【14】集会①
〈ユウヤ視点(三人称)〉
「そこ、魔力が乱れています。もっと均一にしてください」
「はっ、はいっ!」
淡々とした、美しくも無機質な声音に晒されて、幼い少女の身体が縮こまる。
「境界系の魔力技能は、他の系統よりも、魔力操作が肝要です。出力は当然として、展開している魔力障壁の強度には常に気を配らないと、知性のあるモンスターなどは弱点を抜いてきますよ」
「はいっ!」
「とくにパーティーの防壁役を担うつもりなら、自分こそが、大事な仲間たちの命を預かっていることを、どんな状況でも忘れないでください。キミがしくじればパーティーが崩壊します」
「わかりました!」
言葉を交わしている間も。
顔色ひとつ、変えることなく。
幼い少女に対して、的確な魔力技能の指導を行う白髪の美男子……ジンヤ。
「ありがとうございます、ジンヤさん!」
「僕に感謝は不要です」
「……っ!」
冷たく突き放すような言葉に、少女の顔が悲しく歪む。
「……はぁ」
小さなため息をひとつ、吐き出して。
ジンヤの瞳が、再び少女へと注がれた。
「……まあ、どうしてもというのなら、その気持ちは僕ではなく兄さんへ、還元してください」
「も、もちろんです! はやく一人前になって、カイチョーの役に立ちます!」
「ええ、その意気ですよ! 僕と一緒に、兄さんの礎となりましょう!」
今度は心からの笑顔だった。
春の雪解けのような、ジンヤの眩しさに照らされて、少女の頬が赤く染まる。
他方。
「ノンノーン! そんなんじゃ全然、ダメダーメっ!」
「気合いだよ、気合い! 腹の底に、気合を込めるんだよ!」
「う、うっす!」
ジンヤから少し離れた場所でも、金髪と銀髪の少年たちが、自分よりも幼い少年に魔力指導を行なっていた。
「オラッ! そんなんじゃ、犬っころ一匹だって、足止めできねえぞ!」
「オラオラオラ、根性見せろやッ! お前も會の星入り、目指してんだろうが!」
「は、はい!」
少年たちの言葉遣いは荒々しい。
しかし厳しさの中に、相手を思いやる『情』が感じ取れた。
「うぉおおおおおっ!」
だからこそ、指導を受ける側の少年も。
顔を真っ赤にして、スパルタ指導に。
応えようとしているのだろう。
ユウヤの『視る』光景には、確かに育まれた會員たちの『絆』が、眩く映し出されていた。
(……凄いなぁ、みんな)
中学で、シュウと知り合って。
彼が作り上げた、叛星會に関わって。
中核を成す幼馴染や、星候補に揉まれて。
もはや数えきれないほどに思い浮かべた感嘆符が、またしても、心を埋め尽くしている。
(僕とそんなに、年齢は変わらないはずなのに……こんなにも一生懸命、何かに情熱を注げるだなんて)
場所は、神社の境内だ。
シュウや幼馴染たちの家である児童施設から、さほども離れていない、地元の住人しか知らないような山裾の神社である。
駅前や商店街からは、離れており。
交通の便も、良くはない。
住人に愛されていないわけではないが、さして重要視もされていない。
そんな地域の土着神社は、平時であれば閑散としてるのだろうが……
「ぐぬぬぬぬっ!」
「いいぞいいぞ、その調子!」
「丹田に気合入れて、漢を魅せろッ!」
年季を感じさせる、色褪せた鳥居から。
小屋ほどもある、木造建築の拝殿まで。
真っ直ぐ伸びる参道を、避けるようにして。
境内は少年少女たちの活気で、賑わっていた。
その一角を占めるのが叛星會の星であるジンヤや、星候補の金髪と銀髪の少年たちであり、彼らから指導を受けるかたちで、幼い少年少女たちが魔力技能の習熟に励んでいた。
また、参道を挟んだ反対側からは……
ドゥンッ! ドゥンッ! ドゥンッ!
ズンッ! ズンッ! ズンッ!
