↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/61

【22】守り狐

〈シュウ視点〉


 俺たちが『異変』を察知したのは、隔週土曜日に行われる叛星會の集会を終えて、帰宅している最中だった。


 ブルルルッ、と。


 俺や幼馴染たちの身につけた装飾品……根付《ねつけ》のような『狐人形』が、一斉に震え始める。


「……っ! おにぃ、これって!?」


「——待て、いまクズに確認する!」


 會員にも携帯を義務付けているこの『お守り』は、クズノハの呪術が仕込まれた『簡易的な式神』だ。


 普段はあのエロ狐が俺たちを覗き見るためのストーカーアイテムに成りかねないのだが……

 

【……おい、聴こえてるか!? クズ!】


 式神に、魔力接続《パス》を通すことで。


 緊急時にはこうして、簡易の思念通信機にもなる。


 そして百体近い式神からの情報を同時処理できる魔力生物《アイツ》なら、個別の異常事態を感知して、速やかに状況を伝達することが可能だった。


【遅いわバカモン! あの新入りとアキラに、良からぬ影が差しておるぞ!】


【……ッ! わかった、今すぐそっちへ向かう! 位置は特定できてんのか!?】


【笑止ッ! わっちの可愛い信徒を、みすみす拐《かどわ》かせるものかよっ!】


 流石、強欲な色ボケ狐だ。


 一度手にした信者《もの》に対する執着心が、ハンパない。


 普段は傍迷惑な粘着行為《ストーキング》も、こういう緊急時においては頼もし過ぎる。


「みんな、神社に戻るぞ!」


 クズノハとの接続を切って呼びかけると、真っ先にジンヤが反応した。


「はい! では兄さん、僕が——」


「——アユ、頼む!」


「まっかせて、おにぃ♡」


「……」


 言葉を遮られたジンヤが不服そうな顔をしているが、知ったことか。


「おら、ジンヤ! ブー垂れてないで、さっさとウチの魔道具を寄越しな!」


「……チッ」


 不承不承といった態度で、ジンヤが超レアな空間魔術である『収納空間《アイテムボックス》』を発動。


 魔力で造った簡易異界《スペース》から、巨大な魔法杖を取り出した。


「万が一にも兄さんを、絶対に、落としたりしないでくださいよね!」


「当ったり前じゃん! ほらおにぃ、はやく乗って乗ってっ♡」


 自分の背丈よりもデカい杖を横倒しにして、腰掛けるアユムの後ろ同席する。


 華奢な背中に手を回すと……

 

「……んもう、おにぃ! もっとギュッと♡ ちゃんと密着してよね〜っ♡」


 アユムは八重歯を覗かせて、ニマニマ。


 小生意気《メスガキ》な笑みを浮かべていた。


「じゃないとおにぃが振り落とされちゃうかもだから、仕方ないよね〜っ♡」


 今回はアユムが正論だ。


 しっかり背後から抱きついてやると、ツインテールから蒸れた甘い香りが漂ってくる。


「……ッ!」


 ジンヤが般若のような形相を浮かべているが、今は兄妹喧嘩に付き合っている暇はない。


「おら行け、アユ!」


「うんっ♡ おにぃ、イっくよぉ〜っ!」


 小さな体躯から、相変わらず馬鹿げた密度の魔力が噴出すると……フワッ。


 一瞬の浮遊感。


 足元が浮いて、具現化された球状の『風』が俺たちを包み込んだ直後には……ヒュゴオオオオオッ!


 背後から猛烈な突風が叩きつけられた。


「はっしーんっ♡」


 次の瞬間には夜空をカッ飛んでいる。


 眼下の景色が、凄まじい速度で流れていく。


(みんなは……よし、ちゃんと着いてきてるな!)


 ガエルは住宅の屋根を飛び跳ねて直線移動。


 ジンヤはハルカを抱えて、地上を爆走している。


 ものの数分で深尾神社へと到着した。


「——クズ、どうなってる!?」


「いかん、もう街を出るぞ!」


 本殿に飛び込むと、暗闇を照らす篝火の中で、クズノハが地図を覗き込んでいた。


「ぢゃがその程度で、わっちの嗅覚から逃れられると思うなよ、下郎どもめっ!」


 広げられた紙面の上には数枚の人型紙片《ヒトガタ》。


 脇に置かれた水盆には針が浮かんでいる。


 神社に産土神《うぶすながみ》として祀られているクズノハは、信者たちとの『縁《パス》』が繋がっている限り行方を追跡(ストーキング)……じゃなくて、見守り続けることができるのだ。


