【13】部活②
〈シュウ視点〉
(さてさて、今度は上手く、やってんのかねぇ)
願わくば今度こそ、わざと部室に置いてきた三人が楽しく談笑していることを祈りつつ……ガチャリ。
扉を開く。
「兄さん! おかえりなさい!」
「おにぃ、おっかえりぃ〜っ♡」
「お、お疲れ様……」
競うように迎えてくれたジンヤとアユムから遅れて、パソコンに向かっていたユウヤが、ぎこちなく頭を下げてきた。
(うーん。やっぱりまだ、馴染めてねぇか)
良くも悪くも、幼馴染らは仲間意識が非常に強い。
今までのやつらとは毛色の違う新参者が馴染めていないことは把握しているので、さりげなく交流の機会を設けてみたりしているのだが……すまない、今回も不発だったようだ。
(かといって俺があんまりしゃしゃり出るのも、良くないしなぁ)
できるだけユウヤには、自分の力で居場所を作ってもらいたい。
すぐには上手くいかなくても、才能が開花し始めれば周りの奴らだって見る目が変わってくるのは間違いないのだから、なんとかここは踏ん張ってもらいたいところだ。
ともあれ。
「おーう、みんなも作業は順調かー?」
「うん、バッチリ!」
「データを送信しておくので、確認をお願いします」
「あ、ズルいズルい! ウチも送っておくから、ちゃんと確認しといてよね!」
「その前に、僕の仕事の評価を——」
「——え? ちょっとちょっと、二人ともぉ〜っ!?」
淡々と進む作業確認に耐えきれず、俺の背後から飛び出してきたのは、発育過剰な身体で制服を膨らませた少女……ハルカである。
「アユねぇに、ジンくんも! あーしらに『おかえり』とか『お疲れさま』はないの〜っ!?」
「は? あるわけないじゃん。っていうかおにぃと外出しといて疲れるとか、ありえないし!」
「ええ、もしそれが事実なら精神の不調を疑いますね」
「俺はそんなことを真顔で言えるお前の正気を、わりと本気で疑ってるぞ?」
「はい! ご心配ありがとうございます、兄さん! 精進します!」
俺からの関心はどんなものであれ喜ぶ変態は、すこぶる良い笑顔を浮かべており、嫌味がまったく効いていなかった。
「ふぇぇぇ〜っ! ふたりとも、ヒドいよぉ〜っ!」
他方、でっかい図体と反比例するかのように、メンタルがクソザコなハルカは涙目である。
「あ、あーしだってちゃんと、にぃにのごえーとか、がんばってるのにぃ〜っ!」
「だったらハルカさんが、代わりに事務仕事をしてくださいよ。そのぶん僕が兄さんを護衛しますので」
「ムリっ! あーし頭を使うと、痛くなっちゃうから、そういうのムーリーっ!」
「甘えんなっ! ハルだって會の星なんだから、パソコンの使い方くらいはいい加減に覚えろよな! ウチにばっかHPの更新をやらせるんじゃねーよ!」
「あーもー! うるさいうるさい! にぃに、ふたりがイジメてくる〜っ!」
中身がスカスカのオツムでも、二対一は分が悪いと察したのか、ハルカが抱きつこうとしてきたので……むんずっ!
「ひんっ!」
奇妙な鳴き声を漏らすピンク頭を掴んで。
「……アユ」
「な、なに、おにぃ!? ウチ間違ったこと、言ってないよね!?」
強気な抗議を口にするものの、俺が睨みつけた瞬間から身体を縮ませているアユムへと、でっかいガキを投げつける。
「ひーんっ!」
「ちょ、おにぃ!?」
「いいから、仲良くしとけ。俺の手を煩わせるんじゃねえよ」
「その通りです! 兄さんを困らせるなど、万死に値する所業です!」
「じゃあジンは俺のために、ちゃんと二人を仲裁しとけな」
「了解です! さあ、二人とも、兄さんのために、さっさと仲良くしてください!」
「……うっざ」
「……ジンくんってほんと、人の心がないよね〜」
これで狙い通り、アユムとハルカは仲直り。
協力して、ジンヤを非難する構図になった。
そしてジンヤは俺以外から何を言われても傷つくことがないらしいので、実質的に被害者はいなくなる。
我ながら見事なコラテラルダメージだ。
「……」
ちなみに、口論に参加していない最後の幼馴染……ガエルは、のそのそと無言で入室。
ソファに腰掛けると、部室に置きっぱなしにしている私物のバーベルを取り出して、黙々とウェイトリフティングを行なっている。
(あー……これ、けっこう溜まってんなぁ)
口には出さずとも、鬱憤が透けて見えた。
(どこかでストレス、発散させてやらねぇとなぁ)
思考の片隅に、メモしつつ。
騒がしい幼馴染たちの横を通り過ぎて……
「……ん?」
ふと、奥の机へと向かう途中で足を止める。
「そういやユウヤ、渡した本ってどこまで読めたんだ?」
ユウヤには今朝がた、中学生にはまだ難解だろうけど今後の成長性を期待して、組織運営に役立つ経営学の書籍を渡しておいたばかりだ。
「わかりにくいところがあれば説明するけど……」
「うん、『マネジメント』とっても面白かったよ!」
「……え? もう、全部読んだの?」
「そうだけど、何か変?」
いや、おかしいだろ。
だってあれ、要約版でも300ページ以上あったはずだぞ?
