束の間の休息
加筆修正予定あり
「うん、これならもう大丈夫そうだね」
「こんなに長引くなんて治療の仕方が悪いんじゃねぇか?」
任務から数日も経つと律の怪我も殆ど目立たなくなり行動に支障が無い範囲まで回復した。
「はぁ……それは律が毎日朔玖くんを連れ出してやんちゃしてるからでしょ? 逢引してるのかと思ってこっそり見ていたのに残念だよ」
溜息を吐き呆れた顔で戒人が律の顔を見つめる。
「はぁぁぁぁ? お前覗き見してたのか!?」
「当たり前じゃん。患者を管理するのは医者の務めだよ?」
律が睨むが戒人はそれを軽く流し機材を片付け始めた。
「今度はそんな大怪我しないように気をつけるんだよ。それと怪我が癒えたんだから身体を鍛えるばかりじゃなくて第三世代の構築も頼んだよ?」
「はっ? 今回の任務は第三世代の為の刃核を取りに行くのが目的だっただろ? 私達は何も持ってきてないぞ?」
「村上さんが三つほど調達したみたいだよ。研究室に置いてあるからそれじゃあね」
帰り際にそう言い残し戒人は去っていく。
「三つも……それなら第三世代だけじゃなくて複合型の研究もできるな。とりあえず研究室に行ってから考えるか……」
引き出しにあった資料を取り出しながらそう呟いた。律が研究室に行くと大小の丸く白い宝石のようなものが並べて置かれていた。白衣を纏い律はその傍まで寄って確認しながらレポートを取る。
「この大きい刃核は初めて見るやつだな。これは分析してから考えるとして……こっちのやつを使って第三世代を……」
律が小さな刃核の一つを機械の中に入れて謎めいた薬品を加えていく。
「思ったよりも反応は薄いか? それならこっちを使って……」
そうして試行錯誤を重ねていくと刃核は様々な色に変化していった。
「これじゃ第二世代と変わらないな……一体何が足らないんだ?」
口に手を当てて考え込むが頭に浮かんでくるものは何も無い。
「――――ちゃん」
声が聞こえ律がそちらに目をやると紅茶を片手に持った村上が椅子に座っていた。
「おっ、ようやく気付いてくれたみたいだね。ボクが来てから五時間はそうしてるけど休憩を挟まないと身体に毒だよ?」
「何だ村上か……やっと刃核が手に入ったのに思ったようにいかなくてな」
「まっ、時間ならまだまだあるからそう急ぐ事もないよ。そうだ、たまには息抜きに朔玖くんでも連れて外に遊びに行くのはどうかな? 良いアイデアが思いつくかもしれないよ? ということで早速呼んでくるね」
紅茶を飲み終えると村上は朔玖を呼びに行ってしまう。
「おい、余計な事す……るなよ。ちっ、行っちまったか……大体何で朔玖と遊びに行かないといけないんだよ……そんなんじゃまるでデートじゃねぇか……いやいや、違う違うあいつはまだ餓鬼だし興味なんかこれっぽっちも」
律がそうこうしていると扉の開く音が聞こえ村上と朔玖が研究室に入ってきた。朔玖が視界に入ると律の顔は火を噴きそうなほどに赤くなる。
「ほら、望みの通りに朔玖くんを連れてきたよ?」
「べ、別に頼んでねぇだろ! それに朔玖だって出掛ける気なんてねぇよな……?」
朔玖の顔色を窺いながら恐る恐る律が尋ねる。
「ここにずっといても息が詰まるし外に出るのもいいかなって思ってたんですけど……律さんは嫌なんですか?」
朔玖がきょとんとした顔でそう返すと律の頬が少し緩んだ。
「そっか、まぁ朔玖がそんなに行きたいって言うなら仕方ねぇな」
顔を隠すように背を向けてそう言うが、その声には嬉しさが滲み出ている。
「あっ、言い忘れてたけどカモフラージュしてもバレる可能性があるから律ちゃんはこれを着て妹の振りでもしててね。それじゃボクは大切な約束があるからお暇するよ」
可愛らしいワンピースを律に手渡して村上は幻のように消えていく。それを受け取った律はわなわなと震えている。
「こ……こんなもん着れるかぁぁぁあ! あいつ力まで使って逃げやがって……あとで絶対に報復してやる!」
「まぁまぁ落ち着いてください……律さんならきっと似合いますよ」
「そんなこと言っても絶対に着ないからな! 準備してくるから居間で待ってろ」
朔玖が喚き散らす律を宥めると不機嫌な顔でワンピースを手に持ったまま部屋に帰っていく。
朔玖が居間に着いてから、しばらくが経つとこちらに誰かが歩いてくる音が聞こえそちらに視線をやった。
「待たせたな……変じゃないか?」
そこにはワンピースを着た美少女がいた。いつもの姿からは想像もつかないほどの変わりようで朔玖はそれが律だと気付くのに少し時間が掛かった。
「え……律さんですよね?」
「やっぱり変だよな。着替えてくる!」
朔玖が戻ろうとした律の手を掴んで引き止める。
「待ってください! えっと、そのワンピースすごく似合ってて可愛い……です」
「……!?」
思わぬ不意打ちに律の顔は一気に朱に染まり顔を俯けた。
「わ、わ、私が可愛いなんて朔玖も冗談きついぜ?とりあえず出掛けるか」
「冗談なんか言ってないですよ。律さんは誰がどう見ても可愛いです」
「……もういいから行くぞ!」
律は照れながら朔玖の手を引っ張り外へ連れ出す。手を繋ぎ歩いているとあっという間に森を抜けてしまった。
「外へ出てきたのはいいんだけどよ……朔玖は行きたい所はあんのか?」
「うーん、特にはないですけどエオンモールなんてどうですか? あそこなら色々なものがあるし息抜きにはぴったりだと思うので」
「そうか? とりあえずそこに行くか」
朔玖の提案に乗ると律は携帯の地図アプリを開いて場所を確認する。
「あっ、今の内に口調を直しておいた方がいいんじゃ?」
村上の言っていた事を思い出して朔玖がそう言うと律は考え込みながら唸る。
「ぐぅぅ、止むを得ねぇか……口調ってこんな感じでいいかな? お兄ちゃん! あれどうしたの?」
「……なんでもないよ。じゃいこっか」
律の言葉が僅かに妹の影と重なり朔玖の心に僅かな動揺を誘った。
二人が当たり障りのない話をしながら半刻ほど歩いていると人の数が増えていき目指していたエオンモールが見えてきた。
Data
日斗辺律
141㎝
32kg
天野朔玖
159cm
46kg




