夜明け
大幅加筆修正予定あり
「ただいまー」
「おかえりなさい。 さっくんこんな時間まで何してたの? 連絡もないし……」
「兄さん帰ってくるの遅すぎだよっ! 事故にでもあったのかと思った……」
玄関を開けると妹の紬と母の千桜音が出迎えた。どうやら帰りの遅い朔玖を心配してわざわざ玄関で待っていたようだ。
「ごめん、聖也の補習付き添ってたら遅くなっちゃった……携帯のバッテリーも切れてて連絡できなくてさ」
「そうなの? でも、職員室とか誰かに借りたら連絡の一つくらいいれられるでしょ?」
「あれ? 涙なんか流してどうしたの兄さん……?」
「え……?」
朔玖の顔には知らずの内に流れた涙が頬を伝っていた。
「あぁ……眠すぎて涙が出てきちゃったのかな? 今日はもう疲れたからもう部屋行くね……ご飯はいらないから」
そう言って何かを隠すように早々と二階にある自分の部屋へと向かった。
「ちょっと朔玖! ご飯くらい食べなさい! 折角作ったのに全くもう……」
呼びかける母に一言も返さず部屋へと入り扉を閉めてベッドに潜る。
「聖也は今頃どうしてるんだろ……本当に大丈夫なのかな」
目を瞑るが中々寝付けない様子で何度も身体を翻す。ついには身体を起こす。そこへ扉をノックする音が入ってくる。
「……兄さんちょっといい?」
妹が声を掛けるが返事は無い。
「……入るね。もう起きてるなら何か反応くらいしてよ」
ドアが開かれ妹が入ってくるや否や文句をつけてベッドの上に座る。
「何の用……? 疲れてるからまた明日にしてほしいんだけど」
「やっぱり兄さん何か変だよ……? 何があったの?」
「何も無いし、いつもと何も変わらないよ。もう夜も遅いしつむも早く寝たら?」
「……っ! 悩んでることがあったらいつでも言ってね……おやすみ」
喉元まで出掛かった言葉を呑み込む様にそう吐き出すと妹は帰っていった。
「……友達が化け物になったなんて誰にも言えないよ」
閉まるドアに呟きながら横になろうとした。すると視界の端に光るものを捉える。携帯に非通知で電話が来ているようだ。もしかしたらと思い朔玖は通話ボタンを押した
「……もしもし聖也?」
「やぁ、こんにちは天野朔玖くん」
携帯からは見知らぬ声が聞こえてくる。いたずら電話の類にしてはタイミングが悪い。
「誰ですか……? イタ電なら切りますよ?」
「切ったら後悔するかもしれないよ? 僕は……そうだなぁ、とりあえずMとでも名乗っておくよ……それでキミの友達の冬川聖也くんについて話があるんだけど……」
「聖也に何かあったんですか!?」
「そう興奮せずに落ち着いて聞いて欲しい……聖也くんはECTに保護されて治療を受けるって事でいいんだよね? でも、そんな事はありえないし彼はこのままだと処分されるだろう」
「処分ってどういうことですか……? ECTの人は治療できるって……」
「あんなに化け物を殺してるECTに元の人間に戻す治療法なんて存在するとでも思う? 捕まった所で実験材料として使われるのがオチさ」
「そんなまさか……!?」
「そこでキミに提案がある。何があっても彼を救いたいなら今から送るものを見てほしい……まぁ、別にキミが何もしなくてもボクは彼を救いに行くけどね? じゃあまたね」
「ちょっと待ってそんなんじゃ何にもわからな……っ! 切られた」
そうして一方的に電話が切られ朔玖の携帯に一通のメッセージが届く。男の言葉に少し躊躇するが思い切ってメッセージを開いた。一つの動画が添付されており、そこには拘束されてる聖也らしき人物と風野を含む数人のECTの社員が映っている。
「聖也……!? 何か言っている音量をあげないと……これは歌……? うぅ……頭が……」
歌が脳内に響き渡ると朔玖は急に頭を押さえて苦しみだし意識を失った。
『やっと――――か――――を――――くって』
空に日が昇り小鳥達の囀りが聴こえてくる。
「……っう……外が明るい? もう朝!?」
痛む頭を押さえながら朔玖が起き上がって携帯を確認すると午前七時過ぎていた。昨日のことを思い返してみるが何処までが現実だったかも曖昧に感じる。
『やぁ、おはよう。調子はどうだい?』
「ん、おはよう……少し頭が痛くて……って誰!?」
聞きなれない声に驚き周囲を見渡してもその姿は確認できない。
『あはは、そんなにきょろきょろして何を探しているんだい?』
声の主は朔玖の様子を面白がって声を弾ませた。
「どこにいるんだ!?」
『それは言えないけど……ほら、彼を救うんでしょ?』
「……!? あんたはもしかして昨日の……?」
『ピンポ~ン、大正解! こうして繋がったって事はプレゼントは受け取ってくれたみたいだね。ほら、鏡を見てごらん……新しいキミの姿を……』
怪訝な顔をしながら鏡を覗き込むとそこに映し出されたのは雪のように白い髪と血のような真っ赤な眼をした朔玖の姿だった。確かめるようによく見ると爪も長くなり奥歯は鋭く犬歯になっている。
「そんな……! いつどこ……で」
『僕のプレゼントは気に入っていただけたかな? でも、白髪なんて珍しいなぁ……』
「ふざけんな! 誰が好きで化け物になるんだよ!」
相手の態度に意図せず声が大きくなる。
『おっと……あまり騒ぐのはまずいんじゃないかな? それに何があってもって言ったはずだよ?』