俺が今朝に本を渡して、放課後までに全部読んじゃうとか、普通にすごくね?
「……? どうかした?」
「いや、ユウヤってその、速読とか得意な感じだったけ?」
「別に得意じゃないけど、前にシュウから教えてもらった思考加速を使えば、似たようなことはできるよね?」
マジか。
コイツ、ちょっと前に俺が教えたばかりの魔力技能を、もう応用実践してやがる。
一周目の俺がそのレベルに至ったのって、何歳くらいだったっけ?
「……」
「……う、うん! わかってるよ、ホントならそれくらい、並行思考を使えば、もっと効率的にできたんだろうね! でもごめん、まだ僕はそこまで教えてもらった魔力技能を、使いこなせていないんだ」
「あ、いや……うん、まあ、それは仕方ないさ」
「いや、もっと頑張るから!」
いいえ、もう結構です……と。
本音では言ってやりたいところだけど。
こうした成長は、早いに越したことはない。
「……そうか。まあ、ボチボチ頑張れや」
かといって、あまり追い込みすぎてもよくはないので、無難な程度に褒めておく。
「……っ!」
でもなんでユウヤはそこで、悔しそうな顔をすんのかなぁ?
十分にバケモノじみた学習速度なのに、まだ納得してないの?
(さすが未来の金等級様は、向上心がパないねぇ)
そしてこれは幼馴染たちや、會員たちにも言えることだ。
そも、前回の俺とは比べものにならない速度で成長している彼らの心情を、所詮は凡人に毛が生えた程度の俺なんかが推し量ろうとするのが、烏滸がましいのかもしれない。
こうした認識の食い違いを起こしていれば、いずれ化けの皮が剥がれちまうんだろうけど……
(ま、その時はその時でしゃーないか)
むしろ身を退く、いいキッカケになるかもしれない。
「……っていうかなんだよ、パソコンでエクセル弄ってたのか?」
ともあれ、わからないことは一旦スルー。
雑に会話を繋ごうとして……
「……っ!」
またしても、目を見張る。
(なに!? もうコイツ、こんな複雑なソフトを組んでるの? マジで学習能力が高過ぎねぇ!?)
これもちょっと前に、今後に役立つと思ってかるく教えてみたものだ。
それを後から自分でも、勉強したのだろう。
凄まじい上達速度と、向上心に。
内心で舌を巻いてしまう。
「うん! 僕も早く、みんなの役に立ちたいからね! 時間があったから、息抜きにプログラミングの練習をさせてもらってたんだよ!」
しかも本人はそれを勉強とか、努力だとか、思っていないらしい。
笑顔が眩し過ぎる。
「ま、まあ本も、パソコンも、気に入ってもらえたんなら幸いだ……やっぱ人間は、興味がなきゃ上達しねーからな」
「そ、そうかな?」
「そうだよ」
これは確信を持って、断言できた。
「実際にあの本も、コイツらにも薦めてみたんだけど全然ダメだったよ」
「えー。だってなんか、見た目が可愛くないしー」
「ビジネス書に可愛さを求めるなよ」
幼馴染たちの中では比較的、オツムの回りそうなアユムでさえこの有様だ。
「兄さん! 僕は内容をほぼ、暗記していますよ!」
「暗記しても、実践できなきゃ意味ねーのよ」
ジンヤはジンヤで、記憶力はあっても応用力がまるでない。
「あははっ! 二人とも、怒られてるーっ!」
「ハルにはそもそも、期待してない」
「ふぎゃっ!?」
「きゃはは! ハル、ザっマぁ〜っ♡ ザコ乙〜っ♡」
「い、いいのぉ! あーしはみんなの、癒し枠だから!」
「珍獣枠の、間違いでは?」
「むき〜っ!」
頭脳労働にはとことん不向きなハルカに、アユムとジンヤが冷ややかな視線を向けていた。
「……」
ガエルなどは関心すら無いようで、部室の隅で黙々と筋トレを続けている。
「……とまあ、こんな感じでな」
だからこそ、ユウヤに賭ける期待は大きい。
(このまま順調にレベルアップして、なんとか俺の代わりに、叛星會の面倒を引き受けてもらわねぇと!)
そのために必要なのは、新たな経験値だ。
「そういや、ユウヤ」
「ん? 何?」
「お前って今週末とか、空いてる?」
〈作者の呟き〉
なかなか、物語が動かない……
作者の悪癖が……




