【11】説得
〈シュウ視点〉
そもそも、だ。
一周目という『発作』を抱える俺にとって、今の幼馴染との距離感は完全に誤算だ。
理想は付かず離れずで、有事や凶兆があった際には影から軌道修正する程度といった立ち位置なのに、現状ではそれが近過ぎる。
むしろ年々依存度が、高まってすらいた。
物理的にも。
精神的にも。
もはやこちらが引き剥がそうとしても剥がれてくれない、異常な粘着度になっている。
そのうえ来年には、一周目の人生における重要な『分岐点』が迫っていた。
(……うん。やっぱり今ここで身代わりは、何としても確保しときてぇなあ)
無事、この山場を乗り越えるために。
優秀な人材確保は勿論のこと。
人材の育成も欠かせない。
「……まぁ、この馬鹿どものことはいいんだよ。色々と諦めてるから」
そんな俺の抱える諸事情を、大っぴらに語る訳にはいかないため、当たり障りのない話題で場を濁す。
「むしろそういう意味じゃあ、俺はお前らのほうにこそ、期待してるんだぜ?」
とはいえこちらも、嘘ではない。
やはり一周目からの思い入れがある幼馴染たちへの思い入れは別格だが、二周目で出会った會員にだって、将来的にはちゃんと各々の幸せを掴んで欲しいと考えている。
「ワッツ!? リアリーッ!?」
「じゃあ、アタシらだって——」
「——だからこそ、だよ」
にわかに気色ばむ少年少女たちを、手で制した。
「だからこそお前らには、この重要な役目を任せたいんだ」
「「「 ……っ! 」」」
大きく見開かれた瞳には、期待と緊張が走っている。
「せっかく校則で部活の掛け持ちが認められてんだ。だったらそれを利用して他所から情報を集めたり、有能な人間をスカウトしなきゃ勿体ねぇってのは、わかるよな?」
というのは、建前で。
ぶっちゃけ、叛星會以外にも。
各々の居場所を、作って欲しいんだよね。
「ここにいるお前らは、俺の厳しい訓練を耐え切った星候補だ」
一周目での知識と経験を活かして、見込みのある連中に知識や鍛錬を詰め込んだ結果、彼らは今ここにいる。
そして本来《前回》は『ここにいるはずのない人間』がいる時点で、少なからず『因果律の歪み』は発生しているのだろうから、これ以上歪みを大きくしないためにも、適度に距離を置くことは必要な処置だった。
「そんなお前らなら、外に居場所を作るなんて、ワケねぇって」
何よりも。
俺という、介入があったとはいえ。
自らの努力で勝ち取った、自分の人生。
自分の意思でそれを楽しむのは、当然の権利だろう。
「いつかお前らだって、會を卒業して——」
「——いや! ジブンら會に、マジ誇り持ってるんで!」
「親にも見捨てられたアタシらを拾ってくれたカイチョーとみんなには、感謝しかないんで!」
しかし表情に、悲壮感すら浮かべて。
少年少女たちは、必死に食らいついてくる。
「ボスのこと、リスペクトしてるんだヨォ!」
「一生ついてくから、捨てないで!」
「……お、おぅ」
若人たちの熱気に当てられて、精神的な中年が日和ってしまった。
その時である。
「——オイこらァ! テメーらあんま、チョーシこいてんなよなァッ!?」
小さい身体の、どこからそんな。
威勢のいい啖呵が、生み出されるのか。
俺に向けられる甘えた声とはまるで違う、攻撃的なアユムの甲高いボイスが、抗議の言葉を叩き潰した。
「おにぃだってヒマじゃねーんだから、頼ってばかりのお荷物どもの面倒なんて、ずっと見てなんていられないっつーの!」
「……いや、どの口が言ってんだよ」
「……ッ、ほらぁ! ウチらだってまだまだ、おにぃのお眼鏡に適っていないんだから、テメーらごときザコどもが口答えなんて百万年早いんだよッ!」
俺の軽率な発言が。
何かしらの琴線に触れたのか。
小柄な少女が、カラフルなツインテールを逆立てる勢いで捲し立てる。
「捨てられたくないんなら、ウチらみたいにちゃんとおにぃの役に立ってから吠えろよなッ!」
「ええ、その通りですね」
俺としてはツッコミどころしかないセリフなのだが、ジンヤが恭しく追随した。
「完璧で完全に完成された兄さんの傍に、縋り付きたい気持ちは、よーくわかりますが……それならば相応の、成果を捧げることが、最低限の筋というものではないですか?」
「うんうん♡ みんな、にぃにのためにがんばろうねぇ〜っ♡」
「……ザコは、いらない」
選民思想や狂信者だけでなく、無責任に煽るハルカに、冷徹なガエルといった、幼馴染たちの暴走が止まらない。
(おいおいお前ら、そんな態度じゃあ、イマドキの若者はついてきちゃくれねぇんだぜ?)
