偶然
後日修正します。
「初めて来たけど思ったよりでけぇな……」
「りっちゃん言葉遣い気をつけようね?」
「あっ、ごめんなさい」
つい素が出てしまった律を朔玖が注意すると上目遣いで謝る。その姿のあまりの可愛いさに朔玖の心は抉られた。
(どうしよう律さんが可愛すぎる……)
「ん、何か言ったお兄ちゃん?」
「ううん、気のせいだよ? りっちゃんはどこへ行きたい?」
「えっとね、ゲームセンターに行ってみたい!」
「ゲームセンターか……それなら確かこっちだったっけな」
ゲームセンターに着くと律はUFOキャッチャーの前で立ち止まりクマンタという熊のような謎の生物の大きいぬいぐるみを食い入るように見ている。
「りっちゃん? それがほしいの?」
「そんなわけ……ないよ。たまたま目に付いただけだよ」
「そっか、僕はそれ欲しいからちょっとやってみるね」
朔玖がお金を取り出し六回分の金額を投入した。最初の操作は上手くいかずぬいぐるみの横を掠めるだけだった。次にぬいぐるみをアームが掴むもアームの力が足らずにぬいぐるみは元の位置に逆さに落ちてしまう。
「あぁぁぁぁ……落ちちゃった」
律からは既に諦観の念が透けて見えるほど落ち込んでいる。そのまま三、四、五とぬいぐるみを掠めて向きが若干変わった程度で終わる。いよいよ残った最後の一回、それを律は祈るように手を合わせて見つめている。アームがぬいぐるみの少し左で止まり下降していくのを見て律の心は絶望にとらわれる。しかし、アームはぬいぐるみのタグを引っ掛けて手前の景品落とし口まで辿り着きぬいぐるみが落ちていく。
「やったぁぁぁぁあああ! あっ、お兄ちゃん良かったね……」
律は大喜びでぬいぐるみを取り出すが自分のものではない事に気付くと名残惜しそうにしながらも朔玖に渡そうとする
「いや、これりっちゃんにあげるよ。元々あげようと思って取ったから」
「えっ? ありがとう……じゃなくて別に欲しくなんかないけどお兄ちゃんのプレゼントなら大切にするね!」
律は満面の笑顔でぬいぐるみを大事そうに抱きかかえる。対戦格闘ゲームのタイトルが視界に入ると急にその列に律が入っていく。
「これやるの?」
「面白そうだから……ダメかな?」
「もちろんいいよ」
上目遣いで甘えるように問われると何でも許してしまい即座に許可してしまう。程なくして律の順番が回ってくると律は椅子に座りぬいぐるみを膝の上へ乗せると獰猛な笑みを浮かべた。
「なんだ、この動き初心者か? ステキャンも出来ないとか舐めすぎだろ? 雑魚乙」
台の向こう側からは律を罵るような言葉飛んでくるが拙いながらも冷静に一つ一つの攻撃を避けていく。
「はぁ? 雑魚の分際でちょこまか逃げ回ってんじゃねえよ」
相手は更に猛攻を重ねて律を追い込もうとするがそのせいで大きな隙を作ってしまう。そこへ律が格闘を数発当てて倒れさせた。
「はいはい、わざと殴らせてあげただけだから調子乗んなよ」
相手がそんな事を言うが起き上がりを攻められ何も出来ずにまた倒れてしまう。それを数回繰り返すと画面には完全勝利の四文字が浮かび上がってきた。
「おおっ、やるねぇお嬢ちゃん!」
「あいつ煽ってて負けるとかだっせぇやつ」
周り人達が律を持て囃すと何かを叩きつけるような音が台の向こう側から響いた。そちらから茶髪の男が苛立ちながら歩いてきて律を睨みつけた。
「んだよ、クソガキじゃねえか! てめえみてえな素人のカスが人様の百円無駄にさせてんじゃねぇぞ!」
怒りながら律に向かって男が手を振り上げる。朔玖は咄嗟に男の足を掛けて地面に引き倒した。そうしたのも律の身体からは殺気が溢れ出ていて対処を任せたら相手を殺しそうな気がした為だ。
「なにしやがんだてめえ! ぶっころされてえのか!?」
「そっちから手を出してきて何を言ってるのかな?」
「おい、喧嘩だぞ! 誰か警備員さん呼んできて!」
朔玖と男が睨み合っている間に騒ぎを聞きつけた警備員と店員がすぐに駆けつけてくる。
「君達やめなさい! これは一体どういう状況だ?」
店員がそう言うと状況が悪いと判断したのか男が逃げ出そうとする。しかし、律がその手を掴み逃げられなくする。
「お、いはな、せ!」
(逃げていいと思ってんのか? 殺されないだけ有難いと思えよクソガキ)
律が殺気を放ちながらドスを利かせた声で囁くと男は膝を落とし身を震わせる。その股下は湿りアンモニアの香りが微かにする。
「こいつ漏らしやがったぞ……きたねえ」
「お兄ちゃん怖かったよぉ……」
律が怖がっている演技をして泣きながら朔玖に抱きつく。それに応える様に朔玖は律の身体を包み込むように優しく抱き寄せた。
簡単な事情聴取が終わると男が悪いとわかり二人はすぐに解放される。
「お手数を取らせました。こちらはすぐ近くのアイスクリームの無料券になっておりますので是非お使いください」
「いえ、こちらこそ騒ぎを起こして申し訳ありません。有難く使わせていただきますね」
店員から受け取った二枚の無料券を使ってアイスクリームを買ってベンチに腰掛ける。
「はぁ、失敗した……やっぱりチョコミントよりも抹茶にしとけばよかった」
チョコミントが思ったような味をしていなかったのか律が物欲しそうに朔玖の抹茶アイスを見つめてくる。
「いや、そんなに見つめられても……一口食べる?」
「いいの? お兄ちゃんありがと!」
その視線に耐えかねてアイスを差し出すと律はそれを受け取って美味しそうに舐める。満足したのかすぐにそれを返すとチョコミントアイスを見つめながら何かを考えている。
「お兄ちゃんから一口貰ったから私のもあげ……やっぱりダメ!」
朔玖に一瞬チョコミントアイスを差し出そうとするが律の脳裏に間接キスの四文字が浮かび上がると手を引っ込めた。既に間接キスという意味では朔玖のアイスを食べた時点で手遅れだという事に気付くと顔は赤くなり茹で上がったように湯気が出てくる。
律のおかしな様子を見て朔玖がどうしたのだろうと考えながら自分のアイスに口をつけようとする。しかし、律が焦りながら朔玖のアイスを奪還しそれを防いだ。
「え? もう一口食べたよね?」
「うるさい! どっちも私が食べる!」
大きく口を開いて律がアイスを仕舞いこむように運び込むとすぐに消えていく。
「全くもう……そんなにアイスを食べたらお腹壊すよ?」
「私は丈夫だから平気だもん!」
律が強がりを言っている後ろに聖也に良く似た人影を朔玖は見つける。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「いや、友達が歩いてた気がしたけど多分気のせいだよ。さて、次はどこにいこっか?」
律と楽しい時間を過ごしていると次第に日は暮れていき、あれだけいた人もまばらになっていった……。
Data
荒らしの木村
Age 26
Blood AA
Weapon 灰皿
Capa 0
Speed 60




