【18】悪党
(※)今回は不快な表現があるので、苦手な方は本文をスキップして、文末の〈作者の呟き〉を確認してください。
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〈ユウヤ視点(三人称)〉
「……めろっ、触んなッ!」
少女の悲鳴に頭の芯を揺さぶられて、徐々に意識が覚醒していく……
(……こ、こは?)
思考がぼやけている。
身体も痛い……というか、動かない。
やけに肌寒いと思ったら、どうやら下着を残して衣服を剥ぎ取られているらしい。
さらに荒縄のようなもので、上半身を拘束。
冷たい床の上に投げ出されていた。
(なんで……僕……?)
意識が定まらない。
ズキズキと、頭が痺れる。
「——クソ野朗どもが! テメエらぜってぇぶっ殺してやるから、覚悟しろよッ!」
「啊々《あぁ》ッ! ダメよお嬢さん、汚い口の利き方、品がないネ!」
しかし聞き覚えのある少女の怒声が、ユウヤの意識を奈落の底から引き上げた。
(——アキラさんっ!)
咄嗟に叫ぼうとしたが、目隠しをされ、猿轡を咬まされたユウヤはもがくことしかできない。
「……あ、チャンさん! コイツ、気づいたみたいですよ!」
「哦、お寝坊サン、やとお目覚めカ。よろしい、とりあえずそれ、取ってあげるネ」
強引に、身体を引っ立てられて。
視覚と口元を、解放される。
(ここは……どこ!? 広いけど、暗いっ!)
メガネがない状態で、視野がぼやけていた。
魔力技能を用いて、一時的に視力を強化しようとするが……
(……魔力が、練れないっ!?)
正確には魔力を『練りにくい』という違和感。
それでも強引に、半端な強化魔法を発動。
必死に周囲を見渡してみる。
(体育館……いや、ボウリング場の廃墟!?)
周囲はひんやりと薄暗い。
光源は持ち込まれた投光器のみ。
天井の照明は絶えており、立ち込める空気には、生臭いカビの匂いが混じっている。
薄暗い闇のそこかしこに、こちらを見つめる人の気配があった。
「ユウヤ、大丈夫っ!?」
状況確認に追われていた意識を惹いたのは、己の身を案じる少女の声だ。
「——ッ!? あ、アキラさん!?」
「よかった……無事でっ!」
安堵の表情を浮かべるアキラだが、ユウヤはそれどころではない。
「おま……えら! アキラさんに、何してんだよッ!」
身包み剥がされたユウヤと同様に、アキラもまた、上下の下着に靴下のみといった状態。
しかも彼女はその華奢な身体を、大柄な白人男性たちに取り押さえられていた。
「ナニて……ただの、ボディーチェックだヨ」
正面には痩せぎすの男が佇んでいる。
発音の訛り具合からしておそらく、生粋の日本人ではない。
一見すると穏やかな笑みを浮かべているように見えるが、切れ上がった目元には、爬虫類の冷酷さが宿っていた。
その手が、無遠慮に。
アキラの柔肌へと伸びている。
「オンナ、どこにナニ隠しているか、わからない。ちゃんと調べないと、怖い怖いヨ」
「ざっけんな! とっととアタシらを、解放しやがれッ!」
「好好、もちろん、ヤルことやたら、用無し。すぐ解放してあげるネ」
憤慨するアキラとは対照的に、余裕を崩さない糸目の男……チャン。
「あ、あのぉ……」
二人の会話に割り込んだのは、ユウヤとそう変わらない年齢の少女だった。
その背後には10名ほどの少年少女たちが、所在なさげに身を縮めている。
彼らには見覚えがあった。
(あれは……第一ボランティア部の、先輩たち!)
