするんですかー?」
一方、俺の背後には今回の被害者であるユウヤとアキラが控えていた。
本格的な治療は地元に帰ってからとなるが、ジンヤの収納異界から取り出した医療用魔道具を用いて応急処置を行なっているため、負傷した少年の顔色はほどほどに回復している。
そしてユウヤはすでに取り戻した私服に着替えているのだが、アキラは俺の上着を羽織ったままだ。
どうやらドミニオンの連中から剥ぎ取られた衣類に、不快なイタズラをされていたらしい。
嫌悪感を我慢しろとも言えず、上着はレンタル継続中である。
(これ、あとでちゃんと返してくれるんだよな?)
あれって結構お気に入りの、希少品なんだけど。
ともあれ。
「お前らは、どうしたい?」
視線を眼下に固定したまま、背後の二人に問いかけてみる。
「僕は……シュウに、任せるよ。こういうの、よくわからないし」
「アタシもカイチョーにお任せしまーすっ!」
「……」
いや、そういうの、一番困る解答なんだけど?
(でもまあ確かに……この辺の匙加減は、ガキんちょには難しいよなぁ)
何せ拉致誘拐に、暴力行為だ。
今回の件が表沙汰になれば警察が動いて、今回の件に関わった上級生の将来に、昏い影を落とすのは間違いない……
【……なぁシュウ、今度バイクのケツに乗せてやろうか?】
瞬間、脳裏に前回の記憶が蘇る。
幼馴染たちのときのような、苛烈で激しい、怨嗟の声ではない。
それは過ぎ去りし過去を愛おしむ懐古だった。
【えー? シュウのツレってみんな〈権能〉持ちなの? ヤッバーっ!】
【ここ、俺たちでもタバコが買える穴場なんだよね】
【今度ラーメン奢ってやるから、ちょっと付き合えって! なっ!?】
【逃げろ逃げろ! シュウ、絶対に捕まんなよーっ!】
【シュウくんが〈権能〉に覚醒したら、パーティーとか作ってウチらを雇ってよね〜っ♡】
前回の俺は、今回とは違って、学校のワルに可愛がられる後輩という立ち位置だった。
だからこの先輩たちがとてもお行儀の良い人間だとは言えずとも、ここまでの悪事に手を染める悪党たちでないことを、経験として知っている。
(これも……俺が変えちまった、歪みか)
因果律ではなく、人間関係の絡れ。
気に入らない後輩を脅かそうと背伸びした結果、本物の悪党に付け込まれてしまった彼らは、自業自得ではあるものの、ある意味では俺の被害者とも言える。
そんな彼らを……一方的に裁く気にはなれない。
幸いにして酌量権は、俺に委ねられていた。
だったら……
「……ユリカ、だっけな?」
「は、はいっ!」
かるく呼びかけただけで可哀想なほどに恐縮する少女へ、改めて確認する。
「おまえがアキラと同じ美術部で、部活で一目置かれ始めてるコイツのことが気に入らなくて、昔からツルんでた先輩にちょっとシメてもらえないか相談したのが今回のキッカケ……って認識で、間違いねぇんだな?」
「……っ!」
罪状の確認に、ユリカが息を呑む。
正直この状況は、滅茶苦茶に怖いだろう。
「そ、そうです! わたしが……トウジョウさんのこと、センパイに、愚痴りました!」
それでもちゃんと自分の非を認めて、罰を受けようとする姿勢は、素直に評価できた。
(ったく……お前みたいなガキが、簡単に泥沼ハマってんじゃねぇよ)
不用意なガキが悪いのか。
誑かす大人が悪いのか。
どっちにせよ、胸クソ悪い話だ。
まあいい、次。
「んで、ユリカから告げ口されたアンタらがどうしよっかって悩んでたときに、最近知り合ったばかりの刺青野郎が、協力するって持ちかけてきたのか?」
「は、はい……なんか最初はバイヤーって聞いてたんですけど……でも話してみると、スゲー気さくで、物知りだったし、色々と相談とかもしちゃってて……」
ユリカから告げ口をされた、近所に住む幼馴染だという少年に、俺は冷ややかに告げた。
「本物の悪党なんて、そんなもんだよ。アイツらは善意の仮面で近づいてくるんだ。基本的に向こうから擦り寄ってくる輩にはロクなのがいねぇって、いい勉強になったな」
「……はい。マジで、すいませんでした」
「……」
ガックリと項垂れて、気落ちする少年。
そこに上級生としての威厳はない。
しかし彼こそが一周目において、俺にとって憧れの先輩だったのだ。
前回と同じく赤く染めた坊主頭の側面に剃り込みを入れて、身体つきも周囲の少年たちより大人びている。
ちょいワル風を吹かせて学校で幅を利かせていた先輩が、こうして縮こまっている姿は、なかなか心にクるものがあった。
(……あんまり直視し続けると、前回の俺が暴走しちまいそうだな)
手早く話をまとめよう。
「じゃあ……アキラ」
「はい!」
「まずオマエから、ユリカに言いたい文句はあるか?」
「んーっ……」
少し、考え込んで。
アキラはユリカの前に移動して、かがみ込み、正面から視線を合わせる。
「なぁ、ユリカ」
「トウジョウさ……ぁ痛っ!」
俯きかけたユリカの額を、アキラの指先が跳ね上げていた。
「アキラって呼んでって、前にも言ったよね? アタシその苗字、好きくないんだよ」
「で、でも……」
「てゆーか、呼べ」
「……あ、アキラ、ちゃん」
「うん」
「怒って……ないの?」
「え? そりゃガチギレてるよ?」
一瞬で、空気が氷点下まで凍りついた。
〈作者の呟き〉
上着くん「さようなら」




