【15】集会②
〈ユウヤ視点(三人称)〉
『——ユウヤ。お前って今週末とか、空いてる?』
数日前の部活中。
シュウから誘いを受けたユウヤは。
週末の土曜日に、とある神社を訪れていた。
ユウヤたちの通う第三中学の週末は、隔週で半日授業と休日が繰り返されるため、休日となる土曜日であれば、多少の遠出をしても問題はない。
部活動ということで。
学生寮に、外出申請を届け出たあと。
私服のシュウたちと合流して向かったのは、小さな山の中腹に存在する、古めかしい『深尾神社』である。
ユウヤはそこに到着するなり、老齢の宮司から用意された神職者の普段着である狩衣へと着替えて、顔を面布で覆った状態で、茣蓙の上に正座していた。
物理的に、視覚を閉ざされることで。
精神的に研ぎ澄まされた脳裏には、複数の映像が多面情報として、映し出されている。
(集中、集中……)
深尾神社の境内ではそれぞれジンヤ、ガエル、アユムによる指導のもと、叛星會の少年少女たちが、各々の適性に沿った魔力鍛錬を行っていた。
そうした彼らの周囲には、魔力適合者であれば視認できる『半透明な狐面を被った童子たち』の姿が見受けられる。
ユウヤの脳裏に流れ込むのは、それら『狐童子』の視点であるのだが……ズザザザッ!
(……くっ、ダメだ!)
外部からの刺激によって、精神系の魔力技能を行使していたユウヤの思考に、ノイズが走った。
(これだけ、有利な条件での感応共鳴なんだ……もっと、集中しないと!)
現在、深尾神社の境内は、ジンヤによる強力な魔力障壁によって外界と区切られているうえ、叛星會の特訓で魔素濃度が上昇しているため、一種の擬似異界と化している。
つまり爆音や衝撃が外界には届かず、魔力技能が使い易いという、魔力鍛錬をするにあたってはこのうえない好条件に仕上がっているのだ。
この条件下で、運用できない魔力技能など。
実践での使用には、耐え得るものではない。
ユウヤは再び意識を沈めて、魔力を集中。
外界では不可能な思考加速と並列思考の同時使用によって、感応共鳴という、ワンランク上の魔力技能の習熟に挑む。
同時に、ふと考えた。
(シュウって……一体どこまで、見据えているんだろ?)
たとえ魔力技能者としての類稀なる素養があったとしても、12歳という年齢は、世間的には『子ども』と認識されている。
事実ユウヤとて世間の平均値よりは秀でている自覚はあるものの、肉体や経験、知見や人脈といった人間としての『武器』は足りていない。
それは仕方のないことだ。
なにせ『子ども』なのだから。
しかし……カナタ・シュウという少年に限っては、そうした世間の常識はとことん通用しなかった。
(ゼロから叛星會っていう組織を作り上げて、まとめているだけでも十分凄いのに……まさか妖狐様とまで、繋がりを持っているだなんて)
天使。
悪魔。
妖怪。
精霊。
各々の文化で。
様々な呼称はあれど。
魔素濃度の低かった大異界蝕以前から、そうした物理文明では観測しきれない『何か』の存在は、世界中で信仰されていた。
そして地上の魔素濃度が上昇したことで、魔素力学が発展した現代においては、そうした『古き伝承の存在』が『魔力生物』として実在することが、公に証明されている。
「クケケケケ」
妖狐、と呼ばれる。
長き時を生きた、魔力生物が。
上位存在までには及ばずとも、人間よりよほど高位の存在であることに疑いはない。
そして各々の自我や趣向、歴史や背景を有するそれらとの繋がりは、物理社会から魔力社会へと切り替わろうとする現代において、殊更に重要視されているものであった。
「はぁぁぁ……極楽極楽♡ やっぱり『天然もの』は、心地がえぇのぉ〜っ♡」
「んもうクズちゃん、あんまり動いたらダぁ〜メぇ〜。くすぐったいよぉ〜っ!」
クズノハ、と。
シュウから紹介された妖狐は。
本人の証言によれば、齢1000年にも及ぶ大妖狐らしい。
正確には本体ではなく、分魂した『分身』のひとつらしいのだが、強大な魔力を蓄えた魔力生物であることに変わりはない。
しかしユウヤは、この土着神社がかの妖狐と繋がりがあることなど、知りもしなかった。
おそらく地元民だって、気づいていなかっただろう。
あるいは気づいていたとしても、科学文明の発展によって一度『信仰』という『縁』が途絶えてしまった土地に、再び大妖との繋がりを見出すことを、諦めていたのかもしれない。
それを……シュウは、見事に果たしたのだ。
最初はボランティアという名目で、宮司からの信用と、正式な神社への立ち入り許可を得た。
清掃活動を行い、境内を清めた。
祭りになどにも積極的に協力して、地元民から『関心』という名の『信心』を集めた。
さらにこの場で定期的な魔力鍛錬を行うことで、土地の魔素濃度を上昇させて、魔力生物が受肉しやすい環境を整えた。
何よりも……
「クケケケケッ、何を申すか、我が信徒よ! うぬとわっちの、仲ではないか♡ 良いではないか、良いではないか〜っ♡」
どうやら、この妖狐様。
大変に好色の気が、あるらしい。
しかも美少女や美少年が大好物だというのが、シュウの弁だ。
妖狐の好みに適した供物を用意して、見事に関心を射抜いた采配には、もはや感心しかない。
「ひ〜ん、クズちゃんの手つきが、いやらしいよぉ〜っ!」
「クケケケケッ! ん、感じとるんか? ここがええんか? んんっ?」
「や、らめぇぇぇ〜っ!」
またしても、豊満な体つきの美少女……ハルカから溢れた艶かしい声が、至近距離から耳朶に流れ込んできた。
「……っ!」
集中力を乱されて、ゴクリと生唾を呑む。
「これ」
むにっ、と。
茣蓙の上で正座をしていたユウヤの股間に、妙な柔らかさが当たった。
ハルカに抱きついたままのクズノハが、器用に伸ばした足先で、軽く揉みしだいてきているのだ。
(ふぁっ!?)
