臨界
一進一退の攻防が続いていたが唐突にそれは終わりを告げる。ようやく届いた村上の刀が女の左手を掠めたのだ。それによって指を数本駄目にしてしまった女は杖を落とすが、焦る様子もなく遠くを見つめている。
「もうそろそろね」
「何を待ってるのか知らないけど、チェックメイトだよ」
「そうね、これでチェックメイトよ……貴方がね。
さぁ、来なさい私の子らよ!」
村上が女の首を跳ねようとした瞬間狼を数倍大きくしたような化け物が村上に襲いかかる。それを防いだ結果として女の命を奪い損ねてしまう。その化け物を切り伏せるとそこら中から様々な化け物が湧いて出てくる。
「いやいや、こんなのチートでしょ?」
「その男達をゴミ屑みたいに蹴散らしなさい」
女の言葉に反応し化け物共は村上とアルツグリットに対して己が身を武器とし突っ込んでいく。
「いくら強くないとはいえこの数の……化け物はキツすぎ……るって!」
「まさか獣に力を与えるとはな」
一体一体の力は程度が知れていても疲弊しきった身体の上に囲まれていては分が悪い。身体は削られゆるやかに死に向かっていく。
「あはははは! 私に逆らうから悪いのよ?」
女は狂気に満ちた表情でさらにダメ押しとばかりに数本の剣を出現させて二人を狙う。
「青年よ、まだ逃げれる余力はあるな?」
アルツグリットは何かを覚悟し真剣な眼差しで問いかける。
「あの女が何もしなければだけどね?」
「そうか、それなら今すぐこの場から離れなさい……出来るだけ遠くにな」
「お爺さん一人じゃ無理だと思うけど決意は固いみたいだね……もし生きてたら一緒に紅茶でも楽しもう」
アルツグリットの身体が輝き放ち始めるとそれに女の眼が奪われる。
その隙に村上は幻影を残し退いていく。
「まさか!? やめなさいッ!」
女が慌てて止めるが、輝きはより強くなっていく。
「逃げなくていいのか? 今ならまだ逃げれるかも知れんぞ?」
「……」
言葉を返さず女は顔を歪めながらアルツグリットを睨みつけた。
「その様子だと余力を残さずに力を使っていたようだな。この距離なら貴様もただでは済むまい」
アルツグリットの身体が崩壊を始めると同時に光が周囲を呑み込んでいく。光の濁流は数キロにまで及び遅れて衝撃音が届くと爆風は砂を巻き上げ周囲のあらゆるものを吹き飛ばしていく。
「うわぁ」
「むっ、何が起きた? 村上は無事なのか?」
朔玖と真浦はバランスを取って衝撃に耐えて険しい顔で爆発した場所を見つめた。
「おっ、いたいた! 二人ともこっちだよ!」
村上が声を掛けながらこちらへ向かってくる。
「村上生きていたか! 今の爆発は何だ?」
「わからないけどお爺さんが何かしたんだろうね。こちらも色々聞きたい事があるけど、とりあえず律ちゃんの身体も心配だし早く帰ろう」
富士山から出て村上の車に一同は乗り込んで帰路についた。
「あっちに着く前に一つだけ聞いてもいいかな?」
車を運転しながら村上が問いかける。
「何が聞きたいんだ?」
「あのお爺さんとお嬢さん達って一体何?」
「あれは俺様達を化け物に変えたやつの類だ」
「そうなんだね……詳しくはあっちについてからにしようか。二人とも疲れただろうから眠ってていいよ」
バックミラー越しに考え込む村上の姿が見えた。
「起きて! もう着いたよ」
目を覚まし朔玖は気怠けに身体を起こし律を抱きかかえて車を降り隠れ家に入っていくと戒人が入り口で三人を出迎えた。
「おかえり! こんな酷い怪我を……すぐに医療室へ連れてこう」
「わかりました」
朔玖が律を抱きながら戒人の後をついていく。
「それじゃ律をここに寝かせてくれる?」
戒人の指示に従い朔玖が律をベッドの上に寝かせる。戒人は律に呼吸器や様々な医療機器を取り付け生体情報モニタを確認している。