シュウの立ち上げた『第二ボランティア部』以外にも、第三中学には『第一ボランティア部』が存在している。
第一に所属しているのは、学校で不良と呼ばれる生徒たちだ。
部活の掛け持ちが許されている反面、部活への所属が義務付けられている第三中学において、第一ボランティア部は彼らの溜まり場と化していた。
とはいえ……シュウたちという『本物』が入学してきたうえに、第二を立ち上げてしまったことで、客観的には『相手にされていない』先輩たちの鬱憤が溜まっているという噂は、ユウヤも耳にしている。
(でもその腹いせに、こんな真似を……っ!?)
だが少年たちの顔色も、優れてはいない。
身体は強張り、端的に言えば……怯えていた。
(ど、どういうこと!? あの人たちは、先輩たちの仲間なんじゃないの!?)
困惑するユウヤの耳に、少女の悲鳴じみた声が流れ込む。
「ちゃ、チャンさん! もう私は、十分ですから! トウジョウさんを解放してくれませんか!?」
「馬ッ鹿野朗、ユリカ! テメーまだ、そんなヌルいこと言ってんのかよ!?」
震える少女……ユリカの嘆願を。
囚われたアキラ自身が、吐き捨てるように否定した。
「啊哈哈哈ッ! 確かにナカナカ、面白いこと言う子ネ!」
事実、チャンはユリカを嘲笑う。
「テメエ! ガキ相手にこんな汚ねぇ真似、恥ずかしくないのかよ!?」
「ン、全然?」
「ゲス野郎が!」
「哦、不ッ! 女性がそんな口の利き方、良く無いネ! ちょっと黙るヨロシ!」
「んっ……ぐぅっ!?」
チャンの指示で、アキラの口に猿轡がかまされた。
「……ッ、センパイ! もう、やめましょうよぉ! こんなの、シャレにならないですって!」
ユリカもチャンとは会話が成立しないことを察して、背後を振り返り、今度は知り合いらしい上級生に泣きついている。
「い、いや、俺だって、こんなこと……」
涙目の少年は、首を横に振るばかりだ。
「でも、センパイが『俺に任せとけ』って、言ってくれたんじゃないですかぁ! だからわたし、トウジョウさんを呼び出したのに……っ!」
「そ、それを言うならそもそもおまえがさぁ! 気に入らない同級生が部活にいるとか、シメたいとか、言い出すからだろっ!? 俺はただその話を、ミツルさんに相談しただけで——」
「——まあまあ、落ち着きんしゃいや、二人とも」
口論する少女と少年を、諌めたのは。
彼らより数歳年上の、青年である。
「どーせお前らも、卒業したら高校には行かずに『こっち』側に来るんだろ? だったら社会勉強は、早いほうがいいっしょ? ほら、今流行りのアレだ……ユーターン的な、ノリで!」
「たぶんそれ、インターンネ」
「あ、サーセン! ジブン、バカなんで!」
「知ってるヨ」
ミツル、と呼ばれた青年は。
どうやらチャンと、知り合いらしい。
ただし学校の不良レベルに収まっている先輩たちとは異なり、耳や鼻に大きなピアスを開けており、首筋から顔面にかけてのタトゥーを刻んでいる。
腰元に片手剣を帯刀した、本物のアウトロー。
会話から察するにどうやらこの二人が、誘拐の主犯格であるようだった。
「み、ミツルさん、どういうことっすか!? ジブンらただ、生意気な一年をシメるから、手を貸してくれるって聞いてただけで——」
「——そうよ? だからこうして、わざわざ拉致ってきたんじゃん?」
食ってかかる少年と、青年の温度差。
それは捕食者に飲み込まれまいとする非捕食者の、虚しい抵抗であった。
「でもガキの使いならいざ知らず、大人を動かすんなら、それなりの『対価』っつーもんが社会では必要なのよねん」
「か、金なら、払いますから!」
「不好! 未成年からお金をとる、良くないネ!」
必死の形相を浮かべる少年たちの姿に、チャンは粘ついた笑みを深める。