「にいさーん? どうしたのー?」
「ちょっと虫がいて驚いただけだよ! 気にしないで! ……おまえふざけるなよ」
『はははっ、キミって面白いね……ところで、もうすぐ八時になるけど学校には行かなくていいのかい?』
「こんな姿でいけるわけないだろ……っ!」
『最近の高校生はみんなそんなもんじゃない? ほら高校デビューってやつ? なぁーんて、冗談だからそんなに怒った顔しないでね? 認識を阻害しているから他の人には以前のままのキミに見えるはずだよ……騙されたと思って外へ出てごらん』
「それが嘘だったら承知しないぞ?」
『嘘吐くメリットなんてないよ? 多分大丈夫だから』
早々と着替えを済ませ部屋を出て一階に下りていくとちょうど洗面所から紬が出てきた。
「兄さんおは……よ。 どうしたのその髪と眼!? ねぇ母さん! 兄さんが不良になっちゃったよ!」
妹がこちらに気付き振り向くと同時に眼を見開いた。そのまま無言で身体を180度回転させて、とんでもないことを口にしながらリビングまで駆け込んだ。
「おい、大丈夫っていったよな!?」
『あれれ、おっかしいなぁ? 自分以外にやるのは久しぶりだったから少しミスっちゃったみたいだね。ごめんごめん、調整したからもう大丈夫だよ』
おどけた様子で反省する気は全く感じられない。
「わざとじゃないよな?」
『ボクの事を疑うの? やれやれ近頃の子どもはこれだから困っちゃうね』
「おまえのせいだろ……ッ!」
Mに苛立ちながらリビングに入ると話し込んでいた母と妹がこちらを振り向く。視線が突き刺さり、その数秒の時間が数分……数時間にも感じられる。
「おはよう、二人とも変な顔してどうしたの?」
「え!? 兄さんさっき白髪だった上にカラコンしてなかった……?」
確認するかのように妹が問いかけてくるがボロが出てはいけないと考え口を紡ぐ。
「おはようさっくん、ご飯はもう出来てるわよ? つむちゃんはまだ頭がおねむみたいね」
首に手を当て困った子ねと母が言うが朔玖の内心は焦りが出て動悸が早まる。
「つむはちゃんと睡眠取らないからだぞ? 今日は少し早く出るからこれ一つだけ貰っていくね……じゃあいってきまふ!」
「はーい、いってらっしゃい!」
「あっ、にいさん待って……行っちゃった」
パンを頬張り何かを隠すようにそそくさと家を後にした。
意識が切り離されたように心許無い足取り歩いていると市立国津北高校が見えてきた。いつものように正門を通り下駄箱で靴を履き替えていると後ろから声を掛けられる。
「おはようさっくん! 今日は早いんだね?」
「おはよう高瀬さん。昨日の事で家にいても落ち着かなくてさ」
「そっか……やっぱりあれって夢じゃなかったんだよね……わかってた、わかってたんだけど……」
朔玖の言葉で佳奈の笑顔は一転して地獄に落とされたかのように暗くなる。
「思い出させちゃったようでごめん……」
『いやぁ可愛い子だね! もしかして、この子に惚れてたりする?』
思わぬところから飛び込んできた言葉に思わず咽る。
(バカ! こんな所で急に喋るな!)
『ボクの声はキミ以外には聞こえないって、言ってなかったっけ?』
「さっくんどうしたの……?」
「なんでもないよ……とりあえず教室に行こっか」
そのまま二人で教室に向かうと教室の前で佇んでいる卓郎がいた。
「おはよー! 朔玖と佳奈ちゃん」
「おはよう卓郎くん」
「おはよう卓郎……何でそんなとこでつったってんの?」
「そんなの二人を待ってたからに決まってんだろ? 言わせんなよ恥ずかしい! ほら、二人がちゃんと学校に来るのか心配だったからさ……」
卓郎なりに昨日の事を気にしていたのだろう。長い時間待っていたのか足は小刻みに震えている。
「はぁ……お前はまず他人の心配よりその貯めに貯めた脂肪を心配しろよ……成人病になるぞ?」
茶化すように朔玖は口を開き、卓郎の肩を叩くとそのまま自分の席に着いた。
「心配してくれてありがとね卓郎くん……私も大丈夫だよ!」
佳奈も昨日の話題を避けるかのように席に向かう。
『う~ん、太った彼って友達想いのイイコだねぇ……でも、あのネクタイピンはもしかして……』
(黙ってろよ……今はお前と話す気分じゃない)
『はいはい、反抗期のお子様は怖いねぇ……』
どこか上の空のまま授業を聞き流し一時間、二時間と過ぎていき気が付けばもう帰りのHRが終わろうとしていた。
「――――との事だ……では、九条終礼を頼む」
「はい、起立……礼!」
年頃の女の子にしては低めの凜とした声で九条が終礼をすると一人、また一人と教室から出て行く。その視線は一瞬朔玖を向いていた気がしたが多分気のせいだろうと気にも留めないまま鞄に教科書を詰めていく。
「さっくん、あのね話があるんだけど……」
朔玖が帰りの支度をしていると佳奈が声を掛けてくるが聖也の事が気掛かりで構っている余裕は無い。
「ごめん、今日は用事があるからもう帰らないといけないんだ」
「あっ……さっくん……」
佳奈が言葉を漏らし出しかけた手を引いて悲しげな表情を浮かべ朔玖を見送った。
『おやおや……いいのかい? あんな可愛い子を放っておいて』
(今は聖也の安否を確認する方が優先だろ)
『ん~、恋愛より友情か……それとも男の子が好きだったり?』
(……お前は本当に協力する気あんのか?)