「呼吸は安定しているし心電図と血圧も異常は見られない……となると外傷が治癒すれば問題は無いか? いや、一応傷口を消毒して目を覚ますまで経過を見ていた方がいいかな」
ぼそぼそとした声で早口で戒人は言って朔玖の事は既に視界にすら入ってないようだ。
「あの……律さんは大丈夫ですか?」
「あっ、すっかり忘れていた……多分大丈夫かな。後は見ておくから朔玖くんはもう自分の部屋に戻っていいよ」
自分の部屋に戻り朔玖はベッドに寝転がり物思いにふける。
(全然何もできなかった。あの時僕がしっかり動けてさえいれば律さんが怪我を負う事もなかったのに……クソッ)
悔しさと怒りが入り混じりベッドを殴りつける。
「もっと力さえあれば何もかも守れるのに……そうすれば聖也だって」
済んでしまった事は後悔しても仕方が無いとわかっているのにああすればこうすればといった考えが朔玖自身を責め続ける。空を掴み固く拳を握り血が滲み出るほどに爪が皮膚に食い込んでいく。
悩んでいる朔玖の視界の端に人影がちらつき起き上がる。
「村上? ノックも無しに何しにきたんだよ?」
「ノックなら何度もしたけど……気付かないくらい考え事に夢中になっていたのかな」
「うるさい。少しぼーっとしてただけだよ」
村上の言葉に投げやりに答えまたベッドに寝転んだ。
「何でもいいけど少しキミに話があってね。単刀直入に言うけど朔玖くんはボクらに何か隠している事がないかな?」
村上が訝しげに問いかける。
「隠している事? 僕を疑っているのか……?」
「正直に話してくれると助かるんだけどね。キミは刃核すらないのに琥珀色の瞳をしているし他にも不自然な点が多いんだよ? なりたてでそれほどの力を持っているのもおかしい」
「どう見ても真っ赤だろ? それに力の多寡なんて僕の知ったことじゃない」
朔玖が確かめるように鏡を覗くと雪のように白く輝く髪と赤い瞳が映る。
「今は確かにそうだけどね。まぁ知らないっていうならそれで構わないよ……邪魔をしたね」
村上はそう言って部屋から出ていった。
「あんたの方が隠し事ばかりじゃないか」
扉を見つめながらそう吐き捨て朔玖は眠れない夜を過ごした。
朔玖の部屋から出た村上がマシューの所へ行くと九条がマシューに刃核の使い方を教えていた。
「オマエノオシエカタダメ! ワカリヤスクオシエロ」
「これでもわかりやすく教えてる! ズバッて力を込めてそれを開放しながらスパンで何故わからない?」
どこにもわかりやすい要素を感じられずマシューは唸りながら試行錯誤している。
「いや、それでわかるのは雅ちゃんだけじゃないかな?」
「あっ、考兄帰ってきて……たの? 全身傷だらけじゃない!?」
九条が駆け寄り村上の怪我の具合を確かめる。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「心配するに決まってるでしょ! 昔から考兄は無茶ばかりするんだから……っ」
泣きそうな顔で九条が村上に抱きつく。村上は優しくその頭を撫でるとはっとした顔で口を開いた。
「そうだ、雅ちゃんって朔玖くんのクラスメイトだよね?」
「うん、そうだけど」
村上の質問の意図がわからず九条は首を傾げる。
「彼にどこか変わってる所って無かったかな?」
「あれ? 確か直接考兄が身元から全部調べたんじゃなかったっけ」
「ボクが調べた結果では何も出てこなかった……だからこそおかしいんだよ」
「ごめん考兄、私は彼と特別親しかったわけじゃないから……」
「いや、いいんだ……少し外の風を浴びてくるよ」
外に出た村上は煙草を取り出し火をつける。
(あと少し……あと少しでわかりそうなのに……)
吐き出した煙草の煙は風に揺らめきながら夜の闇に溶けていった。
Data
アウル・エマ
Age Unknown
Blood Unknown
Weapon イミテーション
Capa Unknown
Speed Unknown