「だからヤサしいワタシたち、現物支給で、手を打つヨ」
「げ、現物、支給……?」
「大丈夫大丈夫、表には流出させずに、安心安全の裏ルートで、売り捌くからさ♡」
ミツルが手にする小型カメラの存在で、不良少年たちもようやく、事態の深刻さに気づいたらしい。
「ちょっ……ヤバいですって、それは!」
「ガチの犯罪じゃないっすか!」
「無理っ! 無理ですって、そんなの!」
「ん? だったらキミたちも『受け』側に、回っちゃう感じかな〜?」
不良少年たちの割合は、ユリカを含めた女子が四人で、男子が七人。
大男に拘束されたアキラや、身震いする少女たちを睨め回していたミツルの視線が、少年たちにも注がれる。
「女優の頭数は十分揃っているけど……まっ、アジアの男子は『そっち系』の需要もあるから、オイラたちは全然ウェルカムだぜぃ? な、ボブ!?」
「イェヤァァァ! ジューシーなガールズも、ピチピチのボーイズも、ジャパンのフェイバリットフードでーす!」
ミツルの問いかけに答えたのは、筋肉隆々の黒人男性。
手には剥ぎ取られたアキラの私服が握られており、先程までそれに顔を埋めていた大男は、身体の一部を露骨に隆起させていた。
「ひっ!」
「無理無理、絶対に無理!」
「あんなの……壊れちゃうっ!」
「ははは、そんなビビんなって! 何事もケーケンだよ、ケーケン! 今なら気持ちよくなるおクスリも、特別にサービスしてあげちゃうよ〜? ヒュー、おっ得ぅ〜っ!」
「いやぁあああ……おうち、帰してぇぇぇ……っ!」
とうとう泣きじゃくり、少女たちはその場にへたり込んでしまう。
慌てたのは、仲間の少年たちだ。
「そ、そんなぁ!」
「無茶苦茶っすよ、ミツルさん!」
「初めて出来たカノジョなんです、カンベンしてください!」
「いやいやお前ら、青臭いこと言わずにサクッと割り切れよ。世の中なんて所詮、食うか食われるかなんだ。食われたくなきゃ、迷わずパクッと食いついとくのが、賢い大人の生き方なんだぜ〜ぇ?」
「ふっ、ふざけんなぁああああっ!」
ついに耐えきれなくなった不良少年が、怒声を撒き散らして青年へと殴りかかった。
「——げふぅ!?」
「はっ、馬鹿が! 学校でチョーシこいてるだけのクソガキが、実戦経験者に適うわけねぇべや!」
しかしミツルからカウンターを撃ち込まれて、あえなくその場に沈んでしまう。
「ハーイ! 手癖の悪いボーイには、お仕置きタイムでーすっ!」
すかさず黒人が、追撃を加えた。
「ゲフッ!? ちょ、やめっ、やめてくださいっ! ごめんなさいっ!」
「アハハ! ナニ言ってるか、ワっカリマセーン!」
ボウリング場内にはチャンやミツル、アキラを拘束している白人や大柄な黒人の他にも、十人近い男たちが見受けられた。
そのうち数人が黒人に合流して、抵抗した少年を集団で制裁する。
「いだいいだいっ! だ、だれが……たすけてっ! ごろざれるっ!」
「「「 ……っ! 」」」
見せしめだと、わかっていても。
少年の仲間たちは、誰も動けない。
逃げ出そうにもボウリング場の出入り口は男たちが塞いでいるので、退路はなかった。
悪意が。
暴力が。
絶望が。
暗く閉ざされた空間を、支配していた。
「……めろっ」
そこに、小さな声が響く。
「や、めろよ……っ!」
声は、震えていた。
だけど確かに、放たれていた。
確固たる意思のもと、己の正義を貫こうとしていた。
「やめろよ……この、クソ野郎ども! お前らそれでも、大人かよ!?」
叱責の声は、下着姿で上半身を荒縄で縛られた、小柄な少年から放たれている。
〈作者の呟き〉
ユウヤたちを誘拐したのは、学校でシュウたちの活躍を妬んでいた上級生たちと、そんな彼らを利用する悪い大人たちでしたとさ。