『ごめんごめん! ……今から二時間後にECTの本社に向かうといい……ちょうど聖也くんの方の準備も終わるだろうからね』
(……それならこのまま向かった方がいいか……言っておくけどお前の事完全に信じたわけじゃないからな!)
逸る気持ちを抑えながらも、ECTの本社ビルに向かう。市の中心に見られる長大な建造物……木々の中で唐突に現れたかのように聳え立つその姿は何処か異質に感じる。
長い道程を歩いて、やっとの事でビルの真下まで辿り着くが何故か身体に疲れは見られない。これも終人になった恩恵だろうか。落ち着くために呼吸を整えエントランスに入る。
「こんにちは! 当社にどのようなご用件でしょうか?」
どうしていいかわからず受付の前に立つと受付嬢が話しかけてきた。その声にどうすればいいかと俯く。
『……面会を頼めばそのまま通してくれるはずだよ』
朔玖の考えを察してか助け舟を出すかのようにMが話しかけてきた。考え込んでいても他の案が思いつくはずも無くその案に乗る事にした。
「えっと、友人がこちらで治療を受けていると聞いたのですが、お見舞いにいきたくて……」
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか? 天野朔玖様ですね? 確認致しますので少々お待ちください……ええ、例の件で……よろしいんですね? 確認が取れました……すぐに係りの者が参りますので、椅子に座ってお待ちください」
そう促され椅子に座って待っていると数分も経たぬ内に綺麗な女性がこちらに向かって歩いてきた。
「宮島有理です。 貴方が天野朔玖くん?」
その姿に一瞬見惚れてしまうが、はっと我に返る。
「はい、それで聖也の様子が気になってきたんですが……」
「聖也くんか……本来なら面会謝絶にするところなんだけど……今回は特別ね」
こっちよと言う有理に続き、そのままエレベーターに乗る。
「何か聞きたい事はある?」
63階のボタンを押し有理がそう問いかける。
「……終人って一体何なんですか? どうしてECTが戦っているんですか?」
あんな化け物に政府や自衛隊が対抗せずに民間企業が動いていると言う事に違和感を感じる。それに自分がそんな化け物になった今では終人に対する情報が少しでも欲しいと考えそう問いかけた。
「少し長くなるけどいい?」
朔玖がこくりと頷くと有理は沈痛な面持ちで口を開いた。
「終人はあるものによって影響を受けて遺伝子が均衡を崩し人が変異した存在。そんな彼らに憐れみを込めて人であることを終えたもの……終人と呼んでいる。
その発生源こそ未だに特定出来ていないけど、ただ一つだけ言える事は彼らが何者かによって作られた存在であるということだけ……そう誰かの悪意によって彼らは生み出された」
「悪意……」
「彼らを最初に見つけたのは五年前の集団失踪事件……当時、ECTは警察の協力要請を受けていた……失踪者の大体の位置は通信履歴とGPSから割り出すのは簡単だった……でも、それを見つけてしまった事で悲劇が始まったの。
ECTの通信技術部門と警察の機動隊がその場所へ捜索に向かうも数名を残して壊滅……そして、生き残りである村上孝助はその件を本社に報告し、ある実験を始めた……そう自分自身を終人にするという悪魔の実験をね……それによって何が起こったかは末端である私にもわからないけど、その責任を取らされて防衛省管理下でECTに対終人対策部門が設立された」
「……その実験をした人って今どうしてるんですか?」
「今何をしてるかわからないけど生きてるわ」
『生きてるか……確かに生きてるね……あはははは!』
何がおかしかったのかMの狂ったような笑い声が頭に響く。
そうこうしてるうちにエレベーターが止まり表示板が点滅した。目的の階に着いたようで左右に扉が開き始める。
「着いたみたいね……行きましょうか」
二人はエレベーターを降りて聖也の所へと足を進めた。
Data
天野朔玖
Age 16
Blood O
Weapon Unknown
Capa 90
Speed 380
評価や感想を戴けると喜びます。
随時加筆の可能性があります。