 ユウヤたちを攫った連中は計画的に追手を撒こうとしているようだが、その程度で妖狐の執着を振り切ることはできない。


「よし! じゃあ……エルとジン、お前ら着いて来い!」


「はい、兄さん!」


「……んっ」


「ちょ、にぃに!?」


「なんでウチらは、留守番なのぉ!?」


 喚く居残りの姉妹組に、手早く言い聞かせる。


「誘拐犯《あっち》が陽動の可能性がある。だから地元《こっち》にも指示役《ブレイン》を残さなきゃなんねぇから、アユは確定だ」


「いっつもその役割、ウチに回ってくるじゃん! たまにはジンヤにもやらせてよ!」


「ごめんなさい、僕って兄さん以外の人間に興味ないんです」


「知ってるわボケぇ!」


 荒ぶるアユムには悪いけど、この基本性能《スペック》だけは優秀な不具合品《ポンコツ》は誰かが運用しないと真価を発揮してくれないのだから、仕方がない。


「でもって荒事なら、エルが優先だ。何よりハルは貴重な治癒士《ヒーラー》なんだから、敵の渦中に放り込めるかよ」


「んもー! そりゃそうかもだけどぉーっ! ぶー!」


「ブーブー!」


 アユムを背後から抱きしめて、一緒に不満を表明するハルカには悪いけど、これも譲れない決定だ。


(ユウヤたちが負傷している可能性を考えると、ゾッとしねぇけど……)

 

 万一の場合。


 責任は、俺が負えばいいだけのこと。


 今はまだ組織を預かる者として、貴重な人材を危険に晒すわけにはいかない。


「……」


 あと、黙々と柔軟をしているガエル。


 いい加減にコイツのガス抜きもしなきゃヤバい。


 幼い頃からの刷り込みで今はまだ従順な姿勢を見せているが……魂に刻まれた『前回のトラウマ』が、その本質が決して俺程度には御せないことを、嫌というほど理解している。


 猛獣の管理には、適度な興味《エサ》と闘争《運動》を与える必要があった。


「とにかくお前らはクズと協力して、近隣《シマ》を警戒! あと情報を流してくれ!」


「わかったけど、おにぃ! ちゃんとウチらにも後で、ごほーびちょうだいよねっ!」


「デートだデートっ! にぃにっと、でーぇとぉっ♡」


 身勝手な予定を叫ぶ馬鹿どもを無視して……


「……」


 キラキラ、と。


 今度こそ期待に目を輝かせる、ジンヤに告げる。


「……じゃ、頼む」


「任せてください、兄さん!」


 だって俺が走るより、ジンヤに運んでもらったほうが早いんだもん。


   ↔︎


 ジンヤの背中でケータイを開き、クズノハからの情報をアユム経由で受け取りつつ、俺たちは夜の街を飛び越えていく。


 辿り着いたのは、町外れの廃れたボウリング場。


 かつては栄えていたのだろうが、区画整備の影響を受けて、周辺の灯りは途絶えている。


 不良どもにとっては絶好の溜まり場だ。


『——エル、先に行ってろ。ヤバいときはしゃーないけど、俺が合図するまでは、我慢してろよ』


『……ん、わかった』


 輪郭系の魔法技能は、自身の肉体だけでなく、体表を覆う魔力にも影響を及ぼすことができる。


 個人と外部を隔てる魔力的な境界線である『魔力皮膜』を変質させて、光の屈折率を変化。


 外部から視認できなくなったうえに、気配を絶ったガエルの隠密を察知することは、一流の冒険者でも難しいだろう。


 姿を消せない俺たちは、慎重にボウリング場へと侵入。


 見張り役を回避しつつ、人質が閉じ込められていた広場に辿り着くと、ちょうどユウヤが漢気を魅せている場面だった。


 あとの顛末は、語るまでもない。


(……)


 並列思考《マルチタスク》で情報整理していた思考を、現在へと合流させる。


「「「 …… 」」」


 無言で佇む俺の前には、行儀よく並んで正座する、上級生たちの姿があった。


〈作者の呟き〉


 蛇足ですが、簡単に補足説明を。


 精神系……シュウ、ユウヤ。幻覚や催眠、感覚共有や記憶干渉などの魔力技能。


 境界系……ジンヤ。結界や封印、空間の区分などの魔力技能。


 現象系……アユム。火、水、風、氷といった、魔力を自然現象へ置換する魔力技能。


 輪郭系……ガエル。肉体定義や変身、魔力被膜の変質といった魔力技能。


 生体系……ハルカ。他者の肉体強化《バフ》や抗力強化《ディスペル》などに優れ、肉体欠損すら修復する治癒魔術を習得した冒険者は、界隈において争奪戦が起きるほどに貴重とされる魔力技能。


 以上の雰囲気が、なんとなくでも伝わっていれば幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。