瞬間、ユウヤの背筋に未知の電流が走る。
感応共有も……ブツンッ!
途切れてしまった。
「クケケケっ! 青臭いボウヤにちと刺激が強いかもしれんが、これも修練じゃ、もちっと集中せんかいっ♡」
むにむに、と。
痛くはなく、むしろ心地よさを感じる甘い刺激。
「あっ……くぅ……っ!」
ユウヤは面布に隠された表情を歪ませながら、必死に耐えた。
なんだか身体の奥がムズムズする。
(いや……ダメだっ、わざわざシュウに、ここで練習しろって言われたんだから……この程度の妨害、耐えないと!)
ギリギリ、と。
歯を食いしばって、堪えるほどに。
ニヤニヤと、クズノハの笑みが深まっていく。
「ほれほれっ♡ ん? どうしたどうした、何をそんなに震えておるのぢゃっ♡ よもやわっちのちっこい御御足で、果ててしまうのではないか——ほんぎぃいいいっ!?」
「んもう、ダメでしょ! クズちゃん、めっ!」
悲痛な悲鳴は、妖狐の口から溢れている。
「ユーヤくんをからかわないのっ!」
ぷんぷん、と。
形の良い眉根を寄せて。
口先を尖らせるハルカの両手には。
フサフサの狐尾が一本ずつ、握られていた。
「な、なんぢゃあハルカよ!? 如何にわっちの可愛い信徒であっても、不敬であるぞ!」
「いーもぉーんっ! 悪いクズちゃんなんて、にぃにに叱ってもらうんだから!」
「フン、馬鹿なことを! たとえシュウであろうとも、わっちの機嫌を損ねるとどうなるか——」
「じゃあ今日の油揚げは、なしね!」
「——それはイヤじゃぁあああああっ!」
途端に威厳ある妖狐は、駄々をこねる童女へと転じた。
再びハルカの身体に抱きついて、ふくよかな双山に顔を埋めながら、イヤイヤと首を左右に振っている。
「た、頼む、後生ぢゃあっ! 老い先短いこのババアの、数少ない楽しみを、奪いわんとってたもれぇ〜っ!」
「じゃあちゃんと、ユーヤくんにごめんなさいして! あとおっぱいも揉まないでぇ!」
「済まなんだぁ、新しき信徒よ! ちょいとした戯れなんじゃあ、許してたもれぇっ!」
いつの間にか信徒扱いされていた。
「あ、はい……僕は、大丈夫、です!」
「ほれっ! この者も、斯様に申しておるではないか!」
「いや、それならいいんだけど……んっ♡ だからぁっ♡ おっぱいを、揉まないでよぉっ!」
「それは無理ぢゃて」
むにむに、と。
ハルカの柔肌に指先を埋めるクズノハの顔には、一点の曇りもない。
「人は山を見れば、登らずにはいられぬと言うではないか? ゆえにこれほど見事な乳房を揉まぬほうが、むしろ失礼というものよ!」
「なに言ってるのぉ!?」
「こんな美味そうな果実をぶら下げておる、うぬが悪い。観念して、わっちに喰われよ!」
「ひーんっ! ら、らめぇえええっ! あーし、ハジメテは、にぃにって決めて……うにゅっ!?」
パンッ、と。
後頭部を叩くことで、ハルカを黙らせて。
「んぐっ!?」
むんずっと首根っこを掴むことで、クズノハを宙吊りにした少年……シュウ。
「……お前ら、なにやってんだよ」
拝殿裏の本殿で會員たちに魔素力学の講義を行なっていたはずの少年は、わざわざ様子を見にきてくれたのだろうが、その顔には冷ややかな呆れの色が浮かんでいた。
〈作者の呟き〉
叡智なロリババアが、大好きなんです!