一周目では散々と、苦々しい中間管理職を経験した俺である。
内心でやれやれと、首を振ったのだが……
「……ま、そりゃそうっスね!」
「ウッス! わっかりましたぁ!」
「うんうん、がんばりますっ!」
何故か會員たちの目は、一様に血走っていた。
(……いやマジで、この年頃のマインドって、わっかんねぇわぁ)
若者たちの感性を理解することは、精神的中年にとって難易度が高過ぎる。
「よぉし! それじゃあいっちょ、やってやりますか!」
「イエァーッ!」
「カイチョーたちがいなくても、オレたちだけで部活のひとつやふたつくらい、シメてやりますよ!」
「がんばるぞぉおおお!」
「ガチっちゃうぜぇえええっ!」
「あはっ、なんだか楽しくなってきちゃったかもーっ♡」
というか幼馴染たちの発破は、尻に火を着けるどころか、少々焚きつけ過ぎたようである。
鼻息を荒くする會員たちに向かって、慌てて声を張り上げた。
「いや、お前ら! 張り切るのはいいけど、簡単に暴れてくれるなよ? お願いだからフツーにしてろ、フツーに。仮にトラブったとしても、絶対に、會の名前なんて出すんじゃねぇぞ? つーか何かあっても俺は知らねぇし、助けたりもしないからな!」
「……ッ! イエス、ボスッ!」
「はーいっ♡」
「モチ、わかってますよカイチ……シュウくん!」
妙に威勢はいいが、絶対に理解してない返事が返ってきた。
(……まあ、もういいや。とりあえず好きにやらせてみるか)
何事も、実践してみないと。
人は学ばないし。
育たない。
失敗や恥なんて、若いうちに経験しといたほうがダメージが少ないし、回復だって早いのだ。
(俺の役割はコイツらがコケたあと、立ち直る手助けをすることだ)
少なくともそれが、大人の役目だと考えている。
「とにかく、一度入った部活を荒らしたり、簡単に退部なんかしやがったら承知しねぇからな? ちゃんと真面目に選べよ?」
「ウィーッス!」
「はぁ〜いっ!」
「で、みんな何処にする!? アタシはねぇ——」
真面目な顔で相談を始めた會員たちの姿に、ひとまずは胸を撫で下ろす。
「——で、おにぃ! ウチらはいつ、学校をシメるの!?」
「……今から?」
「やらねぇよ!?」
なんでわざわざ俺らからそんな、面倒な真似しなきゃなんねぇんだよ。
どうせ俺たちが何もしなくても、『因果律の歪み』なんてあっちから勝手にやってくるのだ。
束の間の平穏。
せめて今くらいは休ませてください。
(でもこんな濃い連中を見せつけちゃったから、ユウヤの勧誘は、やっぱ厳しいかなぁ……?)
↔︎
そんな絶望を抱いて帰宅した日の夜に、連絡先を交換しておいたユウヤから【例の件、前向きに検討させてください】というメッセージが届いたことで、俺はまたしても理解できない若者のマインドに、人知れず頭を抱えたのだった。
〈作者の呟き〉
これにて第一章は、終わりとなります。
引き続き第二章を楽しんでいただければ、幸いです。