腹の底に、響くような。
重低音が鳴り響く。
持ち運び型の大音量スピーカーから溢れる音楽に合わせて、地面に敷いた保護マットの上でキレのあるダンスを披露するのは、黄金の三つ編みを宙に躍らせる少年……ガエルだった。
「……っ!」
一見すると、洗練された日本舞踊。
あるいは激しい路上ダンスにも見える。
しかし魔力技能者としての視点であれば、その動きが、肉体と魔力をシンクロさせるための高度な演舞であると理解できた。
疾く。
鋭く。
ときに緩急を、織り交ぜて。
全身を用いた魔力鍛錬を行うガエルの周囲には、同様の訓練に挑む、少年少女たちの姿が見受けられる。
「……そこ、遅い」
「は、はい! すいませんっ!」
演舞の最中。
ガエルから指摘を受けて、焦る少年に。
「イエァーッ! ダンスはリズムね!」
大胆なブレイクダンスに興じる大柄な黒人少年が、気持ちの良い笑みを浮かべながら、アドバイスを飛ばす。
「ビートを、シンキングより先に、ハートで感じるんだヨォ!」
「うっす!」
「……反射以下の、思考、邪魔だから」
「が、がんばります!」
肉体と魔力の制御に加えて、思考を反射の領域にまで高める訓練は、たとえ成人した魔力技能者であっても困難な内容だろう。
「……っ!」
しかし少年少女たちの顔に、苦痛はない。
ただ、前に進むための気概と。
仲間と没入できる環境への。
喜びがあった。
そして……
「うりゃー!」
「こなくそー!」
魔力障壁による結界や封印、空間の遮断といった、境界系の魔力技能を指導するジンヤや。
魔力の性質を変化させることで、肉体の強化や形状を変質させる、輪郭系の魔力技能を指導するガエルから。
やや、距離を置いて。
「えー、それで全力なのー? ウチはまだ、全然ホンキ出してないんだけどー?」
魔力を火や水、風や雷といったエネルギーへと置き換える、現象系の魔力技能を行使する小柄な少女……アユムが。
可愛らしい顔の口元から、ニヤニヤ。
特徴的な八重歯を覗かせていた。
「はぁ♡ ザぁ〜コ♡ ザコ過ぎっ♡ 二人がかりでその程度じゃ、星入りはまだまだだね〜っ♡」
獲物を痛ぶる、悪戯猫のような。
嗜虐の笑みに煽られて。
「こんにゃろーっ!」
「舐ッめんなぁーっ!」
気炎を吐くのは、頭頂部で髪を結った盛り髪の少女と、明るく脱色した巻き髪の少女だ。
二人ともユウヤと同じ中学校に通う、星候補たちである。
「いくよ、タイミング合わせてっ!」
「オッケーっ!」
少女たちが直径30センチほどの小さな杖型魔道具を、手元に構えると……
ギュルルルッ!
ビキビキッ!
頭上に渦巻いて火の粉を散らす炎槍と、空気を凍てつかせる氷槍が生成された。
「「 いっけーっ! 」」
指揮棒のように、小型の魔杖が振り下ろされる。
少女たちの頭上から撃ち出された、赤と青の槍の射線上には、地上から3メートルほどの位置に滞空するバルーンがあった。
目標の直下には、自身の身の丈を超えるほどの魔杖を構えたアユムの姿がある。
「はい、ザぁ〜コっ、乙っ♡」
ブワッ……と
地毛に4色が混じったカラフルなツインテールが、小柄な少女の内側から噴き出る膨大な魔力によって舞い上がった。
瞬きの間に具現化されたのは、視認できるほどに圧縮された黄金の魔力。
掲げられた大型の魔杖から宙に放たれた、光る巨人の手のひらが、バルーンへと飛来する炎槍と氷槍を同時に掴み取った。
「げっ!?」
「マっ!?」
現象化すら、されていない。
ただの圧縮魔力と操作のみで渾身の魔力技能を阻まれた盛り髪の少女と、巻き髪の少女が、揃って目を剥いている。
「——ヌルいんだよ、テメーらッ!」
バキンッ、と。
黄金の手のひらが、両手の槍を握り潰した。
「テメエらそんなだと、叛星會がナメられんだろうがッ!」
ビリビリ、と。
子猫のように愛らしい少女から、狼のような激しい咆哮が溢れ出る。
「ンなザマで、テメーら、おにぃのツラに泥塗る気か!? おにぃは優しいから、テメーらみてぇな足手纏いを抱えてもナンも言わねぇけどよぉ!? それに甘えて縋るだけのクソどもは、ウチらが許さねぇッ! 腑抜けは會から叩き出してやるッ!」
聞くところによると、こうして隔週で開催される叛星會の『集会』を心待ちにして、魔力技能の指導を受けている會員たちは、それぞれの事情から、居場所を失い、荒れて、彷徨っていた少年少女たちなのだという。
だからこそ、彼らの叛星會《居場所》に対する想いは強い。
「ま、まだやれるしっ!」
「そうだよ! あたしらだってちゃんと、會の役に立てるし!」
「だったら口先だけじゃなくて、行動で証明してみろよなッ!」
指導というには、厳し過ぎる発破。
「……ぼ、ぼくも、やれます!」
「わたしもっ!」
少女という熱に煽られて、たったいま魔力技能をねじ伏せられたばかりの盛り髪の少女や巻き髪の少女だけでなく、周囲で待機していた少年少女たちまでもが、次々と声を上げていた。
「よぉぉぉしそれでこそ、會員だ! 全員まとめて、かかってこいや!」
再び魔力技能者たちによる、激しい模擬戦闘が始まる。
「ケッケッケ。良き哉、良き哉」
そうした境内の光景を。
拝殿の手前。
下陣に敷かれた、茣蓙の上で。
ユウヤは、とても同年代とは思えないほど発育の良い少女……ハルカと並んで、眺めている。
「いつ見ても、何度見ても、人間たちの輝く魂は、実に愛いものよのぉっ♡」
幼いような。
老成したような。
深みを感じさせる童女じみた声は、ハルカの膝元から響いていた。
「んも〜、クズちゃんったらぁ。そういう言い方してると、おばーちゃんみたいだよ〜?」
「クケケッ、実際、1000歳近いわっちなんぞ、おぬしらから見たらババアに相違ないぢゃろうが」
自身を『ババア』と呼称する、10歳程度にしか見えない童女の頭部と臀部には……黄金の狐耳と、二本の尻尾が生えていた。
〈作者の呟き〉
ロリババア、好きなんです。
そして本日は朝、昼、夕の三回更新となりますので、よろしくお願いします。